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第13話:完勝と謀略②

「あぁ、ありがとう。思いがけずの結果だが、本当に嬉しいよ」


 ルミアナの声音は、表情そのままに弾んだものだった。

 こんな声を聞けば、俺だって嬉しくなるわけでな。


「ははは、そりゃ俺たちも協力した甲斐があるってもんだが、喜ぶのはまだとっておいても良いかもな。アンタらにとっての本題がまだだろうし」

「え? 本題?」

「この領地を、王家にルクサ家のものと認めさせるって本題だ。そこが肝心だろ?」


 エギンもまた同意見らしい。

 すかさずの頷きを見せてくる。


「ですねー。鎮圧には貢献したわけですが、必ずしもそれが封地(ほうち)と結びつくとは限りませんからね。せっかくですし、求めるところはやっぱり領地を得ての再興ですよね?」


 ルミアナは「あぁ」と頷きを見せてきた。


「当初はそんなことを欠片も思っていなかったが、今となってはな。旧臣たちも皆それを期待しているし、私も当然」

「でしたら、金銀の報酬なんかじゃなくて、何としても領地の報酬にさせなきゃいけませんが……なんか良い手段ありますかね?」


 意見を求められているようだが、さてはて。

 俺は腕組み考えることになる。


「そうさなぁ。やっぱ、こういうのは流れだな」

「流れですか?」

「うむ。俺だったらだが、まずは王都に今回の経緯を広める。もちろん、ルクサ家の話だ。裏切り者によって追い出され、しかし献身的な老臣たちによって命脈を永らえたかつての名家の話をな」


 さすが相棒というか、これだけで伝わるところがあったようだ。


「あ、なんかちょっと分かってきました」

「くくく。そうか、分かるか。その名家が、かつての裏切り者の反乱を期に立ち上がったのだ。ルクサ家の名誉のため、支えてくれた老臣たちのため、そして敬愛する王家のため……あ、重要なの忘れてた。立ち上がったのは美しき当主だからな。美しき女当主が立ち上がったからな。ここ、本当に重要だからな」


 うっ、なんて声が聞こえたがそれはルミアナのものだった。

 彼女はわずかに頬を赤らめながらに俺を見つめてくる。


「え、えーと、あー、正直良く分かってはいないが、そこは重要なのか? そ、その、美しい女当主ってところは……」

「当たり前だろうが! 人間はな、誰しも正しくて美しいものが好きなんだよ! 事実であれば、強調しなくてどうするか!」


 納得してくれたのかどうか。

 ルミアナは視線をさまよわせる。


「じ、事実……ま、まぁ、うん。とにかく進めてくれ」

「もちろん。そして旧臣たちの助けを借りて、美しき女当主は見事に本懐を遂げるのだ。くくく、どうだ、エギン? この美談が王都に広まってみろ? 王家の判断にどう影響を与えると思う?」


 理解しているだろうとは思ったが、やはり理解しているらしい。

 エギンは「なるほど」と深々と頷いてくる。


「近年まれに見る美談ですからねぇ。王都の人たちは、だったら旧領は回復されて欲しい……いや、されてしかるべきって思うでしょうね」

「だろ? もし報酬が金銀程度だったりした暁には」

「王家への非難が轟々でしょう。あるいは諸侯から反感を買うかもしれませんし、リスクを考えれば選択肢は……」

「とりあえず旧領を回復させておけってな?」


 そんな流れが期待出来るわけだ。

 エギンは腕組みで再びの頷きだった。


「なる可能性は十分でしょうかね。うーむ、さすがシェド様。いや感服しました。さすがの悪知恵です」

「な、なにが悪知恵だ! こういうのは深慮遠謀っていうんだよ! もっと素直に褒めんか!」

「はいはい、神算ですね鬼謀ですね。それで、ルミアナさん。どうでしょうかね? こんな感じで進める感じで?」


 彼女もまた十分に理解してくれたらしい。

 妙な動揺を見せながらにだが頷きを見せてくる。


「あ、あぁ。美しいだとか、ちょっと引っかかるところはあるが我々にとっては得しかない。誰か早速王都に出向かせるとするが、しかし……」


 ルミアナは急にしげしげと俺を見つめてきた。

 俺は首をかしげて見つめ返すことになる。


「あー、なんだ? その気になる視線はどうした?」

「いやな、エンネたちが言っていたんだ。シェドが30年前に現役だったら、とんでもない出世をしていたかもしれないって。私もな、その通りだろうって。貴殿は乱世向きの人間なんだろうな」


