音
急遽書き上げたので、文章が雑かもしれませんが、目を瞑ってください。
「船長、もうすぐレヴィアンが見えてきますよ」
レヴィアン――今回の標的
レアグローブ王国の首都から最も近い海辺の街ということもあって、貴族共の別荘がわんさかある。
今回はその別荘の中から、良さ気なのを見繕って盗みに入る。
「あぁ、分かっている。野郎共に伝えろ『今夜、海から最も近い邸に(盗みに)入る。得物の準備をしておけ』ってな」
船長と呼ばれた男がそう言い終わると、周りにいた一人の男がラッパのような伝令機に向かって叫ぶ。
今夜の仕事《遊び》を知らせる声が船中を駆け巡った。
ここは貴族の邸の最奥。
宝物庫
その中にあるのは宝石やら、毛皮やら、高価な物ばかり。しかしその中に物ではない者が、檻にに入れられた少女が居た。
いつ主からよばれても対応できるようにセッティングをされている。
美しく着飾った人形。
十代半ばの少女は、自由もなく暗闇の中でただ一人静かに座っている。
凜と背筋を伸ばし、檻の中に唯一ある 豪華な椅子に座って。
誰もいないこの空間にただ一人。
美しく哀れなその姿を知る者もなく。
「ドルヴァ兄貴、見えて来やしたぜ。」
暁の空の下、一艘の船がレヴィアンに入った。
「こら、船長と呼ばんか」
「いい、・・・・・・綺麗な街だろ。壊せると思うと夜が楽しみでしょうがねぇ」
この船の船長の名はドルヴァというらしい。
見えて来た街を見ながら微笑を浮かべている背の高く若い男。
この船には他にも体格も良く、もう少し年のいった男達もいる。
その中で船長と呼ばれているのだ。恐らく、実力がよっぽど高いのだろう。
「兄貴、今回はどの邸を狙うんですかぃ?」
先ほど船長のことを兄貴と呼んだ少年。
彼は十代後半ぐらいだろうか。人なつっこい笑顔を浮かべているが、額にある小さな傷痕が目立つ。
「・・・・・・あれだ。あの邸を今回の標的にする。まるで入って下さいと言わんばかりの構造じゃねぇか。海賊をおびき寄せたいのか、ただ単になんにも考えちゃいないのか、どちらにしろ盗られた後のボンボンの受けるショックは大きいだろうな。」
視線を街に向けたまま一つの邸を指差す。
趣味も悪くない立派な邸だが、外観やら見栄やらを重視しすぎたのだろうか。海に突き出すバルコニーは、ここから入って下さいと言っているようにしか見えない。
「死角に入って様子を見るぞ、岩陰に船を入れろ。それから甲板に(総員を)集めろ。今日連れて行くヤツを選ぶ。」
数分後に集まってきた若く屈強な戦士達を見ながらドルヴァは、今回の仕事の成功を確信していた。
「シャンティアをよべ。それから、料理を用意しろ。」
いつもの様に邸のバルコニーには一人の貴族と大勢の使用人達が居た。
「すぐにお連れいたします。料理の方も完成間近ですので少々お待ちください、旦那様。」
使用人の一人、最も年老いているであろう黒い燕尾服に身を包んだ男が、一歩前に出て口を開いた。勿論、恭しく頭を下げることも忘れずに。
旦那様――そう呼ばれた貴族の男は目の前に広がる海に目を向けて
満足そうに笑った。
自らの邸が海賊の標的になっていることなど知らずに。
「兄貴、この音何ですか?」
ドルヴァに聞こえているのは波と風の音だけ。
一瞬、何のことか分からずに顔をしかめた。
「音?何のことだ、バルドル。」
「さっきっからずーっと聞こえてくるんですよ。波とリズムが一緒で分かりにくいんですけど、ちっちゃな音がね、多分歌だと思うんですけど」
そう言われると確かに聞こえてくる。小さいけれどリズムを持った歌が。波風の合間に。
「よく気付いたな。こいつぁ多分標的の邸から聞こえてきてるんだろうなぁ。大方金に物言わせて歌い手でも雇っているんだろうよ。」
ドルヴァでも気付かなかった音をバルドルは拾ってきた。それも凄いことだが、さっきまで認識すら出来ていなかった音を、出所まで分析できるドルヴァも十分凄い。
「にしても綺麗な音ですね。眠くなってくるや」
声には出さずドルヴァは頷いた。小さな音だが、波と上手く調和している。
自然と一体化した音。
貴族が一人、自らの邸のバルコニーで料理をつつきながら、シャンティアの音に耳を傾けていた。
今、この邸が海賊に狙われていて、そう遠くない岩陰から観察されていることには誰一人として気付かない。 唯一人を除いて
シャンティアを 除いて。
彼女はいつもとは微妙に違う波と風の音で、近くに船が一層あることに、波と風に紛れる音の中から拾った声でこの邸が海賊に狙われていることに、今まさに海賊がこの邸を観察していることに気付いていた。
目隠しをされ、暗闇の中で生活してきた彼女は次第に聴力を特化させていた。
彼女は小さな音で歌を紡ぎながら反響音として帰ってくる自らの音で海賊の動きを視ていた。
超聴力ってあったらいいと思いませんか?