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第6話:老雄との出会い

「しっかし、本当に内乱なんですねぇ」


 エギンの言葉に、俺は頷きを返すことになる。


「だな。まさか本当に内乱が起きているとは」


 神父殿にスキルを判定してもらって、さらには内乱の情報をもらって早3日にもなるか?


 俺とエギンは西に進み、とある街にたどり着いていた。

 そして通りの端から見ている光景がこれだ。


 人、人、人にさらに人って言うか、数えるのが億劫(おっくう)になるぐらいだな。


 とにかく人だった。群衆だ。

 荷馬車もまったくもってひっきり無し。

 そこそこの規模の街ではあるのだが、明らかにこの規模には似つかわしくない人波が目の前にはあった。


「戦時の需要を当て込んでってことか? 30年ぶりだってのに、ようまぁ機敏なこった」

「当時を知る人たちが息子やら孫をせっついてるんでしょうね。ともあれ、これだけ人が動いているってことは」

「尋ね歩いた結果と同じだろう。まぁ、本当に内乱やってんだろうな」


 俺は思わず笑みを浮かべることになった。


 予定通りだ。

 これで、この内乱で見事に成果を上げて見せれば、あの豚ヅラをぎゃふんと言わせる一歩を無事に踏み出すことが出来るだろう。


「しっかし、問題はどう活躍するかですけどね。なにか策なんかあるんですか?」


 若干の高揚が見事に吹き飛んだのだった。

 エギンの言うことは本当に確かに。

 問題はまったくもってそこだった。


「……とりあえず、周辺諸侯は傭兵を求めているとは思うが」

「そうですね。平和な時期が長くて、どこも軍備は最低限も良いところでしょうから」

「あぁ。実際、傭兵志願っぽいごろつきはけっこう見かけるしな」


 人波に目を向ければすぐに発見出来た。

 腰に差した長剣にふらついていたり、布で穂先を包んだ槍をおっかなびっくり運んでいる連中が確かにいる。


 素人臭いことはなはだしいが、アレらは傭兵志願で間違いないだろう。

 エギンは同意の頷きを見せてくる。

 


「ですね。で、傭兵として参加するとしまして……やはりどう活躍するか。【全盛期化】がやはり切り札になるとは思いますが」

「あぁ、そこはもちろんな。ただまぁ」

「ただまぁですよねぇ。強力なスキルですけど、僕たちにそんな効果があると言いますと」


 俺は「ふーむ」とうなり声で肯定に代えることになった。


 そこが本当になぁ。

 もちろんのこと、常に最良の状態で戦えるというのはとんでもないメリットだ。

 ただ、俺たちの場合は今が全盛期に近ければ、能力的な上澄みはほとんど無い。


 そして、この2人で戦場で大活躍といけるかと言えば……そこらのごろつき100人分ぐらいはいけるだろうけどな。

 それでも、個人戦力2人分相応と言うか、そんなとびきりの栄達が望めるような活躍が出来るかと言えば。


「やっぱりいるよな、戦力」

「そりゃあまぁ」

「アルミニウス騎士団のことを考えれば、狙うべきは老雄だな」

「多分、【全盛期化】があってのことでしょうけど、本当すごい戦力でしたからねぇ」


 俺もしみじみと頷きを返すことになる。

 訓練や模擬戦で味わってきたことだが、あの連中の実力はまったくもって群を抜いていた。


「あぁ。だからこそ、30年前を生き抜いた連中を味方に引き込めれば十分活躍出来る余地はある」

「そこにはまったく同意します。ただ、その老雄をどうやって味方にしますかね? そもそも、どこにいるのやらって話ですが」


 俺は腕組みすることになる。確かにと言うか、俺にはそのアテはさっぱり無い。ただ、


「まぁ、なんとかなるんじゃないか?」

「なんとかなりますかね?」


 俺は当然と頷きを返す。


「夢よもう1度ってな。30年前の活躍が忘れられない老兵どもが、きっと傭兵にって集まってくる。そいつらはきっと昔と今の自分の違いに愕然(がくぜん)としているだろうからな。捕まえて、全盛期の力で戦わせてやるってやれば味方なんて簡単に集まるだろ」


 そんな俺の意見に、エギンはいぶかしげに首をかしげてくる。


「うーん、後ろ半分については同意出来ますけど……出てきますかね? 老雄たちがわざわざ」

「出てくるだろ。俺だったらそうする。昔味わった興奮と称賛を再びってな」

「なんかいそうな気もしてきましたが……昔活躍出来た人なら今はそれなりの地位にいそうですし。のんびり老後を楽しんでそうな気もしますけどねぇ」


 まぁ、確かにってご意見だった。ただ、

 

