女神様の加護が過剰すぎる
俺の人生終わった。
俺の人生詰んだ。
俺物語は最終回・・・。
俺こと、天ケ瀬雄二は、人生の終わりを迎えていた。
普通の高校生生活をおくっているように見えたが、朝起きたら家には誰もいなかった。
本来いるはずの両親は、一枚の手紙だけを残していなくなっていたのだ。
テーブルの上に置かれた両親からの手紙。
「元気で。」
と、一言だけ書かれていた。
両親とも携帯は解約済み、つながらなかった。
これはマジだ。
高校2年の春に両親が突然蒸発した。
人がいなくなることを「蒸発」っていうけど、本当にふっといなくなるのだなぁと心の中では変に冷静だった。
心とは裏腹に身体は正直で、テーブルの手紙を持ったまま、1mmも動けない。
2DKの部屋は完全に静まり返っていて、外から聞こえる朝の音は自分にとっては現実味のない物だった。
どれくらい時間がたっただろう。
ふと気を抜いた瞬間、膝ががくんとなって、俺は床に崩れ落ちた。
よく小説なんかでは「膝から崩れ落ちる」と言う表現があるが、これだな。
元々、裕福な家じゃなかった。
でも、それほど貧乏とは思っていなかった。
まさか、子供を置いて両親ともいなくなるとか・・・
俺は床に完全に倒れ込んだ。
床についていた両腕の肘の力も抜けたのだ。
異世界ものだったら、次の瞬間異世界だよ。
それくらい俺は絶望していた。
本当に本当の絶望。
「んもーーーーがまんできないっ!!!」
ぎゅーーーー!!
誰かが床に丸まっている俺に抱き着いてきた。
一瞬両親かと思って、顔を上げたら、そこには・・・女神がいた。
「ごめんね、ごめんね、ゆーじくん本当にかわいそう!お姉さんが何とかしてあげるからね!」
そこにいた女神が急に抱き着いてきた。
今日は、許容しがたい事が続く。
両親が蒸発して、誰もいなくなった家の中に、突如女神級に綺麗でかわいい人が出現したし、俺に抱き着いてきた。
「あ、あの・・・」
「ごめんねー、びっくりしたよね!ゆーじくんが絶望しちゃったから、なんとかしないとと!」
「だ、だ、誰なんですか?お姉さん。」
「私は、そうね、この世界では、『女神』とか呼ばれているわね。そんなことより、ゆーじんは絶望しなくていいのよ!お姉さんが何とかしてあげるから!」
無責任に「何とかしてあげる」と言うこのお姉さんは、「女神」とか訳の分からないことをいう頭のおかしな人だ。
絶望した俺としても警戒してしまう。
「そうよね、そうよね、突然来たら警戒しちゃうよね。」
考えていることを読まれた?
顔に出ていたかな。
「ゆーじくんが生まれた直後から、ちょーかわいいと思っていたの!そのあと、ずーっと17年間陰から見守っていたの。本当はすぐに目の前に現れて抱きしめたかったのだけど、女神が人間の前に出ちゃダメとか銀河大僧正様が言うから我慢してたのー。」
何かすげえ、捲し立てるみたいに一気に言われた。
「あの・・・」
「こんなかわいい子が存在するなんて、人間ぱねーって思ったの!いいの!?いいの!?こんな存在がこの世にいて!神!神だと思ったわ!私はこの子を愛でるためだけに存在しているんだわと思ったわ。」
「えと・・・」
「それがなに、両親がいなくなったくらいで、かわいい顔を曇らせてしまって。大丈夫!私が女神の力を全力で使って幸せにしてあげるからっ!!!」
だめだ。
一言も口を挟めない。
突然、他人の家に現れたお姉さんは、キラキラしていて、美人でかわいくて、満面の笑顔なのに、言ってることは完全に異常者だ。
「あ、お姉さんはあやしいかもしれないけれど、異常者じゃないのよ。女神なの。」
まただ!
意識が読まれた!?
表情に出てる!?
「そうね、そうね、表情にも出ているけど、そんなに強く思ったら私には丸わかりよ。」
なんだこれ!?
