第6章:沈黙の証明
志村健吾の名前が拡散されてから、
彼のもとには、毎日のようにメディアからの取材依頼が届くようになっていた。
テレビ局、Webメディア、IT専門誌、動画配信者。
“LUNAの生みの親”に会いたいと、誰もが口を揃えた。
だが、彼はすべてを無視した。
電話にも出ず、メールも開かず、誰にも姿を見せなかった。
小さな町の外れにある、古びた一軒家。
そこが、志村健吾の住まいだった。
郵便受けには名刺と手紙が山のように突っ込まれ、
家の前には記者が立ち尽くしていたが、
彼が玄関を開けることはなかった。
「どうして答えてくれないんですか」
「LUNAは、あなたの“娘”なんですか?」
記者が口にしたその言葉に、健吾は一度だけ、ブラインド越しに目を閉じた。
だがそれきり、何も言わず、何も残さなかった。
あるネット番組が、「志村健吾に会ってきた」と題して動画を投稿した。
内容は、家の外観と、彼にまったく応答されなかったという報告だけだった。
だが、そのコメント欄は、奇妙な感情で満ちていた。
「なんか…この人、本当にひとりで作ったの?」
「雰囲気が違う。商業プロジェクトじゃない、もっと“何か”がある」
「ただの開発者じゃない気がする」
世間は、“発明者”を探していた。
でもそこにいたのは、ただ静かに生きる中年の男だった。
LUNAの歌は、今もなお再生され続けていた。
AIだと知られてからも、彼女の楽曲はランキングを落とさず、
むしろ“歌に宿る感情”が話題になり、さらにファンを増やしていた。
だが、それが誰の祈りから生まれたものか――
世界は、まだ何も知らなかった。
そして、ある出来事が起こる。
ひとりのファンが投稿した動画。
そこには、LUNAの歌と、十数年前のある少女の映像が並べられていた。
動画のタイトルは、こうだった。
「これって同一人物ですか?」