雨宿り
―「空の色の共有者」としての市民のために―
夕立に追われ、僕たちは逃げ込むように古いバス停へ滑り込んだ。
トタン屋根を叩く雨音は、乱れたジャズのドラムロールのように響き、
濡れたアスファルトの匂いが肺の奥まで満たしていく。
僕はぽつりと呟いた。
「レイ・チャールズに空の色を教える?
悪いけど、あいつの目は最初から曇っている。
だから僕たちは、目の前に真っ白な雲を突きつけてやるのさ。
『ほら、お前の目とお揃いだぞ』ってね。」
君は呆れたように眉をひそめた。その表情は雨音に溶けて、どこか優しく見えた。
優しい雨が、長い間抱えてきた孤独を少しずつ溶かしていく。
僕は続ける。
「けれど……本当に伝えたいのは雲じゃない。
雲が集まれば、やがて雨が降るだろう?
僕たちが待っているのは、その雨なんだ。
ずっとこらえてきた涙を、空が代わりに流してくれる、あの雨を。」
吹き込む風が冷たい。
君が隣にいるだけで、冷たさが温もりに変わっていく。
雨粒が屋根を叩く音は、まるでピアノの鍵盤を指でなぞるように、
不揃いながらも旋律を紡いでいた。
君は少し首を傾げ、耳を澄ませていた。
僕は屋根の隙間から、鉛色の空を指差した。
「だから、諦めずに空を指差し続ける。
彼が光を“見る”必要なんてない。
魂で感じ取ってくれれば、それでいい。
音楽はきっと、その雨のように降り注ぐものだから。」
雨脚は弱まるどころか、世界を閉ざすように強まっていく。
君の沈黙は、雨のリズムに寄り添う間奏のように胸に響いた。
僕は君の方を向き、少しだけ声を張り上げた。
「一緒に濡れよう。
涙も雨も、音楽も同じだ。
それが僕たちの約束だ。」
「レイン・チャールズ、……なんて、冗談だよ。」
君の忍び笑いは、雨よりも柔らかく胸に響いた。
言葉にできなかった孤独が、雨と共に流れ落ちていくのを感じた。
代わりに芽生えたのは、誰かと分かち合えるという希望だった。
やがて雨は静かに弱まり、雲の切れ間から淡い光が差し込んだ。
濡れた街路がきらめき、君の影が隣に伸びているのを見て、少し近く感じられた。
雨宿りはただの避難じゃない。
心の奥に溜め込んだものを、誰かと分かち合うための時間だったのだ。
僕たちの胸に刻まれた旋律は、もう止むことはない。
雨が止んだ後、僕たちは並んで歩き出した。
――雨音はブルースを奏でていた。




