テスト結果
「1来い、1来い、1来い・・・」
「頼む、給料全部突っ込んだんだ頼む来てくれ」
無常にも、3番艇がゴールを切る。
「クソー」
舟券を地面に叩きつける。30歳、独身、彼女なし、貯金なし、こんな時に限って、嫌なことばかり浮かんでくる。
趣味といえば、ギャンブル。特に、競艇場でのギャンブルが大好きだ。
そのギャンブルでも、いつもこんな感じだ。
思わず、地面にへたり込んでしまった。
「おい、大丈夫か」
70代ぐらいであろう、とてもじゃないが、おしゃれとは言えない服装をした老人に声を掛けられた。
「この世の終わりのような、顔をしておるぞ」
「わしも、ここに通い詰めて長いから、君みたいな悲壮な人間を何人も見てきたが、その中でも特にひどいな」
「うるさいな、じいさんも俺に負けないぐらい同じように悲壮な顔をしてるぞ」
的を得たことを言われ、つい適当に言い返してしまった。
「いや、わしはこの通り全く、幸せだよ」
分厚い札束が入った封筒を周りにわからないように、俺にみせた。
「じいさん、それどうしたんだ。」
「予想が当たったに決まってんじゃろ」
「まぐれだろ、どうせ全部すっちまうよ」
「それが、そうでもないんだな、なぜなら、次に何番がくるかわかるからね」
「嘘つけ、いい加減なこと言いやがって」
「次のレースの1着は3, 2着は1, 3着は4だよ」
すぐに、レースははじまり、老人のいった通りの結果になった。
「まじか、なんでわかるだよ」
「いままで、誰にも教えたことはないが、特別だ教えてやろう」
老人は、スマホを取り出し、操作を始めた。
操作を終えると画面を俺に見せた。
「このサイトの通り、舟券を買っただけじゃよ」
画面には、競艇の情報が載っている有名なwebサイトが表示されていた。
「そのサイトなら、俺も見て参考にしてるよ、それがなんだっていうんだよ」
「よく見てみろ、さっきのレース結果が表示されているじゃろ、これがレースが始まる前に見れるんじゃ」
確かに、そこにはさっき開催されたレースの結果が載っていた。
「どうゆうことだ、そんなことあるわけないだろ。」
「疑り深い奴じゃな、まあよい、これだけ渡しておくから好きにせい」
そういうと、老人は紙を俺に渡し、立ち去って行った。
紙には、webのURLらしきものが書かれていた。
変な爺さんだと思い競艇場から自分の家に帰った。
自宅に帰ると、すっかり夜になっていた。
テレビを付け、寝転んで、リラックスしていたが、渡された紙がどうしても気になり、ポケットから取り出した。
やはり、いつも見ている競艇のサイトのURLだ。ただ、気になったのは公式のURLと比べると、後ろにTESTという文字列がついていた。
気づけば、スマホに文字列を入力してサイトを開いてしまっていた。
老人が言った通り、明日の全てのレース結果が表示された。
訳が分からなくなってきてしまった。
「よし、明日も競艇場に行って確かめてみよう、1000円位なら引き出しに入っていたと思う」
「結果が一致しなかったら、じいさんに文句言ってやろう」
次の日、さっそく昨日見た通りに第一レースに掛けてみた。
見事に、サイトの結果通りとなった。
唖然としながら、次のレースもその次のレースも掛けていった。
「全部的中している。じいさんの言ってたことは嘘じゃなっかったんだ」
いつの間にか、上着のポケットは財布に入らない万札でいっぱいになった。
毎週続けた結果、年収の何倍ものお金が銀行口座に貯まった。
悲壮だと、老人に言われた顔もどんどん明るくなり、それにつれて性格も明るくなっていった。
レースが休みの日には、旅行に行き、高級なホテルを渡り歩いた。
平日は、世間体を気にし、仕事に行ったが、まったくもって苦ではなかった。
なぜなら、週末の結果の分かったギャンブルができるからだ。
ただ、気になったのは、あの老人がまったく見当たらなかった点だ。
さすがに、これだけの幸運をもたらしてくれた人だお礼だけはしておきたかった。
「ああ、お酒ってこんなうまいのか」
一生暮らしていけるお金がたまった頃、行きつけの居酒屋に久しぶりに入った。
「どうしたんだい、前は愚痴ばっかり言ってたのに、今日は楽しそうだね」
女将が、話しかけてきた。
「まあね、臨時収入が入ってね」
「なにがあったんだい」
「それはいえないよ」
携帯サイト件については、誰にも話してはいなかった。
富を独り占めしたいと思ったからだ。
「ケチだね、だっだら、たらふく飲んで食べってってくれよ」
「わかったよ」
その日は、金曜日ということもあり、たくさん飯を食べ、たくさん酒を飲んだ。
会計を済ませ、千鳥足になりながら、店をでた。
「ああ、飲みすぎた。」
「終電まで、少し時間がある。少し酔いを醒ますか」
駅前の有名なホテルの入り口の近くに、段差があったため、そこに座り込んだ。
このホテルは、現在、改装中で、夜遅くになると人気はなくなるので、周りを気にする必要はなかった。
「あぁ、そうだ明日のレース結果を見ておこう」
スマホをポケットから取り出し、慣れた手つきで目的のサイトを開いた。
「この最終レースは、大穴がくるんだな」
サイトを覗きながら、一人でほくそえんでいた。
この異常な状態もすっかり慣れてしまった。
なんとなく、サイトを大きくスクロールしてみると、今まで気付かなかったが、いろんなサイトのリンクが張られていた。
なんとなく、ニュースサイトのリンクに飛んだ。
見出しが、つらつらと並んでいた。
「ふーん、あのチームが日本一になったんだ。」
野球には、興味がなかったが、チーム名ぐらいは知っていた。
「あれ、今日の日本シリーズは引き分けで、明日に持ち越されたはずだったんだけどな」
居酒屋で、流れていたテレビを思い出した。
もう一度、記事を読み直してみると、日付けが明日になっていた。
ここで、ようやくこのニュースサイトが、まだ起こっていないニュースを出していることに気が付いた。
どうやら、例の競艇サイトからのリンクは、すべて未来のサイトにつながっているようだ。
「なるほど、おもしろいな」
「次の見出しのニュースも見てみよう」
未来のニュースを見るというのは、今まで体験したことがなかったので、つい夢中に見入ってしまっていた。
気付くと夜12時になっていた。
「このニュースを読んで、駅に歩いたらちょうど終電ぐらいか」
見出しは、「欠陥工事で建物崩落」だった。
読み進めていくと、血の気が引いていくのを感じた。
建物とは、今座っているホテルで、工事とは改装工事のことであった。
「やばい、離れないと」
その瞬間、大きく何かが壊れる音が響き渡った。
ホテルから離れようとするが、酔いがまわってしまいまっすぐ走れない。
その瞬間、手からスマホが落ち、画面が割れてしまった。
割れた画面には、テスト終了という文字が浮かび上がっていた。