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ギルド・ティルナノーグサーガ『還ってきた男』  作者: 路地裏の喫茶店
第三章 ルカ平原の戦い
25/38

廃墟の砦


登場人物:


ヴェスカード: 獅子斬りと呼ばれた斧槍使い(グラデュエーター)

フィオレ: かつて王立図書館で働いていた女魔法剣士(ルーンナイト)

パジャ:老人の暗黒魔導師(ダークメイジ)

スッパガール: 斧戦士(ウォーリアー)の女傑

セバスチャン:騎士風の甲冑剣士(ソーズマン)

モンド: (サムライ)見習いの若者

セイラ:優男風の野伏(レンジャー)

ミーナ:美しき回復術師(ヒーラー)

ヴァント: 鬼付きの長刀使い(ツヴァイハンダー)

リュシター:バレーナ防衛隊隊長


2



「では行ってくる」




 翌る日の午前十時頃、それぞれの馬に騎乗した五人の潜入作戦選抜メンバーが門前に揃った。


 ヴェスカード、パジャ、セバスチャン、セイラ、モンドの五人は皆バレーナ防衛隊より借り受けた姿隠しの衣も携えている。



「ヴェスカードさん、ご無事で。私達も戦える準備を整えておきます。モンド君も気をつけてね」

 女魔法剣士フィオレが見送りながら言った。若き侍は大丈夫ですと呟く。



「ウム。リュシター、もし豚鬼(オーク)共が攻めてきても対応できるように、防衛隊の準備をしっかりと整えておいてくれ」


 山男が馬上からバレーナ防衛隊隊長を振り返ると言った。



「承知しました。危険な任務につかせてしまって申し訳なく思います」

 髪を短く刈り上げた誠実そうな壮年隊長は頭を下げた。


「構わんさ、俺達にも仲間の為に解毒剤を手に入れるという目的もあるしな……スパ、まだ右肩は治りきってはいないと思うが……備えておいてくれ」

「ああ、お前等が帰ってくるまでにも治癒魔導を受けておくさ」

 右肩に包帯を巻いたスッパガールが親指を立てた。



「セイラ!必ず帰ってきてね……」

 ミーナが馬上の野伏(レンジャー)の手を取りそう言う。


「心配するな、この面子ならば作戦を遂行できる」

 セイラは恋人にウインクをした。



 銘々見送りの言葉はあったが、こうして五人はバレーナ東のオーク砦を目指して馬を走らせたのだった。





 三十分後――。



「――さて、どの辺まで馬で近づく?」


 馬上の人となったセイラが言った。山男が導師と顔を見合わせる。



「オーク砦の南側に中規模の森があるとリュシターが言っていた。彼奴等に気付かれぬ様森のなるべく南側から迂回していってそこに馬を止め、そこから徒歩で姿隠しの布を使って潜入という手立てがよかろう」

 山男が言うとセイラも頷いたが、


「うむ、潜入前に少し高みからオーク砦の様子を見たいが……木にでも登るか……」と言うとセバスチャンが、


「……ならばいい場所がある。そこならば馬を停めるにもいいしオーク砦の様子も見える筈だ」

 と言う。一同は驚き甲冑剣士に視線を集中させると彼は着いてきてくれと先導するのだった。





 更に五十分後――。




「ここだ――」


 オーク砦南に位置する森をオーク共に気付かれぬ程に十分余裕を持って森の南側から侵入し、森の中を北上するとそこは小高い丘になっていて、森の切れる丘からはオーク砦がやや高いところから見下ろせた。