「俺もそんな気がしないことも無いが、んなこた考える必要はねぇだろ。俺たちには何のツテもアテも無いんだ。出てくると信じて探すしかない」

「悲しいほどに無策ですけど、そうせざるを得ませんかねぇ」


 と言うことで捜索だった。

 実際は捜索と言うほどでも無く、通りを歩いてそれっぽい人間に目をこらすというぐらいだが、とにかく探す。


 なかなか目当ての人影は見つからなかった。

 見つかるのはひと山当てようというごろつきまがいの集団がせいぜい。


 どうやら老雄どもも平穏に当てられてずいぶん大人しくなってしまったらしい。

 もっとも衰えもあればそれも当然かもしれないが……参ったな。

 これでは、俺の立身出世復讐計画が暗礁にってことにもなりかねないが。


「シェド様。どうでしょう? あっちですけど、なんかそれっぽくないですか?」


 不意に隣を歩くエギンが俺に呼びかけてきた。

 やはりさすがエギンか。

 俺は胸を高鳴らせて応じることになる。


「どうした? 見つけたか?」

「かもしれません。ほら、あっちです、あっち」

「あっちか? ……ん? あの、ごろつきどもか?」

「違います、違います。それに絡まれてるほうです。ほら」


 俺はエギンが指差す方に目をこらす。


 そこには、うん。

 ごろつきに絡まれて老人がいた。

 いや、老人の集団があった。

 俺は目を細めることになる。

 どう見てもだ。

 それはほのぼの老人会といった雰囲気ではなかった。


 誰もが程度の違いこそあれど武装をしていて、さらにはそれぞれがまとう雰囲気も……


 自然と足早に近づくことになる。


「あっはっは! じじいどもがなんて格好してんだよ? 腰曲がってるくせに槍に剣なんか偉そうに。良かったら、それは俺たちが……って、だ、誰だよ、お前!」


 からんでいたごろつきどもは無視する。


 ごろつきどもには一切合切無視を決め込んでいた老人たちだが、俺とエギンの出現に対し反応を見せてきた。

 槍を持った白髪の男が軽くにらみを効かせてくる。


「なんだ、新手か? あいにく、こちらは先が短い。お前たちに構っていられる余裕など無いぞ」


 その静かな声音に、俺はちょいとゾクっとした。

 間違いない。

 これが俺たちが探し求めていたものだった。


「……じいさん。アンタ、昔相当やってた口だろ?」


 返答は無い。

 いぶかしげに眉をひそめてきたのだが、そこにあるふるまいもただの老人のものでは無かった。


 つーか全員だな。

 20人ばかりの老人たちだが、誰もがとても並には見えない。

 アルミニウス騎士団で接した老雄たちと近しいものを感じさせる。


 そして、その中でも一際気になる存在があった。


 1人の老婆だ。

 黒の外套を着込んだ小さな老婆なのだが、その目だ。眼差しだ。

 俺の視線に気づいたらしい。

 老婆は俺に敵意に似た視線を向けてくる。


「なんだい? このババァに何か用事かね? 物盗りのたぐいであれば、別の相手を探した方が良いと思うがね」


 妙な邪推(じゃすい)を生んでいるらしく、鋭くにらみつけられるが……ほぉ? これはこれは。


「いや、物盗りなんかじゃない。ちゃんと用事があって話しかけさせてもらった次第だ」

「そうかい。じゃあさっさと話しな。老人の気の長さを試すもんじゃないよ」

「あぁ、分かってる。だがな、婆さん。その前に1つ言わせてもらっていいか?」

「なんでもいいから、さっさと言いな」

「じゃあ言わせてもらう。アンタ……いいな。すっげぇ魅力的な目をしてんな」


 婆さんは「は?」と目を丸くしてきたが、くくく、悪いな。

 いきなり褒められて動揺しているようだが、こちとら抑えきれない衝動を覚えているわけでな。


 俺はかまわず手を差し出させてもらう。


「間違いない。アンタこそが、俺が探し求めていた女だ。くくく、どうだ? 俺と一緒に来ないか? 一緒に良い夢を……って、あぁ?」


 邪魔が入ったのだ。

 エギンが俺の腕を引っ張っていれば、一応対応に出ることに。


「おい、なんだ? 今、良いところだろうが」

「あのー、僕は分かっていますよ? そういう意味で口説いているわけじゃないのは分かっていますよ? でも、あの人たちざわざわしてますよね? もうちょっと言葉を選びません?」


 よく分からんが、俺の言葉選びがエギンには気に入らないらしい。

 しかしだな。ようやく見つけた目当ての連中だ。

 そんな悠長に言葉を選んでいる余裕があるかと言えば、そりゃあな?


