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ギルド・ティルナノーグサーガ『還ってきた男』  作者: 路地裏の喫茶店
第三章 ルカ平原の戦い
30/38

軍勢


登場人物:


ヴェスカード: 獅子斬りと呼ばれた斧槍使い(グラデュエーター)

フィオレ: かつて王立図書館で働いていた女魔法剣士(ルーンナイト)

パジャ:老人の暗黒魔導師(ダークメイジ)

スッパガール:斧戦士(ウォーリアー)の女傑

セバスチャン:騎士風の甲冑剣士(ソーズマン)

モンド: (サムライ)見習いの若者

セイラ:優男風の野伏(レンジャー)

ミーナ:美しき回復術師(ヒーラー)

リュシター:バレーナ防衛隊隊長


7


 導師が二つの鍵を手に取ると卓上に置かれた古びた宝箱のような物――封印の箱の二つの鍵穴にそれを刺そうとする。



「――…………!!」


 だが鍵を近づけた途端、導師パジャの背中に悪寒とそれに伴う冷や汗が伝うのを感じた。


「ム……ムウゥ……!」



(なんだ――?目には見えぬが強烈な妖気のようなものを感じる様な――やはり箱の封印の力が弱くなっている為か……?――いや、そもそもこの鍵、果たして本当に――)



「何をしているパジャ、時が惜しい、早くしてくれ」

 山男が怪訝な顔で覗き込んできた。


「い、いやわかってはいますが……」

 導師が言うや、その手から鍵を取る者がいた。モンドであった。

 モンドはどこかその鍵を虚な顔で刺そうとする……。


「モンド……?」






「伝令――!!隊長大変です!東方に砂塵あり!軍勢が街に迫っています!!オークですッッ!!」


 詰め所のドアを勢いよく開ける者がいて皆の意識はそちらに集中した。リュシターの部下の物見だった。


「なんだと!?」

 跳ねるように立ち上がると防衛隊長は詰め所を出て城壁の上へ登る階段を急ぎ上がっていった。当然ティルナノーグの面々も続いてゆく。


「うッッ!!」


 それは確かに砂塵を立てる程のオークの軍勢の行進であった。先駆けを魔犬に乗った豚鬼騎乗兵が走り、その後ろを得物を持った豚鬼の群れが続く。オーク砦より殆どの軍勢が率いられて来たと見える数であった。


「城門を固く閉じよ!城壁部隊は即戦闘態勢を取れッ!」

 リュシターが部下に急ぎ指示を出す。


「封印の箱を取り返しに来たか――……」

 軍勢を見ながら呟く隊長に両脇に立つ山男と導師が厳しい眼をして頷く。ふとその後方に立つフィオレが何かを思い出した様に慌てて伝令の一人に声をかけた。


「あっ、あのッ!お願いしたい事があって――!!」

 何事かを伝令に告げる。



「新領主様より伝令――ッ!!リュシター隊長!これは何事かとの仰せです!」

 新たな伝令が領主より遣わされて来ていた。


「オークの侵攻ありと、これより我等防衛隊はその本分を全うするとお伝えしてくれッッ!!」

 豚鬼の軍勢を見据えたまま、若干語気荒くリュシターが叫んだ。いよいよ妖魔の軍勢は街へと近づいてくる。


「弓隊!構えッ!絶対に妖魔を街に入れるなよッッ!!」

 防衛隊隊長は城壁の左右へ展開する兵士に声をかけた。


 古来より増え続けるオーク砦に対抗して攻め込まれぬ様に城壁の守りを固く増築していったバレーナの街である。その城壁を盾に戦うならば豚鬼の軍勢とて甚大な被害を出すであろうから近年は妖魔の襲来もほぼ無かったのだが――。


 街に迫りそのまま攻めてくるのではと考えていた豚鬼の軍勢は突如城門から数百メートル離れた位置にその脚を止めた。


「なんだ?奴等――」

 山男が身を乗り出す。そもそも妖魔の軍勢がこちらに来たという事は仲間であるセバスチャンとセイラは――嫌な予感が頭をよぎる。


 すると先駆けの豚鬼騎乗兵の隊列の間から、これまた魔犬二匹に引かせた籠が出て来てそこから一匹の巨躯のオークが降り立ったのだった。

 臙脂色の長いローブに身を纏ったその姿は一目で他のオークとは格が違う事が見て取れる。豚鬼(オーク)族長、闇祭司(ドルイド)のバルフスであった。





「憎き人間どもよ!貴様等何の思惑があって我等が領土を犯し果ては我等の神の封印されし箱までを姑息にも奪った!?」


 バルフスは右手に持つ呪われし杖を城門の上に立つリュシターに向けると、拡声の魔導を用いて大声で口上を宣った。

 ウオッウオッ!と背後に並ぶ妖魔の群れが憎しみに満ち満ちた声を挙げる。




 リュシターはバルフスの言葉を聞きながら前任防衛隊長の昔語りを思い出していた。

 数十年前寡兵だが豚鬼の一隊が街を強襲しようとした事があった。当時の防衛隊は即座に城門を閉じ防御態勢をとった為に街に攻め込まれる事はなかったが、敵方の一隊に暗黒魔導を操る祭司の豚鬼がいたと言う。その祭司は自らに打ち込まれる矢嵐を念力で打ち払い、逆に呪詛の言葉によって城壁の上の射撃兵十銘程の命を瞬く間に奪ったのだと言う。


