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第一話:幻獣士の誓いは灰の中に


村は炎に包まれていた。


怒号、悲鳴、鋼が交差する音が夜空に響き渡る。

赤く染まる景色の中、俺はただ立ち尽くしていた。


「逃げなさい!」


母の悲痛な叫びが耳を打つ。

視界の先では、両親や村の幻獣士たちが襲撃者と戦っていた。


鎧を纏った襲撃者たちは明確な殺意を持って村を蹂躙し、容赦なく剣を振るっていた。その中には幻獣を伴う者もいたが、数の差に押され、防戦一方となっていた。 これは、魔物の襲撃ではない。それだけは確かだった。しかし、なぜ彼らがこの村を襲うのか、その理由は分からない。


「パパ! ママ!」


幼い声が、戦火の中でかき消える。

両親は一度だけこちらを振り返ったが、そのまま自身の幻獣と共に敵を迎え撃った。


父の傍らには黒き幻影の獣──まるで霧のように形を変える狼が立ち、その漆黒の身体が月光に揺らめいていた。母は同じく霧のような身体を持つ幻獣と一体となり、宙を舞いながら魔法の詠唱を紡ぐ。


父と母の幻獣は、どこかルーナと似ていた。


彼らは戦士ではなく、幻獣士として戦っていた。


「クゥン!」


相棒のルーナが、俺の服を咥え、必死に引っ張る。


「やだ! 置いていきたくない!」


まだ小さなルーナの瞳が、不安そうに揺れていた。


「ガルルッ!」


鋭い吠え声。俺のために必死に逃げようとするルーナ。

その意志に、俺は抗えなかった。


涙を堪え、ルーナと共に村を飛び出した。

森の奥深くへ、ただひたすらに。


どれほど走ったのか。息を切らせ、ようやく足を止めたその瞬間──


圧倒的な光と轟音。

背後から吹き荒れる爆風に、身体が宙を舞う。


「……っ!」


地面に叩きつけられ、意識が遠のいていく。


──どれくらい時間が経ったのか。


顔に温かいものを感じ、うっすらと目を開ける。


「……ルーナ?」


視界の先には、小さなルーナが俺の顔を舐めていた。

朝日が差し込み、辺りは静まり返っている。


震える手で上体を起こし、村へと歩みを進める。

ただ、そこに広がっていたのは──


焼け跡と静寂が広がっていた。


燃え尽きた家屋、崩れた石壁、そして動かぬ人影がそこかしこに横たわっていた。

焦げた木と土の匂いが鼻を刺す。


そして──両親の姿があった。


戦いの痕跡が残るその場所に、二人は横たわっていた。


「……あ……」


何かを叫ぼうとしたが、声が出なかった。

震える足で歩み寄り、母の手を掴む。温もりは、もうない。


ルーナも静かに寄り添い、小さな鼻先で父の服をそっと押した。

動かない。


俺の家も、村も、両親も。

すべて、壊れ果てていた。


残されたのは、俺と──


相棒のルーナだけだった。








──10年後





ギルドは喧騒に溢れていた。


職員たちは忙しそうに動き回り、冒険者たちは依頼を求めて掲示板を見上げている。人々の活気に満ちたその空間に、俺とルーナは足を踏み入れた。


「ここで素材を売れると聞いた。買い取ってくれ」


静かに言葉を発すると、カウンターに座る女性の職員が明るく微笑んだ。


「冒険者カードはお持ちですか?」

軽く首を振る。持っていない。


「では、冒険者登録をお願いします」

俺は面倒だなと思いながらも、無言で登録用紙を受け取り、淡々と必要事項を記入していく。

名前:ゼノン

職業:幻獣士

幻獣:ファンタズマビースト


書き終えた用紙を差し出すと、職員は確認しながら小さく首を傾げた。

「ファンタズマビースト……初めて見ました。一見、狼のような見た目ですが、どんな特徴がありますか?」

「普通の狼と大して変わらない」

周囲がどれほどファンタズマビーストについて知っているのかわからなかったため、適当に答えた。


「そうなんですね。」

ギルド職員は軽く頷いた。それから冒険者カードを差し出しながら説明をする。


「では、これがFランク冒険者カードです。冒険者ランクはFから始まり、最高でSまであります。高ランクになれば信用も得られ、受けられる依頼の幅も広がります。当然、皆さん昇格を目指します。一流と呼ばれるのはBランクからです。ただそのランクへ辿り着ける冒険者は少なく、一般的にはCやDランクの方が多いですね。」


