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第7話:共闘体制

 ルクサ家。


 少しばかり思考を巡らせたが思い至る名は無い。

 エギンにも「どうだ?」と視線を送ったが、返ってきたのは首を左右にしての否定だった。


「あー、俺たちは東の出身でしてな。申し訳ないが心当たりは」

「いや、西の出身だったとしても、それが当然の話だ。ルクサ家は今はもう無いようなものだ。30年前に、家臣の裏切りにあってほとんど消えてしまった。私たちはその名残のようなものだ」


 俺はエギンと顔を見合わせることになった。

 思いがけず重い話を聞かされているが、あー、これはどう反応したら良いものやら。


「それはなんとも……大変だったようですな?」

「まぁ、その辺りの苦労を私は知らないがな。私が知っているのは、裏切り者に領地を奪われて困窮に苦しむルクサ家だけだ」

「そ、それはそれで大変なような気がするが……もしかしてですが、こうして集まっているのはそれで? 今回のことで活躍して、再び家名を立てようと?」


 この問いかけに、彼女は苦笑を見せてきた。

 

「ははは。さすがにこの老人所帯で活躍出来るとは思っていないさ。今回内乱を起こしたのがな、その裏切り者なんだよ。ルクサ家から領地と名誉を奪い取ってくれたな」


 俺は目を丸くすることになった。

 や、ヤブから棒になかなかな話の展開だな?

 「ほ、ほぉ?」ってなるしかないのだが、そんな俺とエギンを尻目にだ。

 彼女はどこか切なげな表情で家臣とした老人たちを見渡した。


「彼らは落ちぶれた私たち一族に付き従ってくれた老臣たちでな。だからこそ、今回のことを聞いてまぁその、じっとしていられなかったというか。本当それだけだな。何が出来るとは誰も思っていない。ルクサ家の残党としてじっとしていられなかったと、本当それだけだ」


