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肆・客は総理大臣

遅れてすみません!




 一人目のお客が来てから二時間が経った。そろそろ0時になりそうだ。そろそろ店閉めか、そう思っていると、こちらに近づく足音が聞こえた。見上げてみると、そこにはこの国の首相・望月(もちづき)(のぞむ)だった。

 俺の背中に汗が流れる。今まで、たくさんの権力者の人たちと交流してきたが、ここまで緊張したことはなかった。やっぱり、この国のトップだからだろうか。


「お前が噂されている情報屋か。随分と若そうじゃないか」


「……そ、そうでしょうか」


「見たところ……高校生くらいか?」


 な、なんだこのおっさん!? なぜそこまで分かるんだよ。フードで顔を隠しているのに分かるって、だんだけ動体視力がいいんだよ。もしや、日頃から?


「聞いているか、若者よ。それと、何か失礼なことでも考えていないか?」


「と、とんでもありません。……それで、ご利用は初めてですかね。ここでは……」


「いや、説明はいらない。全て部下から聞いている。相手の欲しい情報を与え、それに似合う対価を要求する、だったか」


「……一応、聞かせてもらえますか。誰から聞きましたか?」


「それはだな。(こうのとり)明美(あけみ)と言ってな、聞いたことあるだろう。確か、お得意様って言うんだっけか?」


 あ、あの人かよ!! 鸛明美、国内大手の運送会社である【鸛運輸】の社長令嬢だ。あの時は、自分の会社のスパイ調査を依頼された。

 当初はちょっとした気まぐれで依頼したようだが、思った以上に裏切り者が多かったから記憶に残っていた。あれ以来、彼女はお得意様となった。


「……なるほど、彼女と関係があったんですね。後ほど、彼女には厳重に注意するとして、今日はどのような情報をお望みで?」


「そうだな。最近、とある大臣が横領しているのでは?っという噂を耳にしたのでな。国民の信頼を落とさぬために、今のうちに対処しておきたい」


「なるほど。ちなみに、その問題に大臣とは?」


 内心、予想はついていた。だが、念のために聞いておく。


「邑財務大臣だ」


 やっぱりそうか。財務大臣の息子がアレなら、親も似ているだろうと思っていたが、予想通りだった。

 子の悪行は親の遺伝とも言うからな。……俺が生み出した言葉だがな。


「少々お待ち下さい。今、情報を集めますね」


 近くにあったパソコンを手に取り、いつものように調べてみた。

 ……結論から言うと、思った以上に真っ黒でした。横領はもちろんのこと、反社会勢力との交流・脱税など、もろもろ……。

 やはり、親と子は似るもんだと実感した。


「なるほど。結論から申しますと、黒です。横領以外にも余罪があるようです。詳細はそちらのプリントに」


 俺は少し離れたプリンターを指さした。そこには、印刷された何枚ものプリントが置かれてた。

 望月総理大臣は、その紙を手に取り、一枚一枚丁寧に見ていった。


「一枚目は横領の証拠となる裏帳簿、二枚目は大臣のスケジュール表とその日に自ら撮った写真が、三枚目は……」


 一個一個説明していたが、総理の顔は険しくなるばかり。正直言って、めちゃめちゃ怖い。許されるなら、今すぐにでも逃げ出したい。だが、そんなことは許されるはずがない。俺は背中に冷や汗をかきながら、総理が書類を読み終わるのを待った。

 しばらくして、総理が深く息を吐き、ようやく口を開いた。


「情報提供、感謝する。報酬は何がいい?」


「そうですね……今回はお金にしましょう。代金は30万です」


「そんなんでいいのか? 随分と安価だな。俺なら1億くらい払うぞ」


「いえ、私はただ趣味で人助けをしてるだけなので」


「謙虚だな。まぁ、いい。ほれ、30万だ」


 総理のポケットマネーの多さに驚きつつも、代金を受け取った。

 代金を渡すと総理は踵を返し、そのまま歩き出した。去り際に、総理が口を開いた。


「また、利用してもいいか?」


 俺は満面の笑みで「えぇ、もちろんです。またのご利用を」と言った。

 すると、険しかった総理の顔が少しばかり笑みを浮かべた。


「じゃな。若き情報屋」


 そう言って、去っていた。

 これで、過去一長いと思えた夜が更けたのだった。




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