第13話【side:ケルム】:今後の展望
やや混乱が収まりつつある騎士団にて、ケルム・デナウはかなりところ困惑していた。
「……あの男は一体何を考えているのだ?」
騎士団の書斎だ。
椅子に座り、その背もたれに体を預けながらに彼は首をかしげていた。
まったくもって不可解だったのだ。
そして、その思いは彼の親友にもあったらしい。
同じく椅子に体を預ける白髪の騎士……ヨギームが、彼にならうように首をかしげる。
「ですなぁ。鎮圧の貢献者を反乱の当事者に仕立て上げるとは……」
「何か考えがあってのことだと思うか?」
「内通者の報告を聞く限りではそれは無いかと。おくびょう者のそしりを免れるための突発的な妄動。そう理解するのが妥当なのでは?」
ケルムは頷きを返すことになる。
彼の理解でも同じだった。
カルヌン王……ユスファンは非常に分からない男だったのだ。
何をしですか分からない男。
その思案は、侮蔑に値する意味で理解が難しかった。
(やはり、あの男を王位につけておくわけにはいかんな)
カルヌン王という最大の名誉をユスファンの奇行で汚しておくわけにはいかないのだった。
もちろん王位にあるべきは血筋も正しければ極めて優秀な自身であるとケルムは再認識し……ヨギームに問いかけることになる。
「しかし、さてだな?」
「はい。これからの行動について考えなければなりません」
ケルムは腕組みで悩むことになる。
かなりのところ悩ましかったのだ。
彼の目的は、王家の簒奪において主導権を握れるようになることだ。
自身の圧倒的な武力を衆目のものとして、次代の王は誰かと知らしめることだ。
それは反乱の鎮圧によって実現が難しくなっていた。
ただ、突如降って湧いたユスファンのこの奇行だ。反乱軍は中身を変えて復活した。
であれば、自身が颯爽として鎮圧し……とは、さすがになれなかった。
「鎮圧してみせるのは無いな」
「もちろん。あれを鎮圧してみせるのは閣下の体面に傷がつきます」
もちろんのこと、ケルムはユスファンほどに愚かではなかった。
鎮圧者を反乱軍とみなしての武威の行使。
これで何が得られるかなどと、当然のこと理解していた。
であれば、どうするのか?
ケルムは考える。
自身は正義でなければならないのだ。
武威を示すにしても、それは正義の武力でなければならない。
でなければ、いざ簒奪に打って出た時の支持者の数に大きな違いが出てくるだろう。
「いっそのこと、王家の討伐軍を相手にされますか?」
ヨギームの提案にケルムはしばし沈黙をはさんだ上で頷いた。
「……そうだな。それ以外にはあるまい」
当初の予定であれば、王家とは可能な限り武力を交わすつもりは無かった。
王位に着いた後の統治を盤石にするために、後ろ盾としての戦力を温存するためだったが……すでに計画は大幅に狂っている。
そのことを思えば、この件に関しては妥協してしかるべきだった。
「承知しました。では、早速連絡をつけるとしましょう」
頷いてのヨギームだったが、ケルムはそれに首をかしげることになった。
「連絡をつける? すでに同志になり得そうな諸侯とは意思を通じていたのではないか?」
王家とことを構えるとなって、慌てて連絡をつけなければいけない相手が果たしていたのだろうか?
不思議に思うケルムに、ヨギームはいつも通りの微笑で告げてくる。
「相手はルクサ家です。王家の狙いが彼らとなれば、協力を得るのが自然ではありませんかな?」
ケルムは明確に眉をひそめることになる。
その提案は、彼にとって意外以上に不快なものだったのだ。
「バカを言うな、ヨギーム。ルクサ家などと、かつては名家だったようだが所詮は西の田舎領主。さらには、この30年は農民同然の暮らしぶりだったようではないか? もはや卑しき下民も同然だな」
吐き捨てるようにケルムだった。
ヨギームは不思議そうに首をかしげる。
「はぁ。では、どうされると? 味方にするつもりでなければそれでは?」
「ふん。せいぜいが王家を悪とするための生贄だな」
これで、ケルムの意図は多少のところ伝わったようだった。
ヨギームは首をかしげながらにだが頷きを見せる。
「ルクサ家が討伐され、王家の軍勢が悪名を轟かせるに至って閣下は兵を動かすと?」
「いや。それでは遅すぎる。ルクサ家が追い詰められた段階で動くのだ。討伐された後では、忠義者を守るためでは遅すぎたとの悪評がついてまわることになるだろう」
いずれにせよ、ケルムにルクサ家と手を結ぶつもりはなかった。
下賤な者たちであれば、自身の高貴なる簒奪劇の大きな汚点になるに違いなかったのだ。
そして、私怨もあった。
彼は忌々しげに舌打ちを打つ。
「ちっ。追い詰められた末にとは言え、助けてやるのも業腹だな。我が計画を散々に狂わせおって」
「とは言え、助けなければ閣下のおっしゃった通りです。王家と同じ穴のムジナということになるのでは?」
「ふん。とりあえずはまぁいい。助けてやろう。だが、私が王位に着いた暁には……」
適当な罪状でも作り上げれば良いのだった。
ひそかに、だが確実にルクサ家にはまた表舞台から消えてもらう。
当然の行いだった。
下賤な者たちであれば、簒奪の成った暁にありもしない成果を主張してくる可能性も大いにあった。
自身の統治に、下賤な者たちを関わらせる気などケルムには一片として存在しなかった。
「とにかく、ルクサ家が窮地に陥ることをもって我々は行動を起こす。そのつもりで準備を進めよ」
これで方針は決定した。
そのはずなのだが、ヨギームからはすぐに返答は無かった。
「どうした? 何か計画に不備でもあるのか?」
尋ねかけると、彼は頷きを見せてきた。
「はい。ルクサ家は小勢ながらに、無事に反乱を鎮圧した勢力です」
「だからどうした? そのことをもって厚遇してやれとでも言うのか?」
「いえ。今回もということもあり得るかと思いまして」
「今回も? ……まさか、今回もまたルクサ家が勝利する可能性があるとでも言うのか?」
ヨギームの反応は、今回も頷きだった。
「可能性の話ではありますが。ルクサ家の奇跡などと胡乱な言葉が聞こえては来ますが、恐らくは何かしらの有力なスキルを擁しているのでしょう」
「であれば、王家の軍勢に勝ち得るというのか?」
彼は今度は首を左右にしてくる。
「分かりません。ですが、やはりその辺りは気になるところです。報告に見えるシェドという名もやはり気になるところであれば」
当然も当然の話だが、ケルムの脳内にシェドの名前などはシの字も残っていなかった。
「よく分からん名を急に出してくるな。しかし、お前は心配しているのだな?」
「はい。もし、ルクサ家が王家に勝利するようなことがあれば……」
再び、計画に大きな狂いが生じる。
ヨギームが何を懸念しているのか?
ケルムはそれを理解した。
しかし、反応は嘲笑寄りの苦笑だった。
「ふん。お前らしくもなければバカバカしい。相手は腐っても王家だ。そして、その中核として動員される兵力についてはお前も聞いているのだろう?」
「それはもちろん。セネカ騎士団が動員されるのでしたな?」
その通りであれば、ケルムはルクサ家への嘲笑を浮かべる。
「そうだ。現国王の実弟が騎士団長を担う騎士団だ。我々ならばともかく、下賤な者たちが背伸びしたところで敵う相手ではあるまい?」




