第7章:記憶のなかの少女
「この子……LUNAに似てませんか?」
その投稿は、深夜のSNSにぽつりと現れた。
内容は、ホームビデオ風の古い映像。
文化祭らしきステージで、ひとりの少女がギターを抱えて歌っている。
画質は粗い。けれど、その姿には見覚えがあった。
銀色の髪。透き通る声。細い指先。
そして、何より――その“歌い方”が、LUNAにそっくりだった。
投稿者は、動画の出処をこう説明していた。
「実家の古いHDDを整理してたら出てきました。
たぶん10年くらい前の映像。妹の先輩が出てるステージだったらしいです」
動画の再生数は、爆発的に伸びた。
「これ…マジでLUNAじゃない?」
「同じ人じゃない?え、LUNAって実在したの?」
「逆にLUNAがこの子をモデルに作られたって可能性は?」
ネットは騒然となった。
さらに、有志のファンが映像の解析を始める。
衣装の校章から学校名が特定され、
数日後、過去の卒業アルバムの集合写真がアップされた。
「いた。……この子だ」
その少女の名は――志村 遥。
志村健吾。
そして志村遥。
ふたつの名前は、あっという間に線で結ばれた。
「じゃあ、LUNAはやっぱり……この子がモデル?」
「でも、なんでこんなそっくりに?」
「ていうか、この子は今どこに?」
次第に、“LUNAは誰を模して作られたのか”という謎が、
物語の中心に浮上しはじめていた。
しかし、その答えに辿り着ける者は、まだいなかった。
そして今、LUNAの楽曲に刻まれた“ひとつの歌詞”が、
再び注目を集めていた。
「たったひとつ 願いが叶うなら
もういちど 名前を呼んで――」
それは、遥がステージで最後に歌った言葉と、まったく同じだった。