同居する事の、いい面と悪い面
人がいるってのは鬱陶しい事もあれば、ありがたい事もあって。
「掃除機かけるから」
号令をかけて、スイッチ稼働。
たまにはこうして、大掛かりに掃除しないと、流石に三人もいると、いるだけでも、埃が増えてくる。
「都は綺麗好きな方か?」
勅使河原さんに聞かれたけど、絶対違う。
そもそも綺麗好きならこんなに色々貯めてないよ。しぶしぶやってるだけ、くしゃみ出るから。
そんな会話をしつつ、それでも雑巾を手にした勅使河原さんは、棚の上を拭いてくれていたりする。
埃取りのモップとか、カーペットを掃除するぺたぺたしたシートのついたクリーナーだとか。なんだか面白そうに、掃除グッズをしげしげと観察してた。
一体何が、彼の興味を引いたのかな?
「そんなに面白い?」
「ああ、なんか応用できねえかな」
そもそも何に応用するのかとか、疑問は次々に湧いて出るけれど、勅使河原さんは、発明というか何か作る事が大好き。この発想を聞いていたら日が暮れるので、今日はとりあえず、追及はやめておくとして。
……。
そう。
この家にはもう一人いましたね。
さてそのもう一人である木崎さんは、でんと陣取った椅子の上、のんびりと何やら読んでいたりとか、埃のもうもうとしてる中で、平然とお茶していたりとか(注意:コップや湯飲みではなく、ペットボトル使用です)。
ぼんぼんらしいというのか。
ああまた、優雅にペットボトル傾けて。
なんか、そうしてる様子を見ていると、手伝えっていう気もそがれるけどね。
「結城」
「何?」
「そろそろ終わらぬか?」
「……まだだよ」
顔を上げもせず、何か本読んでる。
図書館の存在を知ってから、木崎さんは色々な本を借りてきて読み始めた。曰く、情報収集の一環だそうだ。
ビジネス系から始まって、娯楽小説や歴史の本とかも見ている。分厚い哲学書や、物理化学の本なども、表情一つ変えずにあっさり読んでしまうので、本当に頭に入っているのかと以前質問してみたが、反ってきた答えが難解すぎて此方がわからないという落ちに、それ以来、本についての質問はやめた。
それでもまあ、勅使河原さんの手伝いもあって(とはいえ彼は、何か興味をひかれると調べ始めて納得するまで終わらないので、引っかかると大変なんだけど)今日の掃除は終わり。
しばらくはやらなくていいなこれ。
「おなかすいた」
時計を見上げれば、ご飯時。
こういう時に、作っておいたよ、とかそういう声があると、すごく感謝するんだけど、そんなの期待できる訳もなく。
「今日は何味にする?」
先日の私の風邪騒動の時の買い置きレトルトの在庫からがさがさと探しだし、各々好きなものを選んでお昼ご飯。
なーんて、言っていると。
一緒に住んでいるのって、手がかかるばっかりみたいだけど。
「……ただいま」
仕事が遅くなった時。ドアを開けると明るい部屋は、ちょっとだけ嬉しかったりする。
「おう、お帰り」
「……フン」
それぞれの、挨拶(挨拶らしき、というのもあるが)を受け、上がる室内は、なんだか暖かくて。
「都も飲めよ」
「は?」
何故かテーブルの上に転がる缶ビール。
「何あんたら飲んでる訳?」
「まあ理由はねえ」
「酔っ払いの理屈かよ!」
少し赤らんだ顔で愉快そうに笑う勅使河原さんに、此方は全く普段と変わらない木崎さん。
着替えもそこそこに、引きずり込まれて、ぷち宴会。
全く何やってるのかね、という気分と、ま、いいか、という気分と。
くだらない話にゲラゲラ笑いながら時間はあっという間に過ぎて。
すっかりいい気分で転がってる勅使河原さんを踏まないように、窓際で月を見ている木崎さんの横に行った。
「星も出てる?」
「ああ」
木崎さんの手には、何時の間にかお酒ではなくて、普通のお茶。
どうやらあまりお酒は好きじゃないみたい。付き合い程度には飲むけれど、という感じがする。
二日酔いで唸る勅使河原さんは見た事あるのだけど(それだって滅多にある事じゃない、ざるなんてもんじゃないくらいに強い)、木崎さんにはそんな様子もない。
「静かだね」
「そうだな」
さっきまで騒がしくしていたのが、嘘みたいに静か。
何時もならば、この落差、寂しくなっていたかもしれない。
でも。
「不思議だねえ」
「何が、だ?」
「いや……」
言えなかったのは。
この状況にすっかり慣れた――むしろ、彼らがいるのが当たり前になってしまった、自分の心情。
(2011/3/22)