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ギルド・ティルナノーグサーガ『還ってきた男』  作者: 路地裏の喫茶店
第三章 ルカ平原の戦い
24/38

潜入作戦


登場人物:


ヴェスカード: 獅子斬りと呼ばれた斧槍使い(グラデュエーター)

フィオレ: かつて王立図書館で働いていた女魔法剣士(ルーンナイト)

パジャ:老人の暗黒魔導師(ダークメイジ)

スッパガール: 斧戦士(ウォーリアー)の女傑

セバスチャン:騎士風の甲冑剣士(ソーズマン)

モンド: (サムライ)見習いの若者

セイラ:優男風の野伏(レンジャー)

ミーナ:美しき回復術師(ヒーラー)

ヴァント: 鬼付きの長刀使い(ツヴァイハンダー)

リュシター:バレーナ防衛隊隊長


1


 死霊が石竜と共に爆散すると落ちてきたヴェスカードをスッパガールが受け止めた。痛めた右肩に呻く女傑。


「……すまぬ、スパ」

「フフ、なーにこんなのは傷の内に入らんさ。気にするな」



 すると石竜が現れた時と同じ様に次元界の暗い桃色の空に一筋の光が舞い降りてきた。その光はやがて思わず手を出した山男の左手に収束すると、段々と何かを形取るのだった。




「……これが……青の、鍵……」

 


 山男の手に現れた物は、彼等五人の目的である青の鍵であった。一目見んと仲間が駆け寄る。


 湖の魔物との戦い、そして祠からの転移、そして次元(アストラル)界での一行の分散、一夜を越し古城の探索からの闘技場での激闘。彼等五人が当初考えていた以上に辛い道程であった。傷ついた者も多かった中でついに手に入れた目的の品に、それぞれがひとまずの安堵の溜息を漏らす。




「ウッ――!!」


 山男の手にある青の鍵が突然発光すると、天を貫く勢いで細く、だが強い光が立ち昇って次元界の空を突き破って行った。


「な、なんだ――」


 ややあって光が吸い込まれた場所から空にヒビの様なものが入るとそれは瞬く間に空全体に広がり出し、そして次元界が地震の様に揺れ出した!

 同時に闘技場の中心部に淡い光が現れ、やがてそこは四角く形取られた扉となる。扉の向こうをよく見てみると、そこには祠の入り口から外を見たような小島の光景が広がっていた。



「わ、わわ……」長刀使いが慌てて声を漏らす。

「終わったんだ……アタシ達が青の鍵を手に入れたから、この次元界の役目が……」

「きっとあれが元の世界に戻る扉ね!帰りましょう、元の小島へ――!」ミーナがヴァントに肩を貸しながら言った。


「――ウム……そうさな。俺達はここで当初の目的を果たした……行こう、元の世界へ、仲間達の元へ」


 山男が青の鍵を握りしめ、仲間を見渡しながら言った。それに同意し皆が光の扉へと歩を進める。


次々と光の扉に吸い込まれては姿を消す仲間達……ミーナ、ヴァント、スッパガールが行き、次はフィオレの番という所――扉に入る直前、フィオレは後ろの山男を振り返った。


 ――その顔に浮かんでいたのは、僅かな畏れ、不安――山男にはその表情の理由が分かっていた。魔力を感じ取る素養のある女魔法剣士であるフィオレならば、山男よりもハッキリとしていたであろう。

 青の鍵から立ち昇る光に、れっきとした邪気のようなものを感じ取っていたからであった。


「……行こう、フィオレ――」


 だが、崩壊を始めた次元界にてその様な事を議論する暇はもうなかった。そのまま微かに頷いて扉に消えるフィオレに続き、山男はほんの少し次元界を振り返ると、彼もまた扉に消えて行ったのだった――。





 一行は気がつくと元の小島へと転移していた。

現実世界は早朝の様で一見すれば転移する前とそれほど時間が経っていない様にも見えたが、次元界とどれほどの時間の相違があるのかは彼等には知る由もない。


 とりあえず舟の場所まで戻ろうとするが、来る時に感じた結界の様なものもまたかき消えていた。

 舟は変わらず停船した場所にあったので一行は乗り込んだが、帰りの舟は不思議と――青の鍵を手に入れた故か巨大魚や半魚人の襲撃もなく、静かな湖面の上を帰還する事ができたのであった。



