#3:偽善者
2年3組 30人
NO/1 阿木将太 男 NO/2 伊上美加 女
NO/3 石見紀子 女 NO/4 植田裕樹 男
NO/5 卯木多凌 男 NO/6 表真夕 女
NO/7 薫由梨絵 女 NO/8 陰山幸 女
NO/9 川丘琥珀 男 NO/10 川角緒美 女
NO/11 神谷りい 女 NO/12 小林陸 男
NO/13 佐野之治 男 NO/14 柴田啓二 男
NO/15 曽根浩太 男 NO/16 田中伊代 女
NO/17 田部大吾 男 NO/18 宝麗佳 女
NO/19 千田泰葉 女 NO/20 樋乙矢 男
NO/21 寧都留香 女 NO/22 春哉将 男
NO/23 長谷川美穂 女 NO/24 藤原飛鳥 男
NO/25 松井悟 男 NO/26 松原成美 女
NO/27 三浦慶 男 NO/28 森安哲也 男
NO/29 安田沙織 女 NO/30 和久利洋介 男
ふざけるな、何で、俺が死ななきゃいけないんだ。
洋介が読み上げた文章を聞いて、真っ先に森安哲也は顔をしかめた。
「誰か一人、生贄になれば、それ以外の全員が助かる・・・」
「でも、この教室を出たところで、それ以外の全員が生き残れるとは限らないんだよな・・・」
「それでも、少しの犠牲で大勢の命が助かるんだろう?」
偽善者たちが、勝手に話を進めていく。
みーんな、本当は大吾の事嫌ってるくせに、俺がなぜかいじめのボスに成り上がっている。
始めたのは、裕樹じゃないか。
しかも、知らない間に離脱しやがって。
偽善者、偽善者、偽善者・・・―――――――。
「誰が、生贄になるか―――――――」
クラス委員の千田の小さな呟きで、俺は我に帰った。
全員の視線が、大吾の方に向く。
俺も、大吾を見た。
おびえきった表情で、俺たちを見返している。
「ぼ・・・僕・・・死にたくない」
「うるせぇな、んなもんは、みんな一緒なんだよ!」
大吾のつぶやきに、乙矢が叫んだ。
俺は、その様子をニヤリと笑ってみる。
そうだ、これで、あの鬱陶しい大吾を消せるんだ。
いつもいい子ちゃんで、地味なくせにグループに入ろうとやっきになる、うざったいチビを、消せる。
「そうよ・・・」
「あいつが生贄になれば、俺たちは助かるんだ」
「大吾を生贄に」
「そうだ・・・」
だが、
「おい、止めろよ」
裕樹が言った。
また、あいつが話をややこしくする。
せっかく、満場一致で決まっていたじゃないか。
偽善者め。
本当のボスは、裕樹、お前だろう?
「大吾、うざいからさ、いじめてやろうぜ?」
そう言ったのもお前じゃないか。
俺の中に、怒りという感情がふつふつと湧きあがってきた。
「こんなときに、大吾をいじめたって、何にもならないだろう。こんなときこそ、いじめは止めて、真剣に考えようじゃないか」
「ふざっけんな!」
俺は、知らず知らずのうちに叫んでいた。
「この、偽善者が!大吾いじめ始めたのは、てめぇじゃねぇか!いまさらいい子ぶってんじゃねェよ!」
叫んでも、怒りは収まらない。
「んなこというんなら、てめぇが生贄になれ!」
「お、おい、哲也・・・」
俺は、やけくそだったんだ。
あいつに腹が立っただけだった。殺したいなんて、思ってもなかった。
なのに――――――
「あぁ、わかった。そうだな、哲也の言うとおりだ。俺が、生贄になるよ」
裕樹は、そう言った。
「は?」
「だから、俺が生贄になる。みんな、早くそのドアを開けて外に出ろ」
ふざけんな・・・。
こんなときまで格好つけやがって。
「でも・・・」
さっきまで声を張り上げていたはずの乙矢が、しゅんとしている。
みんな、その場に立ち尽くしたままだ。
「早く出るんだ。出ないと、みんな死んでしまう」
「でも、裕樹はどうすんだよ?」
裕樹の下っ端の陸が、心配そうに裕樹を見上げる。
あいつも、凌も、裕樹がいなければ何にも出来ないんだろう。
「俺は死ぬ」
裕樹がきっぱりと言い切った。
「だから、早くここから出るんだ!」
口調が厳しくなる。
俺は、そんな裕樹の態度に余計イライラした。
「・・・あぁ、そうさせていただくよ!」
そう言って立ち上がったのは、俺だった。
乱暴にドアを開け、外に出る。
悔しい。
結局、裕樹がいい奴で、俺は悪い奴か。
ぼろを出させてやろうと思って、生贄になれって言ったのに、本当に生贄になりやがった。
畜生。
俺は、結局余計な罪までかぶることになっちまった。
畜生。
俺は、他の奴が出てくることを待たず、勝手に廊下を走って突き進んだ。
止まりたくない。
止まったら、悔しくなるから。




