病気の時は誰かいてくれた方がいい
ごく普通に生活しているつもりでも、色々な事が起きるもので…
気が付けば、表情のない顔が、見下ろしていて。
「き……ざき、さ……」
名前を口にしただけなのに、綺麗な形の眉が、顰められて。
すっと視界から消えた。
「全く」
視界に現れたもうひとつの顔。
「どうだ? 起き上がれそうか?」
ひょいと差し出された腕に捕まると、それは、力強く私を引き上げる。いきなりのせいか、目の前が、くらりとした。
「食えそうか?」
勅使河原さんは、私が座ったのを見届けてから、湯気のたつ茶碗を手に、顔を覗き込んでくる。
「お粥?」
木崎さんもだけど、勅使河原さんも、料理をしている、というイメージがない。そもそも、この家にいて彼らが何かを作るなんて事、これまで一度もなかったのだから。
一体何が入っているのか、思わず身構えたが、見た目は普通の白粥だ。
「レトルトっつーのか? あっためただけだ」
そんな不安を見透かしたように、勅使河原さんは笑う。
「喉を通るようなら、食べておけ」
それまで黙っていた木崎さんが、低くそう言って。
「……うん」
私は、スプーンを受け取って、お粥を口に運ぶ。
とろりと塩味が広がって、美味しかった。
雑魚寝が寒かったのか、それとも他の要因か。
風邪気味だなとは思っていたが、流石に熱が出て、彼らも慌てたらしい。聞けば、風邪なんて知らないそうで、とにかく苦しそうだからどうすればいいのか、と色々調べた、と勅使河原さんは言った。
「木崎と手分けして買ってきた」
指差す先に、スポーツ飲料やら、レトルトやらの山……
その、常軌を逸した分量はどうよ、とは思うものの。
「えへへ」
何だろう。ふわふわといい気持ち。
心配してくれる相手がいる。
悪くないかも。
最も、体調が落ち着いてからも、私達の食事が、各種レトルト粥とスポーツ飲料攻めになった事は、言うまでもない。
(2011/3/6)