 ――その時の祭司が或いはこの豚鬼なのでは――ならばこの巨躯の豚鬼は一体何年生きた――。





(私が拡声の魔導を用いますから声はしっかり届きますよ。闇祭司が万一遠距離の呪詛攻撃を企んでも防御呪文も施していますので)

 リュシターに傍らのパジャが耳打ちした。ふと過ぎった追想を急いで心の内にしまうと、彼は腰の長剣を引き抜いてバルフスに向け。



「黙れ蛮族どもよ!我等が街から卑怯にも人を攫い画策するは我等人間の住まう土地に害を為さんとする魂胆であろう!降りかかる火の粉を払うは当然の事であろうが!」

 と返した。隊長の背後の兵士等がオーッと歓声を挙げる。



 すると闇祭司は高らかに笑い立てた。

「ククッ、口上は威勢がよいな!だが卑怯な真似をする人間共に猛る我が眷属を相手取って無事でいられる気概があるや否や!」


「ならば一戦交える覚悟がそちらにこそあるか!妖魔を寄せ付けぬ為に十重二十重に防備を張り巡らしたこの城壁を相手取って!!」

 バルフスに負けじと胆力を見せるリュシターの言葉に追随し城壁の上に陣取る防衛隊の射撃部隊も揃って弓を引き絞る。そちらが来るならばなんとしても侵入を拒むと言う決意に満ちていた。それを見るや闇祭司はファファファと可笑しそうに笑うと呪われた杖を天に高く掲げたのだった。



「ククッ――クッ……そうよな……その城壁に引きこもっていればこそ、我等は力攻めは出来なかった……」


 それは何事かの合図のようでもあった。それによってバルフスの後方からなにか大きな二つの十字架のようなものが前方に運ばれて来たのだった。



「あ――ああッッ!!!」


 リュシターとヴェスカード、パジャを押し除けて眼の良いスッパガールが城壁の上から身を乗り出し悲痛な声を挙げた。


「どうしたッスパ!!」


「〜〜〜〜〜……ッッ!!」

 山男の問いにすぐに答えず、女傑は怒りの形相で城壁を掴む。ビキィ!という音がして両手で掴む城壁にヒビが入る。



「あ――ああ……」

 やがてその十字架がバルフスのすぐ後ろに立てられるようになると、ようやく周りの者も何が起こっているのか理解した。長刀使いが唖然とした声を出す。



 ――その二つの十字架には、手足を杭で磔にされたセバスチャンとセイラがいたのだった――。





「セバスチャンッッ!!セイラ――ッッ!!」


 山男が咆哮した。その声は拡声の魔導を用いずともよく通りバルフスまで聞こえた。ニタリと厭らしく笑う闇祭司。

 だがその声に磔にされた二人の戦士達は反応しない。


「くっ、グゥッ!!」

 怒りに身を震わせながら山男が後ろを振り向く。そこにはヴァントとフィオレに支えられながら、立ってもいられなくなりそうなミーナの悲痛な顔があったのだった。山男は咄嗟にミーナの首に付けている宣誓の儀を受けたペンダントトップを見やった。


 ペンダントは桃色に輝いている!ならば意識はないが、少なくともセイラはまだ死んではいないのだった。


「死んでいない!死んでなど、いるものか……!」

 山男は再度セバスチャンとセイラに大声で呼びかけるのだった。






「う――――……」



 意識を取り戻すと手足身体のあちこちに痛烈な痛みが感じられた。即座に自身の置かれている状況を思い出す。

 杭が打ち込まれ手も脚も動かす事ができぬ。かろうじて首を少しだけ動かすと、横には同じく磔にされたセイラがいた。


「セイ――ラ……」


 声をやっとのことでかけるがいらえはない。意識を失っているようだった。顔を前方に戻すと、何事かを叫ぶヴェスカードが城門の上に見えた。



「グ……く……不覚……――」



 あの時、斬り死する筈だったセバスチャンとセイラは死すまで敵の足留めをしようと目論んだが、突如放たれた暗黒魔導に身体の自由を奪われた。

 その魔導は体力が万全であったならば跳ね返す事ができたかもしれぬ。だがそれを放った祭司は、この意気盛んな戦士達の体力を削る為に初めに多くの同胞の命を利用したのだった。


 突如身体の自由が効かなくなった彼等を妖魔達は憎しみを込めて切り刻み、槍で手足を貫かせた。だがややあって巨躯の闇祭司が号令を下すと、彼等は生け取りにされたのだった。


 拘束された彼等を見下ろす闇祭司。

その長年生きているであろう豚面には幾百もの皺が走り、多くの豚鬼がそうであるように――いやそれ以上に肥え太った醜悪な様相を呈していた。セバスチャンはその緑色に怪しく光る豚鬼の双眸と目が合った時、この妖魔の底知れぬ野望と恨み、そしてこれから成さんとする邪悪な悪意を感じ取ったのだった。





「ククク……姑息な人間どもよ、お前等の大事な仲間はまだ辛うじて生きておる……そこで、我はお前等に取引を持ち掛けよう……」


 豚鬼の闇祭司は楽しそうに、厭らしそうに、流暢な人間語でそう言ったのだった。







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