 そこから更にやや東側に森の中を行くとそこには丁度森の木々の高さに隠れる様に、小規模な砦があった。




「驚いた。ここにこんな砦があったとは知らなんだ。リュシターも言っていなかった様に思ったが」

 山男が甲冑剣士を見やると彼は顔を落として、ある所でこの砦の事を耳に挟んでな。と呟いた。


「……廃墟だ。だが古代の遺物ではない――もっと、そう古くない時代の――」

 セイラが門構えや砦の朽ち方を見て取りそう言った。




「ここで潜入準備を整えてから潜入しよう」

 セバスチャンが廃墟の砦南側――オーク砦から丁度反対側の森の中側に位置する厩舎の残骸に馬を繋いだ。


「お馬ちゃん、ちょっとの間静かにしていて下さいね〜」

 一行が全員の馬を繋ぐと、パジャは馬に沈黙の魔導を掛ける。嘶きによってオーク共に気付かれるのを防ぐ為だ。

 取り急ぎ最後の準備を整えるべく彼等は鍵の外れた門を潜る。

 門の上には崩れかかった彫刻の紋章があった。モンドは何気なしにそれを眺めながら砦に脚を踏み入れた。どこかでその紋章を見た様な気がしたが、どうしても思い出す事ができなかった。





「――うっ」


 廃墟の砦の内部は荒らされた跡があり――そして其処彼処に剣や槍を持った戦士の白骨死体が散乱していた。


 セバスチャンは何故かそれに然程驚くでもなく、チラと見やりながら奥へと静かな足取りで進んでゆく――一行は息を呑みながら後を着いて行った。




「……」

「…………」

「………………!!」



 一階の大広間に入った所でヴェスカードは短く息を吐いた。そして首筋にかいた汗を気付かれぬ様にぬぐう。




(セバスチャン……)



 誰もが口には出せずにいたが、先頭を歩く甲冑剣士――セバスチャンが歩を進める度にその身から、背中から圧の高い闘気――ともすればそれはむしろ……憎悪とも取れる圧力を発していたからであった。


 歴戦の斧槍使いであるヴェスカードをして首筋に一筋の冷や汗をかかせる程の気圧。それは旅の中で感じていたセバスチャンの隠された力量をしてあって然るべき程の、いや想像以上であったが、この普段物腰静かな、冷静な男がここまで剥き出しの憎悪と剣圧を発するのが山男にはにわかに信じがたかった。


 セイラでさえも顔中を汗が伝っている。

モンドはもう、信じられぬと言った顔持ちで汗と、震えが止まらなかった。

 パジャ――導師は気付いているのかそうでないのか――そんな筈もないのだが、いつも通り飄々としていた。





「皆はここで待っていてくれ。セイラ――」

「は――はい」


 甲冑剣士が野伏を呼ぶと上階に彼を連れて行った。物見櫓があるのでそこからセイラに砦を観察させるのだと言う。





 二人が上階に上がって行くと残された者達はふうと息を吐いた。



「パジャ――セバスチャンの、あの様子は――」

 山男が導師を見やって問う。だが導師は意外そうな顔をして、

「え?何か――何か変わったところがありましたか?」と言っただけだった。

 いやどう見ても――と言い掛ける山男の言葉を遮って、導師は準備を怠らない様にしましょうと話を打ち切ったのであった。



 その二人の様子を見て、ようやく気を取り直したのかモンドは腰をぺたんと床に落としてしまった。ふう、ふうと呼吸を整えるべく深呼吸をするが汗が止まってはくれぬ。



(――な、なんだ、あの男の闘気――あんなに、なんで……まさか、まさか兄さんや……いや父上以上に……)


 東国の武家に産まれた若き侍にとって絶対の強さの象徴は家を継ぐ筈だった夭折の天才シスと、当主であった父ジムザンであった。

 彼は西国であるティルナノーグに放逐されても、父を恨んでも心の奥底ではなお――彼等の強さを、己の産まれ育った武家を心の拠り所、誇りとしていた。


 であったからその二人を凌駕する剣圧を発していた男――そんな男が自分のすぐ側に、渡し人としていた事に、そして男がそこまでの実力を隠していた事に気づけなかった事が彼の心を掻き乱していた。



(しっかりしろ――もうすぐに、潜入――魔物共の巣窟に入らねばならぬのだぞ――!自分から、己から志願した事ではないか、もうあの時の様な無様な真似は……)


 息を整え静かに腰の鯉口を切り、刀身を少し現して見せた。よく手入れされている愛刀はキラリと煌めくとモンドの顔を映してみせた。


(――!!)


