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ギルド・ティルナノーグサーガ『還ってきた男』  作者: 路地裏の喫茶店
第三章 ルカ平原の戦い
29/38

宣誓の儀


登場人物:


ヴェスカード: 獅子斬りと呼ばれた斧槍使い(グラデュエーター)

フィオレ: かつて王立図書館で働いていた女魔法剣士(ルーンナイト)

パジャ:老人の暗黒魔導師(ダークメイジ)

スッパガール:斧戦士(ウォーリアー)の女傑

セバスチャン:騎士風の甲冑剣士(ソーズマン)

モンド: (サムライ)見習いの若者

セイラ:優男風の野伏(レンジャー)

ミーナ:美しき回復術師(ヒーラー)

リュシター:バレーナ防衛隊隊長


6


「おおおッッ――!!」



 死神の鎌とも呼べるような剣撃の旋風が複数の豚鬼(オーク)に襲いかかると切り刻まれた妖魔の死骸が舞い散った。

 攻撃動作から次の攻撃動作に移る瞬間、薄緑色の兜から覗く標的を睨み据える双眸はともすればどちらが悪鬼かも分からぬ程に猛っている。




(お――おお……やはりセバスチャンさんの本気の剣撃は凄まじい――)


 横目でそれを見やる痩身の野伏セイラも負けじとサーベルを振るい敵との距離ができればショートボウでの弓射で豚鬼を貫いていた。



 だがオーク砦からは次から次へと後続の妖魔戦士達が出てきていた。


『どけどけえッ!アイツは俺達がやるッ!!』


 戦端の雑兵を押し除けて出てきたのは四体一組の大柄な豚鬼であった。砦の戦士達の中でも勇猛な兄弟戦士だ。

 彼等は目覚ましい太刀筋を見せるセバスチャンを取り囲むと、成程流石兄弟とも言うべき息の合わせ方で、瞬間にして四方向からの斬撃を繰り出そうとした!この兄弟戦士が戦場で得意とする四方行(フォーメーション)攻撃であった。


「ぬうッッ!!」


 だが、巨躯の豚鬼戦士達が持つ超重量の得物が同時に叩きつけられたその瞬間を、手練れの甲冑剣士は長短剣二刀流で受け止めてみせる!力だけで返したのか。否、重さに逆らわずある一定の所まで脱力によって相手の攻撃の勢いを殺し止めて見せたのだった。多勢に無勢の中、斬り死ぬ覚悟の中でも剣士の戦闘経験は冷静な判断をしていた。

 コオオォォッッ――!!鋭く息を吸い込む音!!




「――白虎(びゃっこ)流水剣(りゅうすいけん)五月雨斬(さみだれぎ)り――!!」



 歴戦の甲冑剣士は両刀を敵の得物から離すと一転奥義を繰り出した!長短剣二刀流による不可視な程の高速連続二十五連斬撃!!!

 哀れ剣士を取り囲んだ四兄弟は原型を無くすほどに細切れになり果てたのだった。



「ハ――ッ、ハァ――ッ!」


 荒い息を吐き始めるセバスチャン。奥義による高速斬撃の後は身体中が酸素を欲している。敵の囲みを抜けたセイラがセバスチャンの背中に付く。


「セイラ――ッ!無事か!?」

「健在ッ!!」


 敵の数は一行に減る様子がまだまだないが、二人の戦士達はまだまだ闘志を切らさないでいた。


 多勢に無勢過ぎる程の差である。並大抵の冒険者であったならとうに数の差に蹂躙されていたであろう。だが歴戦の冒険者であるティルナノーグの戦士達はその圧倒的な戦闘力によって敵を食い止めていたのだった。

 もし彼等がその戦闘力を持ってしてこの死地を切り抜けることだけのみに集中していたならば、逃げる馬さえあれば戦力差に善戦しつつも撤退することも、万が一は可能であったかもしれない。

 だがこの死地に残った二人の戦士達はそれを選択しない。いや、だからこそ、仲間を無事に逃す為に死地に留まることを決意したからこそ発揮できる強さというものも確かにあったのだ。


 それは基本損得勘定でしか生きていない妖魔には理解のできぬ行為であり、だからこそ圧倒的な物量の差に折れないこの二人の戦士達はどこか、死を知らぬ不死者を相手取っているような戦慄すら覚えるのだった。


 とはいえセバスチャンも、セイラも人の身である。

限界は徐々に近づいてきていた。後は仲間の為にどれくらい相手の戦力を留め、削れるかという算段ではあったが――。





病める(ダークネス)死霊使いの緊縛(ネクロマンシィ)――!!』




「うッッ――」


 二人の戦士達の身が途端に何か巨大な手に包まれたかのような錯覚を覚えた。


「魔導――これは……暗黒魔導か――!」


 セバスチャン達は呪縛に逆らおうとしながらも身体の自由が効かなくなっていくのを感じた。二人が万全の状況であったならこの呪縛に逆らうこともできたかもしれぬが、物量の差に体力を削られていた。

