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第9話:順調攻略①

「……くくく。良いぞ。実に良いペースじゃないか」


 とある民家の一室に俺はいた。


 椅子に腰を下ろし、机に向き合っているのだった。

 机上には何枚もの走り書きのされた羊皮紙が並べられている。

 重要なのはその文面だ。

 その内容はすべて、現在の状況を記したものであり、


「ふふふふ。すでに砦を4つ落としてみせたか。さすがは【全盛期化】を受けた歴戦の老人ども。平和しか知らん若造では歯が立たんな」


 机に向かっているのは俺だけじゃない。

 隣に座るエギンが俺に頷きを見せてくる。


「えぇ、本当に。ちょっと格が違う感じがあるかな。とにかく、今のところ作戦の方は」

「順調……だな?」

「ですねー。あくびが出ちゃうぐらいに」


 そんな現状であった。


 経緯としてはこうだ。

 結局、傭兵として周辺領主の元で活躍するというのは無しになった。

 周辺領主たちは防備を固めるばかりで動きを見せず、活躍の機会がありそうに無かったからだ。


 そして、ルクサ家が再興を目指すならばという話でもあった。

 ルクサ家残党による、反乱の単独での鎮圧。

 こんぐらいやらなければ、なかなか旧領回復なんて難しい話だろうなってことだ。


 よって、協力を誓った俺たちは、早速敵地へと潜入することになった。


 街道はもちろん封鎖されていたのだが、土地勘のあるジジババ共がいれば、交易品を担いでいるわけでも無い。

 あっさりと潜入は成功。

 

 そして、これまた早速だ。

 早速の行動として、ジジババ共には各地の砦を制圧してもらっていた。

 それはまったく順調に進んでいて、俺は今、間借りした農家の一室で安穏と戦況にほほえんでいられるわけだな。


 しかし……本当に順調だな。

 俺は「くくく」と抑えきれずの含み笑いだった。

 着実に作戦が遂行されていれば笑いを止めようが無かったのだ。


 だが一方で、この作戦そのものに疑問を持つ者もいるらしい。


「しかし、良いのか? せっかく砦を落としても、全てそのままに放棄しているらしいが」


 机に向き合っている最後の1人だった。

 眉尻を不安そうに八の字にしてのルミアナだったが……ふーむ? 

 俺は少しばかり首をかしげることになる。


 一応、説明はしておいたはずなのだが。

 まぁ、今回の件で、コイツは俺たちの大将なのだ。

 道中から、相当の不安と緊張を態度にみなぎらせていたからな。

 多少、作戦におぼつかないところがあっても仕方の無い話か。


「俺たちの戦力じゃ砦なんて運用出来ないからな。敵地内で籠城戦なんてやった所で圧殺される未来しか見えないこともあるが」

「えーと、あー、そうだ。そうだったな。そもそもだが、別に砦を得ることが目的じゃなかったか」


 緊張の面持ちでルミアナが頷きを見せてくるが、そうそう。そういうこと。

 エギンが彼女に対し、安心させるような笑みで頷き返す。


「はい。おっしゃる通りです。この緒戦の目的は、ルクサ家の帰還を領内に知らしめることです」

「あぁ。そして……戦力の充足を図ることだったな」


 今度は俺が頷きを見させてもらった。


「そういうこったな。君の誇るべき家臣たちは、素晴らしい戦力であるがあまりにも数が足りなさすぎる。さすがに千を超えるような数を相手するのはまぁ無理だ」


 ルミアナもまた、俺に頷きを返してくる。


「だからこそ、手薄な内地の砦を落とし、ルクサ家の帰還、そして勝利を得られるだけの戦力があると印象付けて……」

「裏切り者に降った旧臣たちに再びルクサ家に戻ってもらおうってこった。その通りだ。なんだ、しっかり理解してるじゃないか」


 賢そうな子であるが動揺がひどかったって話だけらしい。

 しかし、作戦がこうも好調なのに、何でこうも動揺しているのかって話でもあり。


「どうしたんだ? 何か不安になる材料でも?」

「いや、あー……本当に、私たちに味方してくれる旧臣なんかいるんだろうかって思ってな」


 なかなかの後ろ向きな発言だった。

 ルミアナは緊張の面持ちに、力ない笑みを浮かべた。


「今頑張ってくれている家臣たちからは、ルクサ家がどう善政を行い、どれだけ領民、家臣に愛されていたかって聞かされてきたものだが……それが事実だったとして、すでに30年も前の話だ。正直私はその……まぁ、そういう感じでな」


