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【完結】身勝手な旦那様と離縁したら、異国で我が子と幸せになれました  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
本編

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60.子どもの成長は早いようで

 大公家の屋敷が建つと決まり、周囲の土地が値上がりした噂を聞く。お母様は「馬鹿ね、近所と言っても見えない距離なのに」と笑った。経済の仕組みの一端を見た気がする。こうやって土地や物の値段がつり上がるのね。お父様に詳しい説明を求めたら、専門用語まじりの解説が始まった。


 途中でお母様に助けてもらい、エルの授乳を求める泣き声に慌てる。考え事をしながら授乳したせいか、エルに胸を強く握られてしまった。結構痛かったわ。ごめんなさい、授乳の時はあなたの顔を見るようにするわ。小さな手をにぎにぎ動かしながら、エルは可愛らしいゲップをした。


 ひいお祖父様がほぼ毎日顔を出すほか、お祖母様も数日に一度顔を見せてくれる。仕事に追われるお祖父様は、夜にこっそりエルの顔を見に来ることが増えた。


 徐々にエルの発する言葉が増えて、顔を見て笑う。いろんな人に接するおかげか、人見知りして泣くことはなくなった。


 オスカル様と大叔父様が交互に顔を見せるようになり、大公家の土地から工事の音が聞こえる。耳を澄まさないと聞こえないほど遠いのは、間に森が挟まっているから。ほぼ手を加えられていない森は、そのまま宮殿まで繋がっていた。


「おねさま!」


 元気な声と同時に、廊下を走る足音が聞こえる。どうやら小さなお客様が見えたみたい。侍女が心得た様子で扉を開けば、部屋に飛び込んできたのはリリアナだった。銀髪を耳の上で左右に結わえ、赤いリボンを揺らしている。ワンピースはピンクだった。


「いらっしゃい、リリアナ」


 さすがに「お母様」の呼称はまずいとあれこれ相談した結果「お姉様」で落ち着いた。まだ舌足らずな幼女は、短く「おねさま」と呼ぶ。飛び付こうとして一度止まり、スカートを一部摘まんで片足を引いた。愛らしい笑みで「ごきげんよう」と会釈をする。


「まぁ、お上手になったこと。さすがですね」


 リリアナは褒められると頑張れるタイプのようだ。先日も礼儀作法を注意されて唇を尖らせたので、私の幼い頃より上手よと母が褒めた。途端に目を輝かせて、マナーを覚えようとしたのだ。その話をオスカル様にしたところ、褒めたら頑張れるようになったとか。


 幼く愛らしい淑女に、私も立ち上がって礼を送る。きらきらした目で、もっと頑張ると告げる彼女に両手を広げた。本当は抱き着こうとしたでしょう? 年齢は1つ上がって、やっと3歳半。まだまだ甘えたい年頃だ。半年以上経ったエルがまだ歩かないのに、リリアナの成長は早かった。


「リリアナも来ていたの?」


「おおば様!」


 大伯母様と呼びたいのだろうが、なぜかいつも一文字足りない。それが可愛いと頬を崩すお祖母様は、エルの様子を見に来たらしい。まずリリアナを優先して抱き締め、頬にキスの挨拶を交わす。それからエルを覗き込んだ。


 ベビーベッドで寝返りを打って転がるエルは、心配だった薄い後頭部もようやくふさふさし始めた。一時期、このまま禿げてしまうのでは? と悩んだ夜もあったけど。子はゆっくり育つが実際はあっという間だ、と笑う周囲の声に励まされた。


「あう゛!」


 気合を入れた声を発し、ぐいと腕に力をこめたエル。力んだわりに寝返りに失敗し、中途半端に転がった。それもまた練習のひとつ。慌てて抱き起すことはせず見守れば、器用に転がって元に戻った。


「大きくなったわ」


 つま先立ちになって覗き込むリリアナに、慌てて抱き上げた。エルと比べられないほど重いけれど、彼女は慣れた様子で私の首に手を回す。体がぴたりと寄り添えば、抱き抱えやすくなった。慣れちゃうほど、大叔父様とオスカル様に甘やかされてるのね。その様子が浮かび、ふふっと笑みを漏らした。

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