流れる平穏に戯れ
お花見に行ったその夜の出来事
「まったりするのも、悪くないでしょ?」
桜は程よく開いていて。
そこかしこに、可愛らしい蕾もあって、時折、散っているようにも見えるのは、そういう時期が来た訳ではなく、鳥の仕業。
根元の甘い蜜を吸って、残った花をぽとりと落としたものらしい。
そんな、落とされた花から、なるべく色が綺麗そうなのを選んで。
拾い集めて家に戻ってから、ガラスの器に水を張り、浮かべてテーブルの真ん中に置いてみた。
これも悪くない。
「そういうところは、女の子だなあ」
「どういう意味よ」
「べっつに……ああ、俺ちょっと横になるわ」
ごろんと、寝転がった勅使河原さんは、あっという間に寝息を立てていた。
「はやっ」
「……飲みすぎぞ」
「なるほど」
溜息交じりの木崎さんの声に頷いて、それでも一応気になったので、そこらにあった上掛けを掴むと、勅使河原さんにかけて。
それから私も、木崎さんの座る向かいに腰を下ろした。
「そういう木崎さんだって、結構飲んでなかった?」
「こやつと一緒にするな」
首をしゃくって、勅使河原さんの方を示して、不機嫌そうに木崎さんは言う。
この二人、見ていて面白い。
勅使河原さんの方は、マブダチって勢いだし、木崎さんは大抵迷惑そうにしていて。
でも、気が合わないって訳でもなくて。
多分、お互いをきちんと理解しているんだろうな。
性格を把握しているというか、相手の踏み込んでいいところが何処までなのかをわかっていて――だからこそ、勅使河原さんは、本当に木崎さんを激怒させるような事はしないし、木崎さんも口では色々言うけれど、勅使河原さんを信用しているように見える――必要と思ったら手を出す。
その加減が、絶妙なんだ。
だからなんだろうな。
喧嘩していても、安心して、放っておけるというか。
笑って見ていられる。
「何を緩んだ顔をしておる」
「へ?」
気が付くと、木崎さんがじっとこちらを見ていた。
「笑ってた? 私」
「へらへらとな」
「それは余計だよ」
全く、乙女の顔にへらへらって……口が悪い事この上ない。
「流れる平穏に戯れる毎日がいいなって思ってた」
「は?」
訳が分からない、という顔をして。
それから、少し難しい表情になって、木崎さんが手を伸ばしてきた。
「な、何!?」
「熱はないようだな」
ひんやりとした掌が、すっと額に当てられる。
「あ……」
気が付けば目を閉じていた。
なんだろう。
心地よい、温度も感触も。
すっと離れる手が、惜しいと思わず考えてしまうくらいには。
「どうした?」
はっと我に返った。
「何でもないよ」
「今度はぼんやりとして……やはり調子が悪いのではないか?」
「違うっての! 大体なんで具合悪いとかいう発想になる訳?」
「発言が耳慣れぬ」
「どういう意味だよ」
全く、二人揃って。
人をなんだと思ってる。
溜息をついた。
「君ら二人は、私をなんだと思ってるんだろうね」
「あやつの考えは知らぬが」
また首をしゃくって、木崎さんは、其処で寝ている勅使河原さんを示して。
「私のなら聞かせる事はできるが」
「うーん、それは」
聞いてみたいような、聞いてみたくないような。
聞いたら最後、口よりも先に手が出てしまいそうな。
「あらかじめ聞いておきたいんだけど」
「何ぞ?」
「客観的に見て、その内容って、怒られそう? それとも、へえーって納得されそう?」
「ふむ」
腕組みをして考え込む木崎さん。
「私は納得しているが、そなたも同じとは限らぬな」
「そんなあいまいなんじゃなくてさ」
「試しに聞いてみればよかろう」
「ううむ」
今度は私が腕組みをする番だった。
(2011/4/7)