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ギルド・ティルナノーグサーガ『還ってきた男』  作者: 路地裏の喫茶店
第三章 ルカ平原の戦い
32/38

真相


登場人物:


ヴェスカード: 獅子斬りと呼ばれた斧槍使い(グラデュエーター)

フィオレ: かつて王立図書館で働いていた女魔法剣士(ルーンナイト)

パジャ:老人の暗黒魔導師(ダークメイジ)

スッパガール:斧戦士(ウォーリアー)の女傑

セバスチャン:騎士風の甲冑剣士(ソーズマン)

モンド: (サムライ)見習いの若者

セイラ:優男風の野伏(レンジャー)

ミーナ:美しき回復術師(ヒーラー)

リュシター:バレーナ防衛隊隊長


9


 リュシターが退却を促しても闇祭司(ドルイド)バルフスが率いる豚鬼(オーク)の軍勢は動こうとはしなかった。それどころか厭らしい笑みを浮かべてバレーナ城門前に隊列する人間の軍勢を見渡すのであった。


『族長様、これを……』


 豚鬼#の勇者アウグスコスがスッパガールより交換された二つの鍵と封印の箱を恭しくバルフスに差し出すと、眼前に置かれた封印の箱は周囲をぼうと薄い光が覆っており、その光は左右に置かれた二つの鍵へと伸びていた。


『ククク……時は満ち満ちた……【解印の鍵】とも共鳴しておるわ……』


 豚鬼の族長は恍惚の表情を浮かべながら封印の箱と鍵を前に両手を広げた――。





「――奴等退く気配がない。危ういぞ」


 豚鬼の軍勢と先頭で対峙する防衛隊長リュシターの傍らに騎乗するヴェスカードが耳打ちした。


「ムウ……確かに……城壁を盾として戦えば優位性は保てるのですが、軍勢が街の中に入る途中を狙い撃ちされれば逆に後ろを晒すことになる。この平原では戦うことは避けたいのですが、さりとて簡単に我等も引く事ができませぬ……」



「我々の仲間を助ける為の窮地、申し訳なく思います。もしもの時は我々も粉骨砕身戦いますので」


 フィオレと共にセバスチャンを治癒しながら導師パジャも言葉を添えた。確かにリュシターの言う通りここで両軍が激突すればバレーナ側人間に分が悪いと見えた。

 ざっと見てオーク砦のほぼ全軍に近い軍勢がここまで寄せてきているが、城壁上に小数残した弓、投擲兵を入れてもバレーナ防衛隊の軍の方が兵数が少なかったからである。


(新領主様が増兵を許可して下さっていれば――)


 リュシターは若くして前領主の跡を継いだ新領主に増兵を進言したがにべもなく断られた事を思い返していた。だが今はそんな事を考えている暇はなかった。 





「セイラ!セイラ!眼を覚ましてよぉッッ――!」


 後方でミーナの悲痛な声がした。

仲間が注目すると、必死で治癒魔導を試みているにも関わらずセイラが眼を覚さないのだった。



「そんなに――そんなに深手なのですか――?」

 導師が問うと、ミーナは涙を流しながら


「生きては、生きてはいるんです――でも、でも……」

 ミーナは必死に愛する野伏の身体を抱きしめながら高度な治癒を施す。がそれでもセイラは目覚めなかった。


 同じくセバスチャンも深手を負ってはいるがかろうじて意識はある。歴戦の猛者であるセバスチャンと比べて、鍛えているとは言っても基本細身のセイラの身体の故か、それとも醜い豚鬼であるアウグスコスが美しい顔立ちの人間にこそ拷問に熱が入ってしまったのか。



「ミーナ、ここは戦場になる恐れがあります。この場所で意識のないセイラを治癒するのは危ない。城壁内に入って治癒を続けて下さい」

 導師が言うと見かねた防衛隊長も部下に指示を出し僅かに城門を開けさせた。礼を言いながら城壁の中へ行こうとするミーナに後ろから騎乗したヴァントが声を掛ける。


「ミーナ姐さん!――セイラさんは、セイラさんはきっと大丈夫っスから!いつも俺に言うんすよ、お前に全てを教えるまで俺は死ねないって!もし戦いになったとしても、俺がミーナ姐さんとセイラさんの分まで頑張りますから!だから、だから……上手く言えないけれども、大丈夫っスから!!」