「だーもう、邪魔すんな! あんな良い女がいて、落ち着いていられるかよ!」

「だ、だから、そういう言葉選びがざわつかせてるって分かりませんかね!?」

 

 多少ざわつかせたからなんだと言うのか。俺は引き続き婆さんに声をかけさせてもらおうとした。だが、


「そこの男。何をしている?」


 背後からの声かけだった。


 俺はすぐさまに振り返る。

 そこにいたのはエギンと同じぐらいの年頃の女性だった。

 どうにも普通の町娘では無い。

 軽装ではあるが剣を腰に差していて、細長の目にも多少の鋭い空気が宿っている。


 だが……うーむ。


 あの婆さんと比べればな。

 いや、比べるべくも無いわな。

 そんな彼女は俺をにらみつけつつ、静かに口を開いてきた。


「どうにも、彼らに突っかかってくれているようだがな。それは許さん。用があるなら私に……」

「うるせぇ」

「は?」

「うるせぇ!! 俺は小娘には興味はねぇんだよ!!」


 邪魔でしかなければ、怒声をぶつけておく。


 俺は再び婆さんに向き直る。

 なんか、妙に唖然としている風だが知ったことか。

 俺は彼女に近づいて、あらためてその風貌を観察させてもらうことした。


「……くくく。本当にな。良い、実に良い。理想的だ。何て良い目をしてんだよ、おい。並外れてんな。その両目で、どれだけの男どもを射殺して……って、なんだよ」


 袖をひかれる感触があった。

 その当事者は当然エギンで、先ほど以上の不審の目線を俺に向けてきている。


「あ、あのー、大丈夫ですよね? 当初の目的を忘れてませんよね? そっちの意味で口説いてるようにしか見えませんけど、違いますよね?」


 俺は眉根にシワを寄せてエギン見返すことになる。

 本当、何を言っているのか分からなければ、俺は再び老人たちに目を向ける。


「それよりもエギン。あの爺さんを見てみろよ。すげぇ良い足腰してるぞ。あれはまだ現役だな。ふふふ。なんて魅力的なんだよ。マジで本当に魅力的だな、ふふ」

「え、えーと、本当に大丈夫ですよね? 僕の知らなかった新たなシェド様の一面を全力で披露されているわけじゃないですよね? ねぇ? ねぇ?」


 本当にだった。

 何を不安に思っているのか分からんが……おっと。


 俺はわずかに身を引くことになる。

 さっきの小娘が、妙に動揺した表情を見せつつ俺と老人たちの間に割り込んできたのだ。


「おい、何だよ。だから俺は、小娘には興味は無いと……」

「お、お前にどんな性癖があろうと興味は無いがな! 彼らは私の家臣だ! 彼らを困らせるようなことは私が許さん!」


 俺はちょいと面目(めんもく)を改めることになった。

 へぇ、そうだったのか。だったら、あまり失礼な態度もな。


「あー、それは失礼なことをした。彼らのような家臣を持っているということは、さぞ高名な領主殿なのでしょうな」


 ここでも不思議な反応だった。

 女性は切れ長の目を分かりやすく驚きの形にしてきた。


「こ、高名な領主? どうしてそんな風に思ったんだ?」

「それはまぁ、彼らは並大抵の武人では無いでしょうからな。それを家臣に持つということはそうに違いないと」

「……それが分かるか?」

「最近までその手の連中と近しくしていまして。いや、それで無くても相当のバカでなければ歴然では?」


 多少の人を見る目があればな。


 ともあれ、俺の言動は女性を含めた彼らの態度を変えるには十分だったらしい。


 女性は槍を持つ老人に目配せをした。

 おそらく、彼が彼女にとっての俺のエギンのような存在なんだろうな。

 その老人が頷きを返したことで、彼女は俺たちを腰をすえて相手するつもりになったようだ。


「まだ、貴殿の性癖関係で戸惑いはあるが……老人たちが年甲斐も無くとバカにしにきたわけじゃないようだな」


 俺は当然と頷くことになる。


「んなわけが無い。俺たちは傭兵として、味方にすべき戦力を探しているのでしてな。それで貴殿らを見つけたわけでして」

「戦力? だとしたら、彼らは少し年を取りすぎているように見えると思うが……」


 疑問はもっともだが、俺は笑みを返すことになる。


「ふふふ。その辺りには何も心配はいりませんが……ともあれ、貴殿らも傭兵に? いや、名家だとすれば、うーん。上位に当たる領主の招集に応じる途中だとか?」


 思いつくところはそれだったが、どうにも正解では無いらしい。

 女性が見せたのは、どこか悲しげに見える苦笑だった。


「いや、そうじゃない。名家だろうなんて言ってくれたのは嬉しかったが、私たちはそんな名家と呼べるような存在じゃない。それどころか領地すらなければ貴族ですら無いんだ」

「へ?」

「隠すようなことでも無ければ、褒めてもらったしな。正直に話そう。貴殿はルクサ家を知っているか?」


ヒロイン(ババァ)登場です! ご期待下さい。

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