表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】身勝手な旦那様と離縁したら、異国で我が子と幸せになれました  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

87/122

87.リリアナの小さな我が侭

 婚約してからも、宮殿で一緒に過ごした。大公家のお屋敷がまだ完成していないの。時々様子を見に行って、屋敷の仕上がり具合を確認する。夫婦の寝室が大きく変更されたと聞いて、照れてしまった。


 リリアナはエルの部屋と並んで、日当たりのいい場所をもらった。未来のお部屋ができる場所で、くるりと回って笑う。この子を、一緒に立派に育てるのが私の楽しみ。愛情を注ぐ子が二人に増えて、私の楽しみも倍になったわ。


 大公閣下は公国へ戻られ、見送った私達は街へ買い物に出た。揺れを吸収するクッションを大量に用意され、心配だからと膝に乗せようとするオスカル様を断る。馬車を降りた私は、リリアナと手を繋いだ。すると彼女は空いた手をオスカル様と絡める。


 間に挟まって両手を塞いだリリアナは、私達を交互に見上げて頬を緩めた。


「こんな感じなのね。前に街で見かけて、私もしてみたかったの。お義父様とお義母様、今日だけ独り占めだわ」


 今日は街での買い物なので、赤子のエルは置いてきた。お母様やお祖母様が張り切っていたので、侍女バーサが助けに入るらしい。安心して任せたけれど、そういえば3人だけの外出は初めてかしら?


「リリアナ」


 注意するような響きのオスカル様を遮って、行儀悪く言葉を被せた。


「リリアナの言う通りね。今日は私もオスカル様も、リリアナが独り占めよ」


「ありがとう、嬉しい」


 今日だけでいい。我が侭を許してあげて。そうオスカル様に告げた。リリアナも分かっている。本当はエルも交えての家族だと。街で偶然見かけた親子が、同じように歩いていたのだろう。


 羨ましく思う感情に、地位や性別年齢は関係ない。素直に言えなかったのは、義母だった後妻に疎まれたから。実の父に甘えることもできず、叔父であるオスカル様に言えなくて飲み込んだ。


 こんなに幼い子が我慢してきたんだもの。今日だけって、自分でもそう言った。彼女はこの愛情を独り占めできないと知っている。それでも「今日だけ」叶えてあげたかった。


 様々な思いを告げるのは帰ってから。だからオスカル様には「後で」と説明する旨を匂わせて微笑んだ。真っ赤な顔で「はい」と承諾するオスカル様と足を踏み出す。


 はしゃいだリリアナは、左右のお店を覗きながら目を輝かせた。ガラス窓に映る自分達の姿に、緩んでしまう頬を引き締めようとして失敗する。その素直で愛らしい様子に、私も幸せな気分になれた。


 一日歩き回り、いくつかお買い物をする。すべて届けてもらうように手配し、オスカル様も私もリリアナの手を離さなかった。きっともう、説明しなくてもオスカル様は気づいている。


 寂しかったリリアナの心に空いた穴を、二人でしっかり埋めた。まだ穴は深いけれど、これからも埋め続ける。面倒ではなく、幸せな作業だから。


「お義母様、お義父様。今日はありがとう。すごく嬉しかった」


 帰りの馬車でそう口にするリリアナは、大人の好むいい子であろうと我が侭を飲み込もうとした。今日の嬉しかった思いを過去にしようとする。


「私も楽しかったわ。また3人で出かけましょうね。エルが連れ出せるようになるまで、まだ先は長いんですもの」


 いいのかと問うリリアナの視線に頷いた。


「いつかエルが歩けるようになったら、リリアナとオスカル様の間にエルを入れてあげてね」


 4人で手を繋いで歩こう。それまでは私達3人で並んで歩くの。


「うん……う……ん」


 何度も頷くリリアナは、流れる涙を慌てて袖で拭った。それから震える手でハンカチを取り出し、目元に当てるまで……大粒の涙をぽろぽろと流した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] リリアナが健気で可愛い(╹◡╹)♡ 押し殺していた寂しさも哀しみも少しずつ昇華されていきますように…。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