#31:全ては“彼”のため
2年3組 4人 死亡 26人
NO/4 影松仁(植田裕樹) 男『SYADO=』
NO/6 高松桜 (表真夕) 女『SYADO=』
NO/12 小林陸 男
NO/19 千田泰葉 女
「嘘だ!」
陸は、大声で叫んだ。
それは、俺の心からの願いでもあった。
お願いだから、冗談だといってくれよ、表。
「嘘じゃないんだよねぇ」
闇の中に落ちていくような、不快な感覚がする。
「だけど・・・なんで・・・裕樹が・・・」
心臓の鼓動が早くなる。思うように、言葉が出てこなかった。
「嘉人のタメ・・・かな・・・」
表の顔に、少し影が入った気がした。
――――――
「僕と桜、それに嘉人は、物心ついたときから、ある施設にいたんだ」
泰葉はそうつぶやく影松仁の声を聞いていた。
頭が痛い。響くように、彼の声が反響して聞こえる。
「その施設は、殺し屋の育成施設のようなものさ。
ある程度の年期を超えると、出ることができるけれど、そこにいる子供たちは、みんな、いろんな事情を抱えていた。
だけど、僕ら3人とも、他の子よりも比べ物にならないほどの事情を抱えていたんだ。
ここではいえないような、大きな事情だ。
だけど、そんな生活も、楽しかったよ」
顔は見えない。だけど、彼は笑っているんだろう。口調から、直にわかった。
「時はたって、桜が施設を出た。2年生ぐらいのときだったかな。
それに続いて、嘉人も施設を出た。4年のときに。桜と同じ学校だって、喜んでたよ。
桜が表真夕っていう名前で学校に通っていることは、施設を通して聞かされていたからね。
僕らがいたのは、すごく危険な育成施設だった。だから、そこを出た子は必ず名前を変えなければいけない。
だけど、嘉人はそれをこばんだ。
こばんで、本名のままで学校に入った。
初めの方は、楽しくやってるみたいで、手紙にも、いろんなことが書かれていたよ。
理科の授業で薬品が爆発しただの、休み時間に転んだだの、あの施設出身者だとは思えないほど、明るい奴だったからね、嘉人は」
影松仁の、奥歯をかみ締める音が、頭に響いた。
――――――
「だけど・・・嘉人はいじめられるようになった・・・。
あんたたちのせいで!」
そう叫ぶ、表の声が、憎しみに変わる。
「私たちは、施設出身者であることを隠さなければいけない。
だから、下手に嘉人をかばうことはできなかった・・・。
あんなに明るかった嘉人が、日に日に、暗くなっていった・・・」
陸は、嘉人の顔を思い出した。
けれど、どれも、暗く、冷たい顔ばかりで、無意識に気分が沈んでいく。
「いじめていた理由・・・それを彼らに聞いて、あきれたわ。
面白くないから、俺らに逆らったから、何様のつもりだったんでしょうね、彼ら。
嘉人は、施設の中でも、あまり成績優秀な方ではなかった。
だから、彼らに立ち向かうことも、逆襲することもできなかった」
俺は、そういう表の顔を、見つめていた。
落ち着きを取り戻してきたのか、彼女の顔は無表情に近い。
けれども、目は、笑っても泣いても、憎んですらなかった。
黒かった。真っ黒で、まるで、何も感じていないような・・・そんな顔をしていた。
「私はひそかに裕樹・・・仁に助けを求めた。そして、やっと、仁が施設を抜けて、学校に来られるようになった。なったのに・・・」
表の顔が、再びゆがむ。
「仁が学校に来る前に、嘉人は・・・
死んだのよ」




