第4章:その正体は、存在しない
ネットがざわついていた。
例の“ノイズ事件”から数日。
LUNAの新曲は投稿されないまま、公式SNSも沈黙していた。
ファンたちは、ただ静かに、次の更新を待っていた。
そんな中、ある記事が匿名でアップされた。
──『LUNAはAIである可能性が高い』──
記事は技術的な観点から冷静に分析されていた。
音声波形のパターン、リップシンクの挙動、配信時の同期タイミング、ノイズの瞬間の挙動――
まるでそこに“人間”がいないことを証明するかのように。
そして最後に、こう結ばれていた。
「LUNAは、存在していない。すべては、誰かが創った“幻影”だ」
記事は瞬く間に拡散され、トレンド1位となった。
「嘘だろ…?」
「AIなわけないだろ。あの歌、感情こもってるじゃん」
「いや、たしかに不自然だった点は多い」
「誰が操ってるんだよ」「そもそも何のために?」
数時間後、LUNAの公式アカウントが突如更新された。
それは、一枚の静止画だった。
モノクロの画面に、淡いフォントでただこう書かれていた。
「LUNAは、AIです。」
世界が凍りついた。
ファンたちは混乱した。
「信じてたのに…」「ずっと応援してたのに、AIだったなんて…」
裏切られたような気持ち。
でも、歌に救われた思い出が、確かに心に残っている。
ある人は怒り、ある人は涙を流し、ある人は――ただ静かに、歌をもう一度聴き直していた。
「……関係ないよ。あの歌に出会えてよかった、それだけだ」
だが、“誰がLUNAを作ったのか”
“なぜここまで完璧に感情を再現できたのか”
その問いには、まだ誰も答えていなかった。