ユグドラシル
レビュー執筆日:2019/3/2
●地に足の着いた楽曲をしっかりと伝える良作。
【収録曲】
1.asgard
2.オンリー ロンリー グローリー
3.乗車券
4.ギルド
5.embrace
6.sailing day
7.同じドアをくぐれたら
8.車輪の唄
9.スノースマイル
10.レム
11.fire sign
12.太陽
13.ロストマン
14.midgard
BUMP OF CHICKENというバンドには、一目瞭然な分かりやすい「個性」があるわけではありません。ボーカルは端正であるもののそこまで強い癖があるわけではありませんし、極端に耳に残るフレーズがあるわけでも、特徴的な演奏をするわけでもありません。特に、昨今のフェス文化の影響を受けて現れたバンドに比べれば「地味」に見えてしまうかもしれません。
しかし、それゆえに妙な「あざとさ」が無く、メロディや歌詞を真面目に伝えようとする姿勢に共感を覚える人も多いのではないでしょうか。もちろん、ただ地味なだけではなく、じんわりと心に伝わってくるような楽曲を作り出すというのが彼らの魅力と言えるでしょう。歌詞に関して言えば、『オンリー ロンリー グローリー』の「特別じゃないその手」や『ロストマン』の「破り損なった手造りの地図」のように強烈とは言えないまでもどこか心に引っ掛かる表現があり、それによって一曲の中から様々な想像が膨らんできます。メロディに関しても、一度聴いただけで覚えられる、というよりも何度か聞けばしっかりと印象に残るようなものが多く、それが前述のような歌詞と見事にマッチしていると言えるでしょう。
今作に関して言えば、「人間という仕事」という比喩が印象的な『ギルド』や、比較的ストレートなラブソングでありながら「命の無い世界」のように所々に暗い表現が見られる『embrace』、タイトルに反して徹底的にネガティブな歌詞が並ぶ『太陽』と、特にアルバム曲において、ミディアム・スローテンポでどこか影のある楽曲が多い印象を受けます。シングル曲である『オンリー ロンリー グローリー』や『sailing day』のようにアップテンポで明るい雰囲気の楽曲もありますが、アレンジに関しては、そのほとんどがシンプルなギターロックとしてまとめられており、アルバムとしての統一感は損なわれていません。
『ユグドラシル』というタイトルは北欧神話に出てくる大木から取ったようですが、楽曲の世界観に関してはそこまで神話的な感じではなく、現実世界に即した楽曲を真摯に聴かせる本作。派手な作風ではありませんが、聴く度に味わいが広がっていくアルバムになっているのではないでしょうか。
評価:★★★★★