 俺は「ふーむ」とうなることになった。

 自分では考えたことも無かったか、そうか乱世向きか。

 あの爺さん婆さんたちのお墨付きとなれば、実際そうなんだろうな。

 となると、もっと早く生まれていればってそんな考えもよぎるが、


「……くくくく、本物の天才は時代を選ばないからな。現代だろうが俺はもちろん出世をするわけで……あ、そうそう。約束の件だが、そこは忘れるなよ」

 

 ルミアナは「あぁ」と納得を示してきた。


「アレだな。お前たちの活躍を宣伝するって例の?」

「それだそれ。正直、今回の件を俺の活躍とするのは心苦しい部分はあるが、約束は約束だからな。ことあるごとに触れまわってくれよな」

「あぁ、事実であればもちろんそうさせてもらう」


 俺は満足感と共に頷くことになる。


「うむ、よろしい。世にも類まれなこの美談。それの立役者がこのシェドだと知れ渡れば……ふふふ、次代の王はこのシェドかぁ? くくく、ふはは、かはははは……っ!」

「ばーか」

「おいてめぇ、エギン。なに唐突に罵声をくれやがってんだ、こら」


 興をそいでくれたこともあれば頬をつままざるを得ない。

 柔らかいほっぺを両手で引き伸ばしてやると、エギンは不満の目で俺をにらんできやがった。


「い、いひゃひゃひゃ!! ら、らって、あんまりバカっぽいれすから、ここは冷水をくれてやるのも優しさかなって……ああもう、痛い! 本当、痛いですってば!!」


 ちぎりとってやるからその痛みを存分に味わえって感じだったが、残念ながらそうはいかないらしい。

 ルミアナが取りなす笑みで間に割り込んできた。


「ま、まぁまぁ。これ以上はかわいそうだし、ここはな?」

「むぅ。まぁ、ルミアナがそう言うならな。そういうことにしておこう」

「ははは、それはありがたい。ただ……貴殿は出世を欲しているのか?」


 そこまでは言ってなかったっけか? 

 俺はとりあえず頷きで応じる。


「まぁ、事情があってな。位としちゃあ公爵以上で、この国で1、2位を争うぐらいの実力が欲しいところだ」

「そうか。だとすると……まぁ、ここには留まらない感じか」

「そうだな。ここにいる理由は特に無いからな」


 もうここで、これ以上名を上げる機会は無いだろうし。

 次の機会を求めてどこぞに移動することになるだろうが……ふーむ?


 俺はちょいと目を見張ることになる。

 ルミアナの様子がどうにもおかしく見えるというか。

 やたらと前髪をいじったり、爪を見つめたりしていて。


「あー、ルミアナ? 一体、どうした?」

「……い、いやな? ルクサ家も全領地が回復すれば、けっこうな大領主だと思うんだ。だから私も独り身だしと思って、でも国内で1、2位はちょっと無理そうで……」

「ふ、ふむ?」

「……な、なんでも無い! 何でも無いんだ。だからその、うん。本当何でも無いから」


 そうしてルミアナにそっぽを向かれてしまったのだが、えーと、何これ?


 助けを求めてエギンを見つめる。

 そのエギンは、両頬を押さえながらに俺をにらみつけてきた。


「なんですか、ばーか。本当もう、ばーか。死んじゃえ、ばーか」

「あー、そ、そんなに痛かったか?」

「痛かったからこんな態度になってるって思い至りませんかね、ばーか」

「そ、それはなんとも悪かったが、あーと、話は聞いてたか?」


 エギンはそっぽを向きながらに応じてくる。


「一応」

「何かご意見は?」

「別に。騎士団で出世しか頭に無かったような人には分かりませんし、これからも出世を求めるなら気にしなくてもいいかなぁって」

「そ、そうか、気にしなくていいか。ご意見ありがたかったが、その、機嫌直せな? 一段落ついたら美味いものを食べに連れていってやるからな? な?」


 とにかくご機嫌取りをさせてもらうのだが、しかし、アレだな。


 自然と今後について意識が向かう。

 気になるのは王家が実際に、どんな判断を下すのかだな。


 旧領回復とまでいくかはともかく、ルクサ家に領地をという話にしてくれるのかどうか。

 乗りかかった船であれば、そこが本当に気になる。


 出来れば、ルミアナには大領主になってもらった方が都合は良いよな。


 どうせ俺の名を宣伝してもらえるなら、身分のある人間にしてもらった方が効果が大きいだろうし。

 王家に直接会っての宣伝なんかをしてもらえたら、それはもちろん俺の望むところだし。


 と言うことで、結末が非常に気になるわけだ。

 とにかく策を(ろう)しつつ王家の動向をうかがう。

 これがひとまずの方針になるだろうかね。



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