 わずかにルミアナの肩は震えているようだった。

 まぁ、そりゃそうだわな。

 伝え聞いた話であれば、心から信用するのは難しい。

 そして、味方が現れないようであれば、今回の作戦はご破産。

 付き従ってくれた旧臣たちの命を危険にさらすことになる。


 不安になるのもそりゃ当然の話だ。

 ただ、うん。

 俺は笑いながら、ルミアナの肩を軽く叩くことになる。


「はっはっは。まぁ、気持ちは分かる。だが、これは信じるしかない話だ。だったらまぁ、心の底から信じてやろうじゃないか。君の頼れる老臣たちと、善政を行ってきたらしいご先祖様をな」


 少しは元気を与えることが出来たらしい。

 ルキアナは苦笑寄りだが笑みを向けてきた。


「あぁ、そうだな。信じることにするよ。しかし、貴殿は強いな。信じ切っていると言うか、不安の陰が欠片も見えないが」

「ふふふふ、まぁ、そこはな? 生来の強者の風格と言うべきか、信じるべきことを心から信じることの出来る度量が俺にはな?」

「怖いとか不安とか、そう思えるだけの思考力が備わっていないだけの可能性も……って、痛たっ!?」

 

 余計な茶々を入れてきたエギンはでこぴんで黙らせておく。

 別に、アホみたいに盲信してるわけじゃないっての。

 ちゃんと色々と理由があるわけで、ルミアナを安心させるためにもそこは口にしておくべきか。


「とにかく、大丈夫だろうさ。集められた情報の範囲ではだが、今回の反乱で行く末を案じている農民や家臣は多いみたいだしな」

「あー、うん。そういう話のようだな」


 好材料はまだあった。

 俺は笑みで言葉を続ける。


「善政をやっているとも言いがたければ、不満や不信を溜め込んでいる連中も多そうだ。この農家だって、老臣のツテであってもこころよく貸してもらえたろ? 上手くやりゃあ、味方を集めるのはそんな難しい話じゃ無いって」


 状況はかなりルクサ家にとってありがたいものなのだ。

 ルミアナは今度こそ笑みで頷きを見せてくる。


「そうだな。理由あって、味方は集まる。そういうことだな?」

「あぁ。その通りであれば……くくく。どうやら、それを目の当たりにする時が来たようだぞ」


 俺は外に続く扉に目を向ける。

 複数の足音の接近が聞こえたからだ。

 一瞬敵かとも思ったが、民家を囲むような気配も無ければ、淡々と扉に向かってきている。

 するとまぁ、期待の客とそうなるだろう。


「邪魔するよ」


 ノックの音と同時に扉が開かれ、次いで声も入ってきた。

 俺が応じるより先に、ルミアナが立ち上がりながらに笑みを浮かべる。


「エンネ! 良かった、怪我無く帰ってきてくれたか」


 訪ねてきたのは、くだんの火霊の巫女様だった。

 ルミアナの出迎えに、相好を崩して頭を下げてくる。


「それは心配させてしまい申し訳ありませんでしたね。ただまぁ、このエンネ。昨今の若造共に遅れを取るはずも無ければ」

「ははは、さすがは火霊の巫女殿だな」

「えぇ、もちろんもちろん。まあ、当然【全盛期化】があっての現状ではありますが……シェド。どうやら、お前の言った通りにことが運びそうだぞ」


 その報告に、俺は笑みを深めることになる。


「そうか。じゃあ、アンタが引き連れてきたのは……」

「うむ。待望の客人だな。入るといい」


 エンネが外に呼びかければ、複数の人影が中に入ってくる。注目を奪われるのは、やはりその先頭か。


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