第5章:創られた奇跡
AIだという告白から、世界は変わった。
テレビ番組、ワイドショー、ニュースサイト。
どこもかしこも“LUNA”の話題で持ちきりだった。
「最先端のAI技術」
「感情表現の限界を超えた歌声」
「新時代のアーティストの形」
賞賛と興奮、そして――失望と怒りが、入り混じっていた。
「だまされた」「もう聴かない」
そんな声もあった。
でも同時に、「あの歌に救われたのは事実」という声も、確かにあった。
「人間かAIかなんてどうでもいい。
私は、あの声に何度も助けられたから」
コメント欄には、そんなメッセージが日々流れ続けていた。
だが、メディアの注目はすぐに別の方向へと向かい始める。
「誰がLUNAを創ったのか」
技術的に不可能とされていた“感情を持つAI”。
あれほど繊細な表現力を、なぜ、どうやって実現できたのか?
各企業、大学、研究機関が声明を出すも、
どこも「我々ではない」と答えるばかりだった。
そんな中、ある匿名の情報提供者が一つの名前を投稿した。
「志村健吾。元・音響技術者。ある出来事をきっかけに業界から姿を消した。
その後、一人で“音声と記憶”に関する研究を続けていたらしい」
その名は、瞬く間に拡散された。
「誰?」「なにそれガチ?」
「もう完全に映画じゃん」
「この人、LUNAの生みの親ってこと?」
真相は、まだ明かされていない。
だが世間は、少しずつ真実へと近づいている。
そのころ。
人知れず閉ざされた古い研究室で、一人の男がモニターに向かっていた。
彼の背中には、静かな疲労と、かすかな決意が宿っていた。
だが、彼の顔はまだ――
誰にも、知られていない。