でも、よく見たら、お姉さんが泣いてる。
「ゆーじくんがきれーって言ってくれた!きれーって!」
お姉さんが、わちゃわちゃしていると、こちらは冷静になってきた。
自分の事「女神」って・・・
女神と言ったら、ローマ人みたいな、カーテンっぽい白いのを着てるもんだろ。
ふっと笑いが出た。
「あ、ゆーじくんってそういう女神がよかった?じゃあ、着替えるね!」
くるりとこちらを向いた目の前のお姉さんの服が、一瞬でイメージしたあのカーテンっぽい白いひらひらした服に変わった。
「あれ?驚いてる?あ、まだ女神って信じてなかったよね!そうよね!人間だもんね!かわいーー!!!」
なんか分からないけど、一方的に好かれているのだけはわかる。
でも、普通じゃないのもわかる。
「ゆーじくんかわいー!神様ありがとう!!!かわいさがカンストしてる!!!」
つーっと汗が俺の頬を伝うのが分かった。
「あ、ゆーじくん!タオル?タオルいるよね?」
目の前のお姉さんがタオルを渡してくれた。
さっきまでタオルなんて持っていなかったのに・・・
「あ、喉乾いた?知らない女神が突然現れたもんね!びっくりするよね!?」
今度は、麦茶の入ったコップを差し出してくれた。
「座る?座るよね?床フローリングだもんね。膝に跡がついちゃうよね。」
目の前に突然ソファーが出現して、お姉さんが俺を座るように促した。
これだけ目の前に非常識なことが起きると、色々信じられなくなる。
これは夢?
現実がバグった?
次の瞬間、お姉さんのスマホが鳴った。
お姉さんは、どこからかスマホを出して、電話に出た。
ちょっとごめんね、と言いながら、くるりと後ろを向いて、話し始めた。
「え?銀河大僧正様?お疲れ様でーす。え?人間の前に出たらダメ?」
誰だよ?銀河大僧正様。
「あっ!あっ!なんか電波の調子が悪い・・・みた・・・いっ。」
『ピッ』
お姉さんが携帯を切って、どこかにしまった。
あれで良いのか!?
上司っぽい人じゃないのか!?
「ごめんねー、ゆーじくん。お腹すいた?ご飯食べる?朝ごはん。」
テーブルに旅館の朝ごはんのように品数が多い朝ごはんが並んだ。
「え、あ・・・」
なんとなくテーブルに促されて、朝食を食べ始めてしまった。
「うわーーん!ゆーじくんが私の準備したご飯食べてくれてるーー!!!もう死んでもいいー!ありがとう神様ーー!!!」
もう、俺はこの人が本物の女神様だと心の底で理解している。
だけど、完全にダメ神だ。
「いろいろ心配もあるよね?あるよね?まずお家?とりあえず、この部屋のオーナーをゆーじくんにしといたから。安心して住んでね。」
朝食は、銀鱈の西京焼きが抜群に美味しい。
人って不思議だな。
こんな時でもお腹は減るんだな。
味噌汁もうまい。
具が多くて、少し豚汁に近いな。
ちらりと女神さまを見ると、なんだかくねくね動いてた。
「ゆーじくんが西京焼きおいしーって!おいしーって!!!」
カーテンみたいな服でくねくね動くから、色々ちらちら見えてる。
なんか、落ち着かない。
食べてる時だし、食欲と性欲は同居しないのでは・・・
「あ、ごめんね!ごめんね!お姉さん着替えるね!着替えるから心おきなく食べてね!!!」
女神さまは、元のOLの普段着っぽい服に服が戻った。
やばい。
頭に考えたことが全部伝わってる!
エロいことも伝わってしまう!
女神さまは、はっとして、こちらを見た。
エロい目で見てしまったことが伝わったのか!?
「ごめんね!そうだよね!ゆーじくん人間だもんね!考えていることが分かったら気持ち悪いよね!!!」
お姉さんは柱に頭をがんがん打ち付けて帰ってきた。
「もう大丈夫!これでゆーじくんの考えていることは分からないからね。」
額から血!
血が出てるから!
女神なのに物理的な方法しかなかったのか!?
「あ!あと心配事は、お金かな?ゆーじくんの銀行口座作って、額をカンストさせといたから!とりあえず、すぐに必要な分は、おこづかい100万円ね!!!」
テーブルの上にドンと1万円の束が置かれた。
「帯付いている札束初めてみました・・・」
「いいの!いいの!ポケットに入れといて!」
100万円の束をポケットに入れた高校生なんていねーよ。
「大丈夫だからね!お姉さんが養ってあげるから!ご飯食べさせてあげるから!安心して生活してね!」
なんか、どうしようか。
色々あったけど、とりあえず、学校行こうかな。