湖畔にて
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登場人物:
ヴェスカード: 獅子斬りと呼ばれた斧槍使い
フィオレ: かつて王立図書館で働いていた女魔法剣士
パジャ:老人の暗黒魔導師
スッパガール: 斧戦士の女傑
セバスチャン:騎士風の甲冑剣士
モンド:侍見習いの若者
セイラ:優男風の野伏
ミーナ:美しき回復術師
ヴァント:快活な長刀使い
第二章 鍵の行方
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バレーナの街からオーク砦とは丁度反対、西側に馬を数時間ほど走らせると眼前に大きな湖が見える。朝靄が湖の上に広がり、神秘的な光景だった。
「あそこに漁師がいる。ちょっと話を聞いてみよう」
馬の手綱を握りながらヴェスカードは漁に出るところの漁師を見つけて指差した。
*
リュシターとの会談の後、宿の酒場に戻ったティルナノーグの戦士達はメンバー九人で今後の行動について話し合った。
「古文書によればミレモジアの湖――現マレージャの湖の中心に祠があり、青の鍵はその場所にある。と言う事です」
元王立図書館司書のフィオレが手帳を見ながら皆に語りかける。
「そこまで解読できたのか、やるなフィオレ!」
ミーナとの聞き込みから戻り合流したセイラが形の良い唇をキザに笑わせて言う。
「えっへん俺も大分姐さんを助けたので!」
ヴァントが胸を張ると、セイラはよしよしと彼の頭を撫で回した。こいつら仲が良いなとモンドが他の者に聞こえぬ程小さく悪態をつく。
フィオレは先程から色々な人間に褒められてしきりに顔を紅くしている。世界の歴史や古文学には興味があるが、あまり人に注目されるのも褒めそやされるのも実はあまり得意ではない。
だが、パジャやヴェロンに(恐らくは)その知識を買われて今回の依頼に抜擢された女魔法剣士はそれに応えられた事にやりがいやすこしばかりの自負を感じていた。
図書館司書から女魔法剣士に転職したフィオレである。まだまだ戦闘経験の浅いと言える彼女がこなしてきたギルドの依頼では、今回の任務は過去一番大きなものだったのだ。俄然、自身の力をもっともっと活用して何としてもこの任務を成功させたいと思った。
「明朝マレージャ湖への鍵捜索隊を出しましょう」
「ウム、全員という訳には行かぬから、半分くらいの人員がよかろう」
「私は行きたいです!」
フィオレが手を挙げた。
「そうか、古文書の解読ができるフィオレは確かにいた方がよかろうな。俺も行こう」
山男が同調する。
「ヴェスが行くならば私やセバスチャンはこちらに残った方が良さそうですね。余り片側に戦力を寄せすぎない方がいいでしょうから……時にフィオレ、ミーナ、これから少しお願いがあるのですが」
導師が女性陣に声をかけた。
「はい?これからですか?大丈夫ですが……」
「少し手間のかかる事で申し訳ないのですが、着いてきてもらえると助かります」
「分かりました!」
「ちょっとフィオレ頑張りすぎじゃない?身体大丈夫?」
ミーナがロングヘアをかきあげながらフィオレの顔を心配そうに覗き込んだ。確かにフィオレは今朝早くから図書館で解読作業をし、これからパジャの用事に付き合い、明朝鍵捜索隊に入るのだ。今現在メンバーの中で一番忙しい人間であった。
「大丈夫だよ、ミーナ。でも心配してくれてありがとう」
「本当に?治癒かけた方が良いかしら?」
ミーナが回復術師らしい気遣いを見せ、フィオレの頭を優しくさすった。若い女魔法剣士はやめてよぉーとか言いつつ笑い合っている。
「な、なんか萌えって感じだよな……」
ヴァントがまじまじと二人の様子を眺めて隣のモンドに呟いた。モンドは知るか、とか、馴れ馴れしくないかお前とか言っている。
