04.Scenario(シナリオ)『天国からのメッセージ』
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(Scenario file ①)
題名『天国からのメッセージ』
監督:並木知美
脚本:木戸浩二
(キャスト)
N・女・赤ちゃんの声:並木愛合
男 :木戸浩二
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ここは宇宙である。
神秘的な電子音楽が流れる。
幾種類かの宇宙や惑星の写真が映し出される。
最後に、宇宙から撮影された青く美しい地球が映し出される。
(そうか。 地球も宇宙の一部だったんだよな、と 再確認するはずだ。)
ゆっくりと、地球がズームアップされていく。
WるN 。
N 「広い広い宇宙の中、この地球で、何十億という人々の中で、二人は出会った。それは、単なる偶然に思われた。しかし……」
老夫婦の若い頃の写真が多数映し出される。
N 「二人の出会いは、偶然という名の運命だったのかもしれない。たとえ、それが神様のいたずらだとしても……」
二人の結婚式の写真、新婚生活の写真が多数映し出される。
突然、スクリーンが真っ暗になり、数秒後、ピカッと光る。
N 「もう一つ、神様がいたずらをした」
赤ちゃんの泣き声が響く。オギャーオギャー……。
赤ちゃんを抱いた老夫婦の若い頃の写真が映し出される。
N 「それも、運命の出会いだったのかもしれない」
スクリーン上、息子の写真(赤ちゃんから7歳まで)が映し出される。(裸の赤ちゃんの写真 、小学校の入学式の写真 、運動会の写真、ひょうきんに笑っている写真、etc……)
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(フンと野間健太は鼻先で笑った。
こんなもので、よくもあなたの夢を叶えます、などと偉そうなことが言えたものだ。まるで、小学生の思い出ビデオではないか。
どんどん苛立ってきた健太は、心の中で妻まで責め始める。
これで満足か? 本当に、こんなものがお前の夢だったのか、と。
もう、わかっただろう。夢を芝居で叶えるなんて、所詮こんなものだ。いや、死んだ息子に会いたいなどという願いこそが、バカバカしいのだ。子どもでさえわかることだろ。いい加減目を覚ませ。
そこまで考えて、健太はふと不思議に思った。
妻が息子の写真を探していたときから、当然こうなることは予想していたはずなのに、今更何故こんなに苛立っているのだろう。
そんなことを思いながら、スクリーンを眺めていた健太は、突然鳥肌が立った。)
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(スクリーン上)
自転車に乗り、歩道を走っている少年の後ろ姿が映し出される。不慣れな自転車はフラフラしている。
WるN。
N 「そして……」
少年の運転する自転車が車道に出る。
車道の前方から、トラックが走ってくる。
Wる、けたたましく怒鳴るトラックのクラクション音。ブブブー。
スクリーンはパンアップし、綺麗な青空を写す。
Wるトラックの急ブレーキ音。キキキーッ。
突然、スクリーンがまぶしいほど光る。ピカッ。
Wる、トラックが自転車をはねる音。ガシャーン。
スクリーンがパンダウンすると、車道で倒れたままの自転車だけが映る。その車輪はまだ回っている。
N 「今度は、悲しい運命が幸せを奪い去った」
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(「翔太……」
泣きそうな声で呟いたのは、妻の翔子だった。
血圧が急上昇し 、意識が朦朧とした健太は、気がつくと木戸の胸ぐらを掴み怒鳴っていた。 自分が何を口走ったのか、断片的にしか覚えていない。
「こんなバカな話を信じた妻も妻だが」とか「気づかれないように騙す方が得策だろう」など頭の中で整理する時間も待てないほど、激怒していたのだろう。
そのときだった。とんでもないことを話す男の声に、健太は思わずスクリーンを振り返った。)
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(スクリーン上)
男の声「親父、お袋、元気か?」
ぼんやりと人間の輪郭が映り、 だんだんその姿がはっきりしてくる。30代の男が老夫婦(真っ正面)を見ている。
男 「俺は元気だ、て死んで元気もないか(と苦笑する)。俺はこっちの世界で楽しくやっているからさ。安心してくれよ。それにしても、 親父もお袋も年取ったなぁ 」
そこへ、女の声が聞こえてくる。
女の声「あなただって年取ったのよ。気づいていないのは自分だけ」
男は横を向き話す。女の姿は見えないまま。
男 「うるさいなぁ。いつも一言余計なんだよ、お前は……」
女の声「それより、紹介してくれないの?」
男 「あ、そうだった……」
男は老夫婦の方に向き直る。
男 「俺さ、こっちで結婚したんだ」
スクリーン上に女が登場し、恥ずかしそうに老夫婦の方(真正面)を見る。
女 「お父さん、お母さん、初めまして。ふつつかものですが、よろしくお願いします」
男 「なにしょってるんだ。いつも文句ばっかり言ってるくせに」
女 「それは仕方ないでしょ。あなたがしっかりしてくれないから。この前だって……(と言いかけて、何かに気づき)あ、そんなことより、ほら、お父さんとお母さんに報告することがあるでしょ」
男 「あ、 そうだった」
男は老夫婦を見る。
男 「(照れながら)親父、お袋、俺たち、子供がいるんだ」
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(う、と束の間、健太は息ができなかった。呼吸を忘れるほど、脳が驚いていたのだろう。
これは芝居だ。所詮、不意打ちだ。そんなことがあってたまるか、と健太は自分に言い聞かせようとした。が、無駄な抵抗だった。少しでも想像した時点で、負けは決まっていたに違いない。 完敗だった。ついに、健太は思い出してしまったのだ。