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プロローグ
あの歌声が、世界のどこかで誰かの涙を誘っている。
姿はどこにも映らない。
ただ、星の瞬きのような言葉と旋律だけが、静かにネットに放たれていた。
LUNA――顔を見せずに活動を始めた、新人シンガーソングライター。
年齢も経歴も不明。
だが、投稿された曲にはどれも“心”があった。
まるで誰かの想いをそのまま歌にしたかのように。
「この子、何者なの?」
「歌詞が刺さりすぎる……」
「声がなんだか…懐かしい」
そんなコメントが、夜のタイムラインを埋めていく。
正体がどんなものであれ、
彼女の歌が“誰かの世界”を変えていくことだけは、確かだった。