「……うん、ありがとう、ヴァント。貴方もくれぐれも気をつけるのよ。絶対に死んでは、駄目よ」

 ヴァントが眼前で長刀を立てると――戦士の誓い!――ミーナが力無く微笑みながら城門の奥へと消えていった。




「重ね重ねすみません。多少の兵力差であれば我々ティルナノーグが覆しますので――我が暗黒魔道には対軍勢の魔導も備えがあります。ただ気になるのはやはり封印の箱、ですが……」


 導師が右手でセバスチャンの治癒を、左手でルーンを切り自己の魔力を高める呪言をかけながら言った。



 ――未だ豚鬼の軍勢は退く気配がない――。





 ――愚かな人間どもに告ぐ――!



 その声は先にリュシターと問答した時よりも更に大きく、いや耳というよりも対峙する防衛隊とティルナノーグの面々の頭の中に直接響くかのような声であった。バルフスの強大な魔力を使用した念話である。



「時は満ち――我等が双子の古神の封印の効力は弱まりつつある……そこでお前等が揃えてくれた【解印の鍵】によって古神は別に封印された霊体を取り戻すのだ……」


「解印の鍵……?鍵は、封印の鍵だった筈……」

 誰かがそう叫んだ。


「そ、そうです……あの古文書には、確かに――確かに封印の鍵と……」

 フィオレも治癒魔導を施しながら古文書を読み解いた事を思い出す。図書館でサンヴァルト語辞典を引きながら注意深く読んだのだ。あれには確かに封印の鍵と書かれていた。



「フ……フフ……その古文書自体が、一部改編されていたのだ……!」

 楽しそうに笑うバルフスの顔を見やりながら、フィオレは驚愕していた。


 あり得ないのだ。昔から古文学と考古学を専攻してきたフィオレは過去多くの古文書や古書に触れてきた。百年を経た歴史書も、ボロボロの手紙も読んできた。

 だからそのものが本当にその時代の書物なのかどうか、後の世に作られた贋作ではないかという真贋を見分ける眼を鍛えている。


 豚鬼の中には力の強いものや身体能力に優れた者は多数いるだろう。だがフィオレの眼を欺けるほどの改編を不自然なく行える者がその中にいる?そんなに手先の器用な豚鬼と言うのは聞いたことが無いのだ。


 それは、そう――古くから連綿と続く歴史さえ持つ、歴史家や考古学者をも欺くことの出来る熟練の偽装細工師でもなければおよそできない事であった。




「――双子の古神は古代この地域全般に地方神として人間、魔族問わず讃えられていた存在であった。だが神がまだ地上に多く干渉していた時代、力を持ちすぎ多くの災害を一帯にもたらした双子の古神はついには、魔族と人間が手を結んでそれぞれが封印を施されたのだ――」


「我等が祖先魔族はその神の力を封じる為に赤の鍵に力を込めて我等が砦より更に東方のガリズアの沼に、人間どもはバレーナよりも西方のミレモジナの湖に鍵を封じた。

 その為赤の鍵の封印地には我等魔族しか立ち入る事ができぬ。そして青の鍵の封印地には人間しか入る事ができないのだ……我等は勇者達を募って赤の鍵を手に入れる事はできたが、問題は人間にしか手に入れる事のできぬ青の鍵であった……」


 そこまでバルフスが話した時、山男やフィオレ達はマレージャの湖の小島での事を思い出した。祠を取り囲む結界、古城での感知機の様なもの――。


(そうか……あれは、我等が人間であったから何も影響が……)

 山男とフィオレは顔を見合わせる。



 バルフスは笑みを浮かべながら続けた。


「クク……そして我等が手に入れることの出来ぬ青の鍵を人間共に取りに行かせる為に供物も兼ねて街の人間を少しずつ攫い、そして侵入者に改竄した古文書と赤の鍵を盗ませ――仲間に連絡が出来るように遅効性の毒を負わせたのだ。そう、仲間や家族を案じ助けようとする人間の性質――取るに足らぬ下等種族の性を利用してな――グハハ……!」



(グ……ググッ……ッ!!)

