第3話:スキル判明
近くにアルミニウス騎士団の砦があれば、その需要でにぎわうのがこの街だ。
それなりの人口もあれば教会も立派なものが建っている。
その立派な扉を、俺は一息に押し開く。
「頼もう!」
堂内に声が反響して、すぐに反応があった。
どうやら掃除をしていたらしい。
竹箒を手にした老人が俺にほほ笑みかけてくる。
「おや、講話も無いのに珍しい。どうされましたかな?」
その問いかけに、俺は即答はできなかった。
言ってしまえば、テメェらの鑑定が間違ってたから俺はこんな目に会ってんだぞコラァ! 的なノリであり、だから正しい鑑定をし直せやオラァ! って、ことなんだが……
エギンの言うとおり、情けないと言うか、みっともないと言うか。
どうにかしてそれっぽい言い分を取りつくろいたいところだったが。
「あー、すみません。この人、スキルの証明書を失くしちゃったみたいで。再発行をお願いしたいんですけど、よろしいですか?」
俺は隣に目を向けることになる。
そこには、愛想良い笑顔を浮かべるエギンが立っているのだが、
「……エギン、さすがだ。お前はいっつも頼れるな」
小声で賛辞を送らせてもらう。
言い分としては本当、最高にそれっぽいからな。
証明書とはスキル鑑定の際に発行されることになっている公的な文書だ。
文字通り、自分にどんなスキルあるのかを証明するもので、働き先を見つけるのに役立つ代物だとか。
無論、ノースキルの俺には縁もゆかりも無い代物だが、ともあれ自然な言い分として相手には伝わったらしい。
おそらく神父だろう男性は「あぁ」と笑顔で頷く。
「左様でしたか。それでは早速鑑定にと参りましょう。では、こちらへ」
教会の奥へと手招きされて、俺はエギンと共に付き従う。
案内されたのは事務用と思わしき手狭な一室だった。
椅子が4脚ほどあったが、その中の1つを神父は手のひらで示してくる。
「どうぞ、おかけに」
俺は軽く頭を下げて腰を下ろすのだが……いよいよだった。
未来が開けるのかどうか、その瀬戸際だ。
エギンも腰を下ろすと、早速だった。
神父は俺に向けて手の平をかざしてくる。
「それでは拝見します」
固唾を飲んで見守ることになる。
スキルの鑑定には、【スキル鑑定】なるスキルが必要らしいが、今まさにそのスキルが発動しているに違いないのだ。
そして、前回の経験にもとづけば、結果が知らされるのにそんな時間はかからない。
「……ふーむ。もしかしてですが、貴殿はアルミニウス騎士団に籍を置かれているのですかな?」
数秒して、もたらされた言葉がそれだった。
隣ではエギンが「あーあ」なんてもらしているが……そうだな。そういうことだよな。
思わず、俺は手のひらで顔を覆うことになる。
この神父はアルミニウス騎士団にノースキルの男がいることを聞いていたに違いなかった。
だからこそ、ノースキルという結果に、そういえばそんな奴がいたなとして先ほどの発言をしてきたのだろう。
「……すまん。手間をかけさせたな」
俺はお代に足りるだけの銀貨を置いて立ち上がることになった。
結果は分かったし、ここにいるとなんかすげぇミジメな気分になってくるしな。
立ち去る以外に選択肢が無かったのだが……うーむ。
本当、どうしようなぁ。
分かっていたけど、本当に無かったな。
これじゃ復讐も難しいし、そもそもこれからどうやって生きていけば……
「ま、待ちなさい! 証明書がまだですぞ!」
出口の扉を前にして、俺は振り返ることになった。
えーと、なんておっしゃったんだ神父さんは?
驚きはエギンも同じのようだった。
椅子から立ち上がりかけていたアイツは、神父に対して首をかしげて見せていた。
「え、えーと、証明書ですか? スキルの?」
エギンは疑問も口にしたが、それに対し今度は神父が首をかしげる。
「もちろん、えぇ。当然そうですが……あの、いきなりどうされたので?」
非常に申し訳ないのだが、神父殿の疑問に応じている余裕は無かった。
思わずエギンと顔を見合わせる。
これはそういうことでいいのか?
直接確かめることにした。俺は椅子まで戻り、神父殿に迫ることになる。
「あー、神父殿? よろしいかな?」
「え、えぇ。なにごとか良く分かりませんが」
「証明書を出して頂けるのですか?」
「それはもちろん、そうなりますが」
「スキルの証明書……ですか?」
核心に切り込んだわけだが、神父殿は不思議そうに頷いてくる。
「はい。それ以外に出せるものが無ければ」
「ということはつまり、俺にはスキルが……あ、あるということでよろしいので?」
「え、えぇ。だから証明書を再発行されに来たのではないので?」
……うん。
これはもう、そういうことで良いだろうさ。
「お、おい、エギン!! だから言っただろうが!! あるってさ!! おい、本当にあったぞ!!」
なんかもう、こみ上げるものがあって全力で叫ぶことになる。
呼びかけてやったエギンはと言えば、喜んでいる風では無かった。
驚きの方が勝っているようで、大きな目をまん丸にしている。
「は、はぁ。こんなことってあるんですねー。本当にもう、何と言ったら良いのやら」
その気持ちは非常に良く分かった。
俺も正直、これが現実だとは信じきれてはいないからな。
だが、神父殿はあると言ったのだ。
だから、俺は喜んでこの現実を受け入れるし、その現実への理解をさらに深めたくもなる。
「神父殿!! では、俺のスキルは? 俺にはどんなスキルがあるのですか!?」
俺とエギンのやりとりに目を白黒させていた神父殿だったが、問いかけにはすぐに応じてくれた。
「す、スキルですか? それは本人が1番良くご存知なのでは?」
「理由があって、はい。是非、神父殿にお聞かせ願いたいかと!!」
「そ、そうですか。では、はい。少しばかり形容が難しいものがありますが、これは……」
「こ、これは?」
固唾を呑んで問い返せば、神父殿は眉根を寄せながらに口を開いた。
「……【全盛期化】。そう評するのが妥当なスキルでしょうな」
【全盛期化】。
うおーすげぇスキルじゃん!! とも、なんだそんなスキルか……ともなれなかった。
俺は神父殿に首をかしげて見せることになる。
それ、どんなスキルなんだ?