 意地……って感じなのかねぇ。


 そう理解する俺に、ルクサ家の女性は苦笑を見せてくる。


「と言うことでな。彼らとルクサ家を褒めてくれたのは嬉しかったが、戦力を望んでいるのなら残念ながら応えることは出来んな。他を当たられるが良いだろう」


 俺は少し黙り込むことになった。


 同意の沈黙じゃあもちろん無い。

 俺には【全盛期化】がある。

 彼女の老臣たちを戦力と出来るだけのスキルがあるのだから、同意する必要なんてさっぱり無いからな。


 だから、この沈黙は……ちょっと感慨深いって言うかな。

 裏切られて落ちぶれてか。ある種、運命的なものを感じざるを得ないと言うか。


「……どうせだったら、奪われた領地を全て取り戻すって、そんな目標を掲げてもいいんじゃないか?」


 本気とは思われなかったらしい。

 彼女は苦笑の色を濃くしてくる。


「なかなか面白いことを言うな。そもそも一戦無事に戦いきれるかも怪しいんだ。その目標は、空虚すぎて少しなんとも……」

「出来る」

「は? で、出来る?」

「くくく、そうとも出来るとも!! 俺の特位スキル!! 【全盛期化】さえあれば、それも可能だ!!」


 ルクサ家の面々は揃って目を白黒させている感じだが、まぁ、前情報も無ければコイツ一体何言ってんだとなって当然か。


 では、早速見せてやればいい。


 意識して使用するのは初めてか。

 俺は老人たちを見据え、【全盛期化】を……【全盛期化】を……


「えーと、エギン?」

「はい、なんでしょうか?」

「スキルってさ、どうやって使うんだ?」


 使い方がさ、さっぱり分からないんだけど、マジで。


 エギンは俺と違ってちゃんとスキル持ちとして生きていたのだ。

 説明をくれるはずで、案の定頼れるエギンだった。


「そっか、初めてですもんね。じゃあまずは言語化して下さい」

「言語化?」

「多分、スキルを使おうとして、胸中にモヤモヤとしたものを感じていると思います。それを自分の中で言葉として処理するんです」

「む、難しいことを言われている気がするが……まぁ、うん」


 言われた通り、自分の胸中だか心中だかに意識を向ける。

 すると、確かにだ。

 何だかモヤモヤというか、言葉に出来そうな何かが存在しており。


「あーと、これか?」

「おそらく。深呼吸しながらにですね、言葉にするとどうなるかってゆっくりとどうぞ」


 言われた通りにやってみる。

 これを言葉にするとなれば、えーと、あー……


《○○○○を【全盛期化】の対象に設定しますか?》


「……出来たような気がする」

「いいですね、飲み込みが早いです。あとはその要領ですので、ご自身のペースで」


 これまた言われた通りに進める。


 どうやら、俺のスキルは対象を設定したがっているらしい。

 咄嗟に目に入ったのは魅力的な目をした老婆だった。

 そうだな。

 全盛期の実力が気になるところだし、まずは彼女にさせてもらおう。


 しかしなんつーか、名前が分からないと運用しにくい感じだ。

 と言うことで、


「あー、すまん。そこの婆様だが、名前を聞いてもいいか?」

「わ、ワシか? 名はエンネだが……」


 よし、エンネか。

 俺は名前を頭に入れた上で、彼女の存在を意識する。


《エンネを【全盛期化】の対象に設定しますか? ※想定コストは5相当》


 言語化した感じはこんなだった。

 コスト? まぁ、良く分からんところはあったが、当然のよしだ。


《設定が完了しました》


 よって、スキルの発動は完了……で、良いのか? 

 見た目の変化が分からなければ、俺はすぐに問いかけることになる。


「変化があるはずなんだが、ど、どうだ?」

「……なんだい、これは」

「へ、へ?」

「衰えていたはずの魔力炉が万全に、体もまるで……こ、これはなんだい!? 一体何がどうなってる!?」


 どうにもエンネは動揺しているらしいが、その様子に俺はニヤリだった。

 これはつまり、そういうことだろうさ。


「おい! そこの連中、ちょっといいか?」


 俺が声をかけたのは、先ほど老人たちに絡んでいたごろつきどもだ。


「は? なんだよ! さっきは邪魔をしておいて今度はなんだってんだ!?」


 当然の疑問の声に、俺は笑みで叫び返す。


「ちょっとな、この婆さんと戦ってみろ!」

「は、はぁ? その婆さんと?」

「あぁ! 勝てたら何だってしてやるし、何だってくれてやる!」


 端的に言えば、実験台が欲しいということだった。

 誘い文句に釣られたらしく、ごろつきの数人が近づいてくる。


「何でもって言ったな! 忘れんなよ!」

「もちろんだ。あーと、エンネ殿。アンタも良いか?」

「……まったくもって良く分からんが……良いだろう。ワシも疑問は置いておいて、とにかく動きたい気分だからな」


 事情を知らない他の老人たちが制止する中、エンネはごろつきたちの前に進み出る。

 ごろつきたちは腰に剣を差していたが、さすがにそれを抜く気にはなれないらしい。

 代わりに、拳を鳴らしながら前に出てくる。


「ババァを殴るってのはいまいち気がひけるが……オラァ!!」


 言葉ほどにためらいもなく飛びかかる。

 うーん、俺の中の常識的な感性は止めに入れって訴えてくるが、結果はきっとまぁな。


 なんとも見事だった。


 拳がエンネに届くことは無い。

 その勢いを利用されたといった感じで、ごろつきどもはキレイに地面に投げ飛ばされた。


「……へぇ。魔力炉って言ってたから、てっきり魔術士かと思ったんだがな」


 俺の感心のこもった呟きに、エンネは拳をにぎっては開いてを繰り返しつつ答えていた。


「戦場に立つ魔術士であればこの程度は出来るもの。しかし……まったく分からん。ワシは何故、こんなふるまいが今さら出来る?」

「そこに関しちゃ後で説明するが、出来れば魔術士としての実力も見せてもらいたいところだな?」

「ふん。それは無理な相談だ。この程度の連中では、死体の山が出来上がる」


 そう言って、エンネはゆっくり手のひらを開いた。

 その中には、青色の炎が何やら竜のような形を作っていたが……


「えーと、この婆さんって、やっぱりすごい人?」

 

 俺は思わず当主らしいルクサ家の女性に尋ねかける。

 なんか普通の魔術士って感じが全然しないわけだが、彼女は呆然として頷きを見せてきた。


「火霊の巫女、エンネ。その炎に滅せぬモノは無しと謳われた、当時最強の魔術士の1人だ」

「さ、最強。あー、ごろつきども。もういいからな? 悪かったから、さっさと帰ってゆっくり休めな?」


 何かの間違いで焼死体が出来上がっても困るし。

 当人たちも、自分たちの行く末を案じていたらしい。

 必死の形相での頷きを残して、またたく間にどこぞへ走り去っていった。


 ともあれ、実験は終了。


 俺のスキルが証明されたわけで、当主の女性に「ふふん」と得意の笑みを向けることになる。


「まぁ、こういうことだ。他の家臣たちもかなりの実力者だったろうが、俺は彼らに全盛期の力を取り戻させることが出来る。当時の雪辱を晴らす助けには十分になり得るぞ?」


 状況を十分に理解してくれたらしい。

 彼女は呆然とした様子がだが頷きを見せてくる。


「……そうみたいだな。だが、何故だ?」

「何故?」

「どうやら非常に協力なスキルを持っているらしいが……何故? 何故、私たちに協力してくれる? 貴殿のこの力があれば、もっと大きな勢力に味方してもっと確実に栄達が望めるはずじゃ?」