 山男の斧槍を握る手に力が入る。かつての戦友クリラがエマ婆の懇願に義侠心を感じリリを救いに立った事、そして山男とクリラの故郷であるバレーナの安寧を心配した事、それらは全てが豚鬼の企てによるものであった。己が戦友をいいように操った豚鬼が、いや全ての計画を描いたであろう敵方の首領に言いようの無い強い怒りを覚えるのだった。



「も、もしかしてあの図書館の男――」

 ヴァントの呟きをバルフスは聞き逃さなかった。


「グフフ……古文書を持ち去った者等が其れを読み解こうと試みるは必然よ。古代サンヴァルト語を頼りに古代語を解読するであろう事は予見できた……それ故我が腹心を変幻の術にて忍ばせておったのだ……!」


「く、糞っ……だからあの男、碌に喋ることが出来ずに……!」

 長刀使いは大した疑いもせずに怪しげな男から辞典を受け取ってしまった事を悔いた。





「ククク……さあ、もう種明かしはよかろう……我等が双子の古神の復活を以て我等とお前達引き篭もりの人間共との決着をつけようではないか!」


 闇祭司は恍惚とした表情を浮かべて両の手に二つの鍵を持つと、それを光に包まれた封印の箱の二つの鍵穴に同時に差し込んだ!


 すると突如その封を開いた箱の中から大量の黒い煙が吹き出し天へと昇っていった。日の長い夏の日の午後三時も半ば頃の天気のいい日であったが、黒い煙はたちまちのうちに天を覆い尽くし雷雲を含む曇天となったのだった。




「こ、これは……」

 天を仰ぐリュシターが唖然として呟く。が、直ぐにハッとすると同じ様に狼狽する防衛隊の部下達へ狼狽えるな、戦闘態勢を解くな!と指揮するのだった。



「リュシター」

 防衛隊長が振り返ると傍らに山男の顔があった。その顔は静かに秘めた闘志と怒りを内包した戦士の顔であった。


「すまぬな、この様な状況になってしまった一端は我等にある様だ。この借りは我等が戦働きでしか返す手段が無くなってしまったが――」


「……いえ、ヴェスカード殿。それ以前に街の人々を攫い続けるという脅威に晒されてはおりました。そして豚鬼の企みを暴いて下さったのはクリラ殿――ティルナノーグの皆さんのお陰でもあります。潜入作戦に許可を出したのも同意したのも私でありますから……ですが、今はこの豚鬼の軍勢から街をどう守るかを私は考えなくては……」



「私達も力の限り敵を倒しますよ。あの様な妖魔に我等がティルナノーグがいい様に動かされて……久方ぶりに力を振るいたい気分になってきましたからねぇ」


 セバスチャンの治癒をしながら導師が言った。それを見たリュシターは頷きながらも首筋に一筋の汗の流れるのを感じる。いつも好々爺を演じていたパジャの周囲の空気が重たくなる様な、ひりつく様な感触を覚えている。そしてどこか温和そうな目付きや表情は、いつの間にか、見方を変えればギラついた悪魔の様な顔とも取れる表情へと変貌していたからであった。



(パジャ……かつての【魔王】の貌に近づいてきている……)

 背筋に寒い物を覚えながらも山男も導師を見やった。




「彼奴等……そろそろ来るぞ!フィオレ、後方に下がりセバスチャンの治癒を続けてくれ!もし後に戦闘に参加する事があったとしても必ずパジャか俺の側に付け!――ヴァント!お前も集団戦での経験はまだ余り無いはずだ。お前はスパになるべく付きながら戦うんだ!!」


「ハイ!」

 山男にそう言われて軍対軍に臨む長刀使いだが狼狽える様子はなかった。渡し人であるセイラの負傷に際し己がしっかりせねばと言う気概に溢れていた。



(モンドは……少し様子がおかしい。戦場に出して良いものか……)

 生気のない様な顔色をしている侍の青年が気になっていた。よくよく注意して見てやらねばと心に留める。





「――フ、フフフ……」


 曇天の空を神々しいものの様に両手を天に挙げて崇める闇祭司は後ろに控える同胞達を振り返ると言葉を発した。


「我等の古神の復活まで今暫く時間がかかる様だ……それまで憎っくき人間どもと遊んでやれ……進軍!!!」


 バルフスは右手をバレーナに向かい振り下ろした。

鎖を解き放ったかの様に咆哮しながら猛った豚鬼達が一斉に走り出す!



――後のこの地域での歴史書に【ルカ平原・古神との闘い】と記される事になる闘いの始まりの合図であった――。










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