孤独
長らくお待たせして申し訳ありませんでした(待っていてくれた人がいるのかさえもう謎です)←いると信じて投稿します。
今、私の目の前で起こっていることはなんだ?
私はこの海賊共に助けを乞うた覚えはない。
籠の中の鳥であることに不満があるわけではない。
第一、私にとってこの籠の中が全てなのだ。満足しているわけではないが、他の居場所を知らないのだ。不満とは、何かを羨むことで生まれる感情であろう。
だから私は
不満を感じることすら出来ない。
私は世界を知らない。
独りでは生きていくことが出来ない。
八,九,十人目・・・・・・っと。
貴族野郎が個人で所有しているらしい部隊だからか、兵隊さん方が増えていく気配はない。
それでも、数は多い。確実に減っていってはいるが段々と疲れてきた。
・・・・・・しかも、武器を構えるでもなく笑ってこの状況を見下ろしている貴族野郎が胸くそ悪くて仕方がねぇ。
奴は、このシャンティアとかいうガキに相当ご執心のようだ。
暗ぇからよくは分からんが、こんなガキの何処に執着してんだかこのロリコン野郎は。
という風なことをドルヴァが兵隊共と刃を交えている間に考えていたことを知っている者は居ないということだ。
「船長ぉぉぉぉぉぉ!!ご無事ですか!?」
ドルヴァが心の中で愚痴を吐きまくっていたときだ、邸に侵入したときに分かれた味方の一部隊が騒ぎ聞きつけ、兵隊共を蹴散らしてやって来た。
__勝った!!__
この兵隊共は数だけでさほど強くもない。どうせ、貴族の自慢のために作られた軍隊だろう。
量が多いのは面倒だが、後ろと前を取ってしまえばこっちのモノ。挟み込んで一気に攻め落とせる。
「聞け!野郎ども!敵は数だけの見栄張り軍団だ!ぶっ潰して堂々と宝を盗むぞ!」
『アイアイ・キャプテン!!』
ドルヴァの宣言に海賊達の声が高く響いた。
ドルヴァの宣言はその場にはとても効果的だった。
まず海賊達の戦意をそそり、
貴族の感情に火をつけ、
ろくに戦に出たこともない軍人共の恐怖をあおった。
ただ独り、この言葉に対して微塵も動かなかったのは渦中の少女。
檻の中に静かに佇む歌い手と呼ばれた彼女だけだった。
ったく、ここの軍人共はどんな養育を受けてんだか。
こんなへっぴり腰で向かって来たって斬られるだけだっつーのに。
「ドルヴァ兄貴、道あけるんで野郎の下まで行ってくだせぇ。なんか面倒になってきちまいやした。」
闇に黒光りする長槍を振るい、俺に背中を預けるような格好で口を開いたのはバルドルだった。
戒めの戈
長い柄の両端にはそれぞれ、刃と重りが付いており戈でありながら鈍器としての使用も出来る。
一方、片方の端にしか重りが付いていないためバランスが取りにくく、扱いにくいのが難点である。
そんな武器を事も無げに振り回している。
「気が合うな。俺もちょうど同じようなことを考えていた。・・・・・・・・・・・頼めるか」
背後にいるバルドルに視線を送れば口許を不適に歪める。
「お任せお・・・・・・っと。・・・・・・・・・・・・・・・・・・開きやしたぜ。」
戒めの戈を一二度振るえばそれだけで道が出来る。
刃で薙ぎ、鈍器で兵を潰し、いとも簡単に道が空いた。楽しそうに戒めの戈を振るうバルドルを見ていると、貴族野郎の兵隊共があげる悲鳴が空耳に思えてくる。
ドルヴァはただ歩くだけ。バルドルの開いた道を敵の大将に向かってゆっくりと、一歩一歩、歩を進めるだけ。
「武器を取れ。守られたままいられると思うなよ、俺は貴様にムカついてんだ。」
ただ無表情に貴族に向かっているドルヴァに、貴族は少しずつ後ずさっていく。
普段は守られているだけだ。自分に直に刃が向けられることなんて今まで無かったボンボンだ。当然と言えば当然の反応だが、それはあってはならなかった。
指揮を執る者、味方の中で頂点に立つ者の不安・恐れは味方全体でのそれだ。
一度に統率が失われる。
「もう一度言う、武器を取れ。取らないならば貴様は無抵抗のまま死ぬだけだ。」
「く、来るな。それ以上近づけば即刻首をはねてやる。」
あまりに対照的だ。朗々と唱えるドルヴァに対し貴族の声は震えていた。同情を誘い、惨いとさえ思えてくる。腰を抜かし、息を切らし、今にも失神しそうな勢いだ。
もう、貴族を守ろうと立ちはだかる者はいない。否、立ちはだかることが無意味であると皆が理解しただけかもしれない。少なくとも、バルドルの槍は今、振るわれていない。
「助けて、くれ。金ならやる。だか・・ら、命だけは・・・・」
ドルヴァは依然武器を取ろうとしない貴族の首に
剣を
飼い主は死ぬ
私が意に介することではない
ただ一つだけ
奴が今居なくなると困ることがある
私は
己のモノを
取り返さねばなるまい
「待て」