「――あの漁師だ」


 岸に戻ると舟を借りた漁師がいた。礼を告げるとどうやら次元界に転移してから丸一日経った早朝の様であった為、やはり次元界の方がやや時間の流れが早い計算となる。


 馬を繋いでいた馬小屋で彼等の馬に乗ると、彼等は疲れた身体を押して帰路に着いた。





「ヴェスカード!無事であったか!」


 バレーナに戻り『大鹿の毛並み亭』に行くと、甲冑剣士――セバスチャンが山男の肩に手をかけた。ウム、そちらもなと山男もまたセバスチャンの肩を叩く。

 セイラはミーナの顔を見るなり駆け寄って抱きしめていた。


「おお……ご苦労様です――!鍵の方は如何でしたか」

 導師――パジャが駆け寄るとヴェスカードは懐から青の鍵を取り出してみせる。


「まあなかなか骨が折れたが手に入れたぞ」

「大変だった様ですね……しかし、これでリュシター殿に話を通す事ができる」


「そうか、分かった。だが一刻を争う事態ではあるが動けるのはよくて明日以降だぞ。俺も疲労はあるが他の者も傷や魔力の回復に時間がかかる」

「そうですね、今日話を通して実働は明日にしましょうか。出張の回復術師も呼んで負傷者の治癒に当たらせましょう」


「リュシターにか、ならば俺も行く」

「ええ、お願いします」


 そうしてパジャが夕刻前のリュシターとの会談を取り決め、傷を負っている者は出張回復術師による治癒を受けた。ミーナも今後に備えてしっかりと魔力と体力の回復に努める。





 ――夕刻前。


 ヴェスカード、パジャ、セバスチャン、フィオレ、モンド、セイラの六人はバレーナの中央部にある防衛隊拠点へと脚を運んだ。


「フィオレ、お前も宿で休んでおればよいものを」山男がフィオレを気遣うと、

「お気遣いありがとうございます。でも魔力も段々回復してきていますし、身体も休めていましたから……あ、無理は本当にしていません。大丈夫ですよ」とフィオレはどこか陰のある笑顔を返した。

「……そうか、ならばいいが」



 すると門前へ隊員が来て一行を会議室へと案内した。




「ティルナノーグの皆さん、何でも封印の鍵を手に入れたと――」


 バレーナ防衛隊隊長、リュシターは会議室に一行を通して人払いをするとそう切り出した。


「ええ、ここに、ヴェス」

 導師が促すと山男は赤の鍵と青の鍵、二つの古代の鍵を卓上に置いた。一見すると古ぼけた二つの鍵だがこうして揃うと何か引き込まれる様な魔力をも感じて取れた。



「古文書によればこの二つの鍵で古神の復活を阻止できる筈なのだ」


「な、成程……してこの鍵はどこでどうして使うので……?」リュシターが当然とも言える質問をした。


「心当たりがある――クリラの――俺達の仲間が最初にオーク砦に潜入した時の話だ。奴は豚鬼(オーク)共が夜半古ぼけた宝箱を囲み狂宴していたとの報告をしている。我等はこの宝箱こそが古神の復活に必要なものであり、二つの鍵を使うべき対象と観ているのだ」

 山男が答える。


「……しかしその宝箱は未だオーク砦にあるという話ですよね?少なくともそれをも手に入らなくてはならない事になる」


「――その通りです。我等は青の鍵に続きその古ぼけた宝箱を手に入れる必要があります」

 パジャが眼鏡を光らせて言う。リュシターはもとよりモンドやセイラ、フィオレといったメンツが導師を振り返った。

「……して、その段取りはどのように……」防衛隊隊長が問うと導師は続けた。



「……フム、確かに今の我等の中にクリラ程腕の立つ隠密はおりません。どの様に頑張ったところで彼程の潜入は難しいでしょう。

そこでリュシター隊長、バレーナ防衛隊が秘匿する『姿隠しの布』をお貸し願いたい」


 パジャがリュシターを見据えて言うと、リュシターは虚をつかれた思いがした。



「す、姿隠しの布――どうしてそれを」僅かに動揺するリュシター。


「……我等(ティルナノーグ)を甘く見てもらっては困る。まあ、色々なつてでね、この防衛隊はそれを持っているという事を私は掴んでいます」

 パジャがそう告げるとリュシターは俯き、考え込むのだった。



 ――姿隠しの布、とは古代の魔道具の遺物である。

極稀に古代遺跡や古い迷宮などで見つかる事のあるもので、それを纏った者を生物の眼から視認できなくする道具なのであった。




「た――確かに、我等防衛隊には姿隠しの布が伝えられております……歴代防衛隊隊長にその使用権は一任されているのですが、未だ使用実績は――」


「こちらが新たに我々が掴んだ行方不明者のリストです……幾つかはあなた方の元へも捜索嘆願の届けも出ているでしょうが」

 パジャがリュシターに差し出したリストを手に取る。


「ム……また……増えて……」リュシターは難しい顔をした。


「放っておけばもっと増えます――バレーナの、この街の人々に危害が及ぶのを止める為に、誰かが動かなければならない。我々が彼奴等の宝箱を奪い、二つの鍵で封印を施しますよ」