 そこには不安そうな、心の定ってなさそうな、頼りのなさそうな心構えの若者の顔が映っていた――。





「見えるか、セイラ」



 屋上に出た彼等は丁度周囲の木々の高さに隠れる程度の物見塔に登った。その塔上にこれまた木でできた部品を数点組み合わせてできる作業台が放置されている。

 長い年月放置されてきたであろう作業台は組み上げるとキィと頼りない音を立てたが、そこは身が軽く体幹の良いセイラであった。軽業師の様に音もさせずに作業台の上に腹ばいになると、懐から小さな望遠鏡を取り出した。


「ええ――よく見えます」



 暗い円形の中に拡大された砦の様子を俯瞰してみると砦の中の建物の配置がよく見えた。



 今回の潜入作戦がこの時間になったのには訳がある。

魔の眷属であるオークらが一番活発となるのは月の力、魔の力が高まる夜闇なのだ。逆に彼等が普段睡眠を取ったり活動が控えめになるのは太陽の力の最も及ぶ昼間である。物見や潜入をするにしてもこの時間がベストと思われた。


(ううむ……手袋と前掛けをしたオークがあの建物から現れて行ったぞ……毒や解毒剤はあの建物の中ではないか……?そして中央の一際大きな建物――禍々しい妖気を放っている様にも感じられる……待て、あのオーク……)



 中央の建物から仰々しい暗い臙脂色のローブを纏ったオークが姿を現した。長い衣を引き摺りノロノロと歩く様は目を引くが、しかしそれ以上にそのオークの体躯が巨大な事に眼がいった。二、いや、三倍。通常のオークよりそれくらいの巨躯であろう。


(あれが首領か……?そうでないにしてもオーク魔導師か祭司(ドルイド)が少なくともいる事になる。注意を払わねばならぬな……そして祭司がいると言う事は、あの建物の中で封印の箱が祀られているのではないか――)




 セイラが考えを巡らせたその時だった――!


 望遠鏡の中、拡大されても距離のあるオーク砦の中を歩く祭司然とした巨躯のオークが突然、セイラの方を見やったからであった!


(うっ――!)


 セイラはまるで瞬間に心の臓を掴まれたかの様な衝撃を受けた。思わずより低く伏せる。

 しかし、祭司はやがて何事もなかったかの様に正面を向き直ると別の建物の中へと消えて行ったのだった……。



(……まさか、まさか……な。豚は視力が低いと聞く。ならばそこから進化した豚の魔物も視力がいいとは、少なくとも砦からここが見えるとは……思えぬ)


 砦のおおよその配置を頭に入れたセイラは作業台を降りるとすぐにバラバラに戻した。



「大体――大体構造は把握しました。クリラさんは夜に潜入したと言う事で、構造も把握できぬままに潜入したのでしょうね。大変だったと、いやさすがであったと思います――して、敵方に首領格、あるいは幹部格の巨躯の司祭がおる様です」

 セイラが告げると甲冑剣士は一つ頷き、皆の所へ戻ろうと伝えた。




 セイラは下階の仲間達のところにセバスチャンと戻るとオーク砦の構造と目指す入手物の置き場所の予想を伝え、皆の頭に入れさせた。


 

 そして各々武具の最終チェックを終え、門前に出ると彼等はついに姿隠しの衣を身に纏う。

 顔を見合わせて互いに頷きあった。彼等は一様に古代遺物の姿隠しの呪文を口にする――。





「「「「「ラーダ」」」」」




 呪文を唱えるや、彼等の姿は綺麗さっぱりその場から消え失せたのであった――。









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