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月夜の晩に

ようやく風邪も癒えてきました。

カーテンの隙間から、明るい月。

満月でもないのに、やけに眩しい。

寒い所為かな? 空気が綺麗だから、きっと、月が明るく感じるのに違いない。怖いような美しさと思うのに、目が離せない。

怖いもの見たさ?

いや、ちょっと違うだろうか。

そんな事を考えていれば。

ふと。

すぐ後ろに、気配。


「ぎゃああああ!」


平謝りだった。

「全く」

木崎さんは呆れ顔。

さっきまでは、耳がガンガンすると、片耳に人差し指を突っ込んで、盛大にしかめっ面していた。

最初は多分、いや間違いなく怒っていたんだろうけど、今はどう見ても呆れているとしか思えない。

そんな状況にちょっとだけ安心する自分もどうかとは思うが。

でも、ね。


「フィクションに毒されすぎぞ……」

「でも、後ろから音もなく近づくって、ついそういうの想像しちゃうじゃん」

首筋に空気が当たって、思わず叫んでしまったけど、それって、木崎さんが、私の肩に、そこらにあった膝掛をかけようとしてくれたからだった。

それで空気が動いただけ。

勅使河原さんもそうだけど、木崎さん、結構音もなく行動するから。

視界に入っていればそれでも、大した問題じゃないけど、いきなり背後取られるのは流石に驚くっての。

吸血鬼かなんかかと思った、そう言えば。

甚く不快な様子で。

「血等、欲っさぬわ」

びしぃっと音がしそうなくらいに、深く刻まれた眉間の皺。

確かに、発想がまずかったのは認める。

うん、そうだよね、この間の風邪を見ているから、冷やすのはよくないだろうと、木崎さんなりに考えてくれたわけだし。まずはありがとうと言うべきでした。


「……でも」

そういえば、魔界の主食って、何だろう。


木崎さんも勅使河原さんも、食事に関しては、あっさりこちらのものを、何の疑問もなく口にしてる。

そりゃあ、時々、これはなんだ? という反応はするけれど、出されたものに関しては、食料という範疇で解釈してる。

「大きくは変わらぬ」

木崎さんはそう言った。

肉や魚、穀類、野菜。

種類は少々違うようだが、そういったものを口にする、という点では、変わりがないらしい。そうそう、木崎さんの餅好きは、向こうにいた時からなんだって。

「というか、魔界にもお餅ってあったのね」

「まあな」

突っ込みどころはそこか、と呆れながらも、話してくれる木崎さん。料理もそれなりの種類あるようだし、いいとこの坊ちゃまである彼の家には、専任の料理人の存在もあったというから、事情は此方と似たようなもの、と考えていいのだろう。

ああそういえば。

向こうには、ポテトチップスはないらしくって、木崎さんが最初の頃、こんなに美味いものがあるのかと、感動していたな、とふと思い出した。

それとも、ジャンクフードなんか食べちゃ駄目っていう教育?

くすくすと笑っていると、何がおかしい、とじろりと睨まれて、首を竦めてなんでもないと返した。

「別に、ちょっと思い出しただけだから、気にしないで」

「フン、ただ……」

いいよどむ、彼。

「?」

「そなたらが、思いもつかぬような糧、も、ないとは言えぬな」

「それって?」

微妙な顔になった、木崎さん。

珍しいな。

どう言っていいかわからない、そんな顔して、目をそらしてる。

別に人種……いや、種族? なんて表現していいかわからないけど、大元が違うんだから、違う食生活があっても不思議じゃないんだけどな。

それとも、本当にホラーな世界なんだろうか?

先日の映画であまりにも怯えすぎて気を使わせてしまっているだろうか。

そう思って。


「説明が難しいの?」

助け船出してやったのに。

「……そなたでも理解しやすい喩えが見つからぬ」

無性に、殴りたくなった。

(2011/3/10)

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