 導師はリュシターの顔を見据えて言った。



「――――そ、そうでありましたな……。この街を守りたい……その為には惜しんでなどいられませぬな。おい――」


 リュシターは部屋の外に待機する部下に命ずると防衛隊に秘匿されし宝具、姿隠しの布を持って来させた。その数五着――。


 それは、薄青い雨合羽のような、フードの付いた布であった。一行はそれぞれ手に取ってみる。



「ある呪文を唱えると、効果が発動します。ですが我々としても使うのは初めてな為、魔力の含有量がわかりませぬ。ですから潜入作戦は速やかに行わなければ――」


 この手の魔法具には炎の魔剣の様に無尽蔵に魔力を出すものと、ある一定の含有魔法量がら決まっていてそれを使い切ると二度と使えなく物がある。この姿隠しの布はどうやら後者の様であった。


「そうですね、肝に銘じておきましょう」


「しかし――しかし、もし潜入作戦が上手く事が運んだとして、宝箱を奪われたとオーク共が知ればこちらに攻め込んではきませんか?」


 するとパジャは悪魔の様な笑みを浮かべて言った。


「ええ――そこまでが私の作戦です……。オークが長い間表立ってこの街に侵攻してこなかったのは、バレーナの城壁が強固であり城壁を盾としながら防衛戦をすれば甚大な被害を受けるとわかっていたからです――ならば、ならばこちらからそうせざるを得ない状況を作り出せば極優位に戦う事ができましょうや」


 知らずリュシターは拳を握りしめていた。


「な、成程……オーク砦討伐を渋る新領主様も、街を防衛する為に防衛隊が戦うのであれば首を縦に振る他はないと言う訳か――そうしてオークの戦力を削る事ができれば百年以上の懸念も解消できる……」



「そうです……全てはあなたの許可がいる作戦となりますが……」


 パジャが言うと、防衛隊長は暫く下を向き、決意をもった眼で一行を見据えた。



「――お願いします。私は……私はこのバレーナを防衛隊隊長として、いやこの街に住む者として、護りたい。オークの脅威に怯える事なく街の人々に暮らしてもらいたいのです」


 その無骨で真っ直ぐな目に、ヴェスカードもセバスチャンも口端を上げた。この男の気持ちが痛いほど伝わってきたからであった。



「――承知しました。ティルナノーグは全力を挙げて作戦を遂行致しましょう」

 パジャが胸に手を置き敬礼する。




「しかし、姿隠しの衣は五着――潜入の人選は――」導師が言うや、




「俺は行く」

「私もだ」

「俺も行く」

「当然魔導師もいなければですね、私も行きます」


 ヴェスカード、セバスチャン、セイラ、パジャが名乗りを挙げた。続いて私も……とフィオレが言いかけるや、



「お、俺も!俺は行きます!」

 若き侍、モンドが声をあげた。



 セバスチャンが厳しい眼でモンドを見据えた。

「モンド、お前の意気は買うが潜入作戦はかなりの危険が伴うだろう……まだお前には……」




「やれますッ!ど、どうして――どうして俺を甘く見るのですか――ッッ!!」

 モンドの激昂に場が静かになる。



「お願いします。行かせてください!でなければ俺は、俺は――」


(焦るな――焦るなモンド)

 若者の拳が震えるのを見てセイラも難しい顔をした。あの晩の事はセバスチャンやパジャにも真実を告げていない。潜入したオークが手練れだった為に生かしておく余裕がなかったのだと告げていた。




「――一つ、一つだけ条件がある」

 


 甲冑剣士が真剣な眼差しでモンドに言う。




「は、はい――何でしょうか」






「――絶対に死ぬな。必ず生きて帰ると、生き延びると私に約束しろ」



 有無を言わさぬ迫力を秘めたセバスチャンの言葉に、モンドは静かに頷いた。




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