8話目
コンコンとノックをしたが、返事がない。
私が『居ないのかな?』と言うとアキちゃんは
「カサピー入るよ~。」と強引に中へ入っていった。
私も慌てて後を追う。部屋の中は薬品とタバコの臭いがした。
辺りを見回すと、資料や実験道具が置いてある。
奥の方まで行くと白衣を着た笠原先生が机に座って
パンをかじっているのを発見した。
アキちゃんは「いるなら返事しよーよ。」と近づいていく。
せっかくの休憩時間を邪魔された笠原先生はものすごく嫌な顔をした。
『すみません!お食事中に・・・。』
「別にいいよ。来ると思ってたし。」とぶっきらぼうに答えた。
「カサピーそこはまず、どうだ学校は?とか聞くべきじゃないの?」
とアキちゃんが言う。
「ドウダガッコウハ?」と聞いてくれたが
思いっきり棒読みだったのでアキちゃんがきゃっきゃと笑った。
『予想以上に勉強が難しくて困りました。でもクラスのみんなが
(見た目は怖いけど)優しくて助かってます。』
「優しいねぇ・・・。」と笠原先生は頭をガシガシとかく。
これはこの人の癖なんだろうなと思った。
私はおそるおそる笠原先生に尋ねた。
『どうしてこの学校に女子がいないんですか?』
「正確に言えば女子はいる。でも来れないんだ。」
『どうゆうことですか?』
「・・・聞かないほうがお前の為だと思うが、どうしても聞きたいか?」
アキちゃんは事情を知っているのか少しうつむいてしまった。
私は少し迷ったが、どうしても気になって仕方がなかった。
このままでは勉強にも支障が出てしまう。
私は意を決して『この学校で生活するならどうしても知りたいです』と答えた。
すると笠原先生は急に真剣な顔つきになって言った。
「お前職員室で上田直樹に会っただろ?」
『え?誰ですか?』
「目つきの悪いツンツン頭の奴だよ。朝睨まれて泣きそうになってたじゃねぇか。」
『ああ・・・。でもあの人がどうしたんですか?』
「・・・・・・。」
『先生?』
「・・・・いじめだよ。」
ぼそっと笠原先生はつぶやいた。
聞こえないほどかすかな音だったが、私にはハッキリ聞こえていた。
「とにかくあいつには気をつけろ!」
そう言って化学実験室から追い出されてしまった。
ガチャン!と扉に鍵がかかる。
『先生!!』
いくら叫んでも返事が無い。
これ以上は何も言えないような空気が流れていた。
何があったの?
どうして?
じゃあ私もいじめにあうの?
疑問ばかりが頭を駆け巡る。
『上田直樹って一体何なの?』
ニコニコしていたアキちゃんが苦しそうな顔をしてしまった。