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八十九話

 電話を切り、椅子に座る。場所は四階の一年四組。先生が来ていたとしても、職員室は二階。ここまで来るはずがないと踏んであえてそこを陣取っていた。まあ先生もいないだろう。証拠として学校にはいまだにロックがかかっている。

 反抗的な光をまとう楓の眼差しを受けながら、桐葉は端の机に腰掛け、ぼんやりと窓の外を見渡していた。何もない普通の日常。こちらは拉致という非日常を達成したからか、日常を生きる人々が意味もなく滑稽に見えてしまう。


 昨日の帰り、桐葉は三階の窓を開けておいた。一階だと誰かが侵入する恐れがあるため、教師の目が光っているだろうから、あえて四階に近い、侵入されにくいだろう、非常階段の近くの窓を開けた。

 夕方に最後の先生が帰ったのを外から職員室などに仕掛けた隠しカメラで確認。

 のち外のらせん階段となる非常階段を三階付近まで登る。窓と非常階段の距離は非常階段の手すりから真横に三メートルの場にある。

 自分は平衡感覚が優れていると思う。桐葉は手すりに足を乗せ、不安定なまま窓の扉を開き、そこから飛び移り校舎へ侵入した。

 一階の理科室の窓を解錠。外からは端に位置する教室なので死角になっている。

 外に出、叔母の家に寄った。車を使って移動するからだ。未成年運転? 知るか。

 事前にリサーチした晴人と楓の住まいへ行き、部屋から出てきた楓を拉致した。晴人でもよかったのだが、ガタイがよく、おまけに警戒心が強いため断念した。

 スタンガンで気絶させた後、スマホを押収。車で学校へ運び込んだ。一階の窓から四階まで気絶している楓を運び、椅子に拘束した。そして夜が明け、こうして桐葉は八日まで暇を持て余しているわけだ。

 「……桐葉ちゃん」

 夕焼けから紺色へ変化していく空から、おもむろに楓を一瞥する。

 「どうかしましたかぁ? 桜井さん」

 「何でこんなことするの?」

 両手両足を椅子に紐でくくりつけられた楓が聞く。拉致られた悲壮感はない。どこまでもまっすぐな瞳に、桐葉はいら立つ。その目に宿っているのは、怒りでも何でもない。純粋な疑問だったから。特に桐葉ちゃんと呼ばれるのにはらわたが煮えくりかえりそうになる。


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