「に、してもパーティー二人だけの女性を連れてどこに?」
ヴァントが聞くとパジャは
「えっへっへ、まあ必要なのですよ、彼女達の力が。まぁ両手に花と言うか、ちょっとしたデートをしてきます」
冗談だとは勿論思うが二人の女性がげんなりとした顔をする。
「パ、パジャさんそう言う冗談はやめた方が……」
セイラが額に皺を寄せて顔をひくつかせながら言った。セバスチャンに背中を叩かれてなだめられる。
「ハハハ、まあとにかく少しの間彼女達の力を借りますよ。じゃっまた後で!」
言うや否や、パジャは二人の手を取って疾風のように酒場を出て行ってしまった。
「チィッあの好色生臭導師さんはよ……職権濫用じゃないのかコレ」
導師らが出て行ったドアを忌々しくセイラが見やる。
「セイラ、まあパジャさんは何か考えがあるんだろうさ。あの人は一見飄々としているが意味のない事はしない。それはセイラだって知っているだろう?」
セバスチャンがセイラに笑いかけた。セイラも細く見えるがその実引き締まった筋肉を持つ戦士の様である。実力の程も大層なもののようだが、薄緑色の甲冑剣士に対しては畏敬の念を抱いているようであった。その人物に諭されてはそれ以上の言葉は出ないようであった。
「ヴェスカード、私は行けなくてすまないな。どうか鍵を頼む」甲冑剣士が山男に言う。
「構わんよ。鍵をどのように手に入れるか、何か困難や戦闘があるのかもわからんしな。簡単に手に入ってくれればよいが。まあ、お主の剣技を見れないのはちと残念だが」
「フ……それは依頼が終われば好きなだけお見せしよう。とにかく、生きて帰ってきてくれよ」
「おうさ!」
二人の同年代の戦士は杯をぶつけ合った。
「ヴァント……時にあたしも一応女なんだがねぇ……さっきアンタ女性は二人だけ、とか言ってなかったかい?」
ヴァントの肩に突然荒縄のような血管を浮き上がらせた筋骨隆々の腕が巻き付く。スッパガールであった。表情はニコニコとしているが、声が怖い。
「エッ!いやちょっと間違えでッ!ていうかスパさんそう言うのを気にしてェッ!」
「話がある。酒場の裏に行こう」
「ノオォォ――!!」
言うや、女傑に引き摺られて行ってしまった。遠ざかるテーブルを見やるヴァントの眼に、こっそり中指を立てるモンドが見えた……。
*
「湖で調べたいことがある?舟を貸してくれ?……まあ、舟はこれだけ貰えるなら構わんが……湖の中心部の方は行かねえ方がええぞ。水中系の魔物や巨大魚が巣食っている。俺達地元の漁師は昔っから決して中心部までは行かねえんだ。危ねえからさ。」
一行から手渡された銀貨を数えながら漁師は言った。
「色々教えてくれてすまないな。舟は必ず後で返すから。今日はその金で漁に出ないで家で一杯やってくんな」
漁に出んとするところだった漁師は、いくばくかの金を握らせると舟の貸し出しを快諾した。五〜六人は乗れる舟だ。彼等は漁師に聞いた馬小屋に馬を預けると、早速舟を出す準備をした。
「………………」
スッパガールが肩や手に小鳥を乗せて、チュンチュンとさえずっていた。まるで本物の小鳥のさえずりのような、見事な声だ。
「ス、スパさん小鳥と話せるの……?」
ミーナが口に手を当てて驚いた顔をする。
「あたしゃ木こりの仕事柄林や森にいる事が多いからね。少しはさ。勿論魔獣調教師のようには、いかないが」
「いや凄い技だよスパ。それで、その小鳥はなんて」
「湖の中心部へ行くのは、やめた方がいいよって――鳥達もその辺りを飛ばないって――」
その言葉に冒険者達は顔を見合わせた。
青の鍵捜索隊のメンバーは、ヴェスカード、フィオレ、スッパガール、ヴァント、ミーナの五人であった。