 なんとか顔を起こし敵陣を見やると――敵の後方から妖魔達の列を割って臙脂色のローブに身を包んだ巨躯の豚鬼が現れる。


「クッ――ククッ――……!」



 歯を食いしばりながら敵の首領角を見やるが、祭司(ドルイド)は二人に暗黒魔導を掛けながらニタァ……と厭らしい笑みを浮かべたのだった――。





「リュシター隊長!あれを――!」



 バレーナの城門の上の物見が防衛隊隊長のリュシターに叫んだ。見やると東から五騎の馬が駆けてくるのが見えた!



「戻ってきたか!ティルナノーグッ!!」

 隊長は物見の横まで駆け寄り手すりから身を乗り出した。


「ン――?騎乗が…三……人……!?」


 訝しんでいると見る間に馬と騎乗者は街に近づいてきた。確かに見た通り騎乗者が三人、そして乗り手のいない馬が二匹だったのであった。


「急ぎ門を開けよ――!」

 リュシターは門兵にそう告げると見張り台から門まで駆け降りた。



 門までゆくと既に馬達は門の内部に入っていた。先頭を駆けていた導師パジャが荒い息をつく。


「パジャ殿――他の二名は――」


「……ハァッ、ハァッ――……み、皆に水を――……」

 それにはすぐに答えず導師は言った。リュシターは馬を降りた三人をすぐ近くの詰め所に誘導する。




「――い、一体どうしたと言うのですか――セバスチャン殿とセイラ殿は――」

 隊長が問うと、導師は顔を落とし


「き、来ません……彼等は戻る事が――できなかった……」

 と力無く言うのだった。

「…………!!」


「パジャ――!一体何が!!」


 テーブルに着いたパジャ、モンド、ヴェスカード、リュシターの元に別室で待機していたスッパガール、ミーナ、フィオレ、ヴァントが駆け込んできた。


「て、敵に潜入が露見し――追手が出され……セバスチャンとセイラは――我等を確実に逃す為に、その場に留まって……」

 パジャの顔は蒼白になっていた。眼鏡を直す手が僅かに震えている。それを聞き膝の力が抜けた様に頽れるミーナ。横にいたヴァントが支えた。


「姿隠しの衣が――何故……」

「な、何故か……一枚の姿隠しの布の効力が切れ――」

「馬鹿な……どうして――!」


 語気を荒げながらスッパガールが山男を見やった。山男はさっきから椅子に座り俯いて動かないでいる。彼女の知っているヴェスカードはどんな理由があろうとも仲間を死地に置いてくる様な人間ではない事を知っているのだ。


 すると、操り人形の糸が切れたかの様に山男が机にどうっと倒れ込んだ。弾みで額を打ちつけるヴェスカード。


「ヴェスカードさん!」

 フィオレが駆け寄ろうとするが


「ム……ムウッ――!?」

 山男は起き上がると左右を見渡し、自身の両手を見やる。すぐにハッとなると、隣に座っていたパジャの襟首を凄い勢いで掴んだのだった。


「貴様ッッ!パジャ――ッ!!俺に魔導を――!!」

 大柄な山男の膂力で体の軽いパジャを椅子から引っこ抜き壁に押し付ける。周りの者が止めようとしたが山男の形相は凄まじかった。


「あ――あの場は……誰かが……足留めをしなくては切り抜ける事が出来なかった……それは、ヴェス……貴方もわかっていた筈です……」


「ぐっ……!だが――!! だが――ッ!!」

 山男の顔が悔しそうに歪む。導師の言う事は山男にも判っている。パジャの襟首を持つ手が怒りに震える。


「ヴェ、ヴェス……怒るだけで……あの場に全員が留まって、何かできましたか……?セバスチャンと、セイラが――二人が我等を逃す為に殿を請け負ってくれたのです……文句を言うだけなら、簡単ですよ……しかし、あの二人のお陰で封印の箱を持ち帰る事ができた事も……事実……でしょう……」

 パジャも言葉程冷静冷徹に事を受け止めている訳ではない事は周りの者にも、そしてヴェスカードにも判っていた。山男の吊り上げる手を掴んだ節くれだった両手がワナワナとしていたからである。