「そうか。」


俺はカードを受け取るが、正直なところランクには興味がない。俺にとってはどうでもいいことだ。俺が求めているのはそんなものではない。


「ところで……なんでこんな目で見られてる?」


ギルドの中を見渡すと、ちらほらと向けられる嫌悪の視線に気づいた。どうやら幻獣士という職業は、冒険者の間であまり歓迎されていないらしい。



ギルド職員に尋ねると、彼女は少し考えた後、説明を始めた。




「幻獣士が敬遠される理由については、いくつかの噂が広まっています。」




「たとえば、『幻獣士と組むとコアを持ち逃げされる』という話があります。コアは武具の強化や取引に欠かせない重要な資源ですが、幻獣士はそれを幻獣の成長に使うため、独占すると言われているんです。」




「また、『幻獣士の幻獣が暴走し、制御できなくなることがある』という話もあります。特に、ある貴族の子供が幻獣士の幻獣に襲われ、命を落としたという噂が広まったことで、幻獣士への警戒が一層強まったようです。実際の経緯は定かではないのですが、それ以来、『幻獣士は危険』という認識が根付いてしまいました。ほかにも、『幻獣士と組むと厄介ごとに巻き込まれる』という話もあります。実際にそうした問題が頻繁に起こったわけではないのですが、噂が広まることで、幻獣士全体の評判が落ちてしまいました。」




彼女は少しため息をつきながら続ける。




「とはいえ、実際にそういった問題を起こした幻獣士がどれほどいるのかは定かではありません。でも噂というのは、一度広がると簡単には消えないものなんです。」




俺はそれを聞き、幻獣士たちが今どうしているのかを聞いた。


「幻獣士はどうしているんだ?」




「パーティを組んだときに報酬が少なかったり、ポーターを受け持ったりとなんとかパーティに入って活動しているかたが多いようです。それでも、パーティを組まずに単独で活動する幻獣士は、より厳しい目で見られがちですので。結果的に、ギルドの中で居心地が悪くなってしまう人も多いんです。」




彼女はそう言いながら、少し気遣うような目を向けてきたが、俺には関係のない話だった。




「そんな肩身の狭い状況でも、パーティを組んでランクを上げようとする方が多いです。よろしければパーティの斡旋をすることもできますよ」




「興味ないな」




短くそう答えると、ギルド職員は驚いたように目を丸くした。




「……そうですか。でも、何かあったら相談してくださいね?」




「ならまず素材を売らせてくれ」




「わかりました。それでは素材買取カウンターへよろしくお願いします。買取カウンターは大型のものや汚れているものが多いので、建物の外で受付をしています」


「わかった」


俺はそれ以上言葉を交わすことなく、ギルドを出て買取カウンターへ向かうことにした。


外の空気を吸い込むと、少しだけ喧騒が遠ざかった気がする。


ルーナが俺の横を静かに歩き出した。




「さて、素材売ったら久しぶりに人の作ったもんでも食べるか」




俺がそう言うと、ルーナがわふっと小さく鳴いた。




ギルドの扉が閉まる。街の喧騒の中に身を置きながら、俺は改めて周囲を見渡した。店の並ぶ通り、行き交う人々、漂う香ばしい匂い。全てが懐かしいようで、どこか遠く感じる。




──10年。




人里を離れ、ダンジョンの奥でただ戦い続けた年月。




だが、俺は戻ってきた。




あの灰の中での誓いを果たすために。




そして今、俺と相棒の冒険が始まる。



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