 納得の疑問ではあった。

 ただ、俺は貴族の家臣になりたいわけじゃなくて、あの豚ヅラを見下せるような出世がしたいわけだからな。


「そこは気にするな。俺たちには俺たちの目的があるからな。無事目的が果たせたら、そこには俺の協力があったって宣伝してくれればそれで良い」

「そ、そんなことで良いのか?」


 そんなことで十分だった。

 俺が期待しているのは、宣伝があってのその後なのだ。


「あぁ。俺の活躍が王家の耳に入ってな? 引き立てられての大出世、あるいは王家に婿入りなんてことも……ふふ、ふふふふふ」

「え、えーと、あー、本当よく分からんが……」

「まぁ、ともかく気にしなくてもいい。かなり親近感を覚えていれば、俺は全力で貴殿らに協力させてもらうからな。だから、ほら」


 俺は手を差し出させてもらう。

 その意味は彼女にも十分に察せられたらしい。

 いまだ戸惑いを漂わせつつも、俺の手を握り返してくる。


「な、なんともこう夢心地だが……感謝する。私の名は、ルミアナ・ルクサ。貴殿の協力に全力をもって報いることをここに誓おう」

「ふふふふ、それはありがたいな、ルミアナ殿。では俺は、必ずや裏切り者を叩き潰し、ルクサ家の領土と名誉を回復させることを誓わせもらおう」


 俺としては当然の回答だった。

 だが、ルミアナは苦笑いを俺に返してくる。


「それはまたありがたいが……そこまでのことを誓って頂かなくてもけっこうだぞ? なにぶん、この人数だ。貴殿のスキルがあれど、そこまでのことはなし得まい?」


 彼女の言い分ももっともに聞こえた。

 確かに、この場には俺とエギンを含めても20人と少し。

 相手がどれほどの規模かは知らないが、対抗するのに十分なわけがない少数戦力だ。


 しかし……ふーむ。

 実力者は揃っている。

 やりようはそうだな。


「楽にとはいかないだろう。だが……なぁ、エギン?」

「え? もしかして、困ったからって僕に話を回してきましたか? 無茶振りってヤツですか?」


 心底嫌そうな顔をするエギンだったが、違う違う。

 俺は首を左右にする。


「ただの確認だ。俺たちの顔ぶれは老人ばかり。油断を誘うには十分すぎるな?」

「でしょうね。あとはルクサ家の方々ってのが大きな効果を上げるような気がします。裏切った方は、やっぱり復讐っていうのを恐れるものですから」


 俺は感心の表情を見せることになる。


「なるほど。動揺を誘うことも出来るか」

「あとはこの状況そのものですね。反乱って、単独勢力で起こすものなのかなと」


 なるほど。俺は頷きをみせることになる。


「ふーむ。今は領主が単独で起こしているような感じだが、これでは勝ち目など無いからな。意思を共有する味方がいると考えるのが普通か」

「ですから、どこそこで反乱が未然に防がれたぞー、とか、誰々が捕まったぞーとか適当に流せば……」

「これまた動揺をな。反乱している領主の家臣たちも一枚板じゃないだろうし、離反者も望めると」


 俺の意見は正しいものだったらしい。

 エギンは笑みを見せてきた。


「そういうことです。そもそもルクサ家の旧領であれば、雲行き次第では味方も望めるような気がしますし。旧臣の方々も、別に全員が領地の外に逃れたわけじゃないのですよね?」


 これは明確にルキアナへの問いかけだったが、反応は同意の頷きだった。


「そう聞いている。大勢が決したとなって、裏切り者に降った者も大勢いたと」

「ありがとうございます。まぁ、生活もあればそれが自然ですよねー。ただ、罪悪感が残っていそうな気もすれば……利用出来ますかね?」


 エギンの同意を求める視線に、俺は笑みを返して見せる。


「だな。勝勢でされあれば、いや勝勢であると思わせることができれば味方を増やせる余地は十分にあるだろうさ。これは……ふふ、ふふふふ……」


 何だか見えてきたような気がするな。


 この少数で勝利を掴んでこそ、ルクサ家に領地を再びなんて話も出てくるだろうし、俺の名声もうなぎ上りだ。

 いいね。やってみる価値はある。勝算は十分にあるぞ。


「くくく。まぁ、ともかくだ。行動に移るとしようじゃないか」


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