「ぐ……グゥぅ……ッ!!」

 山男の手が力無く導師の服を離す。



「セ、セイラさん、そしてセバスチャンさんは――今、どうして――」

 ミーナを支えながらヴァントがパジャに言う。その言葉に導師は一瞬ヴァントを見やるが、やがてぎこちなく、悔しそうに――首を振った。


「そんな――……嘘だ……」

 唖然とするヴァント、そしてフィオレが声にならぬ声をあげた。




「……ふ、二人が、託してくれた封印の箱……それに、二種の鍵を刺して新たな封印を施さなくては……」

 足取り重く、導師がテーブルに手をつきながらモンドの席まで行った。モンドは蒼白な顔をしながら、封印の箱を両手で掴んで見つめながら何事かを呟いていた……。






「……待って……ください……」


 導師の背中からか弱く小さいが、声が掛けられた。

一同がそちらを見やるとそれはヴァントに抱き抱えられたミーナから発せられたものだった。


「ミーナ……?」

 フィオレが俯くミーナの顔を覗き込んだ。



「生き……てる――少なくとも、セイラは、まだ……死んで――いません……」


 ミーナが首元のペンダントを握りしめながら、力無く呟いた。導師はそれをどこかで見たと思い、思い出す。そう、セイラも同じ型のペンダントを付けていたのだった――。



「そのペンダント――もしや、もしかして……宣誓の儀を受けた――!?」

 導師がミーナに近づいた。ミーナがペンダントを手に、静かに頷く。



「宣誓の儀って……なんだい、それ?」

 女傑が導師に問う。導師はミーナの首元に光るペンダントに顔を近づけながら。


「……愛神――愛母神アフロデューティではなく、密教としている地域もあるのですが、その従神、秘神ラビュータニアの神殿に伝わる儀式――


 愛神の祭壇にて、誓いを立てるのです。死が二人を――愛する二人を分つまで、共に寄り添い続けると――すると、誓いが聞き届けられ、加護を得たペンダントは相手が生きている間はその宝石が桃色に輝き、やがて死が訪れると――深い紫色に変色すると聞きます――そう、でしたか……貴方達の仲は知ってはいましたが、そこまで決意を固めて……」

 導師の目の端には薄らと涙が滲む。


「それ……確か――」フィオレが同時の顔を見た。

「そうなんですよ、一般的でないのは訳があります……一つは余り有名な神ではない事が一つ、そして……これ、確か一度宣誓してしまったら……二度と外せないんですよね……ペンダント……」

 導師の言葉に涙を流しながら、唇を噛み締めて頷くミーナ。


「例えば離婚とか、浮気とか……しても、ね……別れた相手の生死が判っても仕方がないと言うか……それに、そうすると呪いが掛かるという噂もありますし……だから、一部では呪いのペンダント、とも言われるのですが――……いや、でもこの儀式を行うと愛神の加護が得られ、幸せになる事ができるとも言うんですよね……」



「ええ、ええ……――私は、セイラとずっと一緒に寄り添うと、そう決めているから――」


 そう言うミーナの手の中で、首元のペンダントは宝石部分を桃色に輝かせていた。



「つ、つまり、まだセイラは、そして共にいるセバスチャンも恐らくは――生きている、その可能性が高いって事だろう?」

 スッパガールが言った。



「ならば、ならばパジャ!行くぞ、助けに――!あの二人を!!」

 山男がパジャの肩に手を掛け言った。「行きましょう!」と長刀使いも声を挙げる。おお――!と力強い声を挙げる女傑。モンド以外の皆がパジャを見つめる。



 フゥ――と息を吐き、眼鏡を再び直すパジャ。こめかみに手を当てて軽く頭を振る。


「……それは彼等――セバスチャンとセイラの意志に反する行為だと、私は思います……冷静な判断ではない――」


 導師の言葉に肩に手を掛ける山男の顔が曇る。そんな言葉を聞きたくなかった――自分の知っているお前ではない、そんな、どこか悲しい表情――!



「もしかしたら……より多くの犠牲者が出る可能性もあります……いや、その可能性が高い……。二人を救い出せる可能性は、限りなく低い…………ですが――」


「――!! パジャ――ッ!!!」



「私もあの二人をやはり、死なせたくない!!生きていて欲しいと、今はそう思います――ただ、激戦になりますよ、そして賭けになるかと……」

 導師はヴェスカードの眼を見据えて力強く言った。


「おお――ッッ!!」「望むところだッ!!」と声を挙げる戦士達――!!



「よしッッ!!行こう、一刻も早く奴等を救いに!!」


 ヴェスカードの気合いの声に皆が得物を力強く握りしめた――!




「確かに!ですが、ですがこれだけはやっておかないと!鍵を、封印の鍵を、封印の箱に――!!」



 勇む山男を制して、導師は卓上に置かれた青と赤の封印の鍵を手に取ったのだった。




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