10話目
全身の血の気が引いていくのを初めて感じた。
直樹がずっと私を見ている。金縛りにあったみたいに体が硬直して動かない。
ペタ。ペタ。とゆっくり足音がこっちに近づいてくる。
やばい・・・どうしよう・・・。完全にさっきの話聞かれてた!!
私はいっぱいいっぱいになってしまった。
残り数メートルというところで私は目を瞑り殴られる覚悟を決めたが
直樹は私の横をするりと通り過ぎアキちゃんの方へ向かっていく。
「おいアキラ?」
と低い声が教室に響く。
「・・・・。」
何も言わないアキちゃんにますますイラだったのか、ぐっと胸ぐらを掴んだ。
「勝手に人の過去をしゃべってんじゃねーよ!!」
ものすごい大声がして鼓膜がビリビリと震えた。
「停学中だからって居ないと思って油断してたんだろ?
ざまーみろ。そんなのオレには関係ないんだよ!!!」
アキちゃんを軽がる片手でロッカーへふっ飛ばし、ガアン!!と派手な音がした。
『アキちゃん!!大丈夫?』
私はアキちゃんに駆け寄った。
助けを求めようと周りを見渡すと教室が冷えきった目をしている。
もう何度も同じような光景を見慣れているんだろう。
容疑者にも被害者にも偽善者にもなりたくない。
何もなりたくないから傍観者になっているんだ。
再び直樹がこっちへ向かって来る。
「どけ。」
『やめて!アキちゃんは関係ない!』
「凛ちゃん。いいから離れて。」
『嫌だ!!!だって私が無理やり聞きだしたんだもん!!』
ぴくっと直樹の眉が動き薄目で私を見てくる。
『やるなら私にやりなさいよ!!!』
直樹はふっと不気味に微笑むと、そのまま勢いよくガハハハと笑った。
「よろこんで歓迎会を始めてやるよ。宮下凛さん?」
私は自分の言ったことをやっと理解した。
まんまと罠にはめられたのだ。
自分で自分が信じられないくらい嫌になった。
直樹は誰かのふでばこからカッターナイフを取り
チキチキと刃を出す。
「この学校へ来たことを後悔するんだな!!」
と言って直樹は私にカッターを振りかざした。