八話
体をのけぞらせた拍子に、真樹はそのまま地面に転げ落ちてしまう。
「おいおい! どうした!」
「何? え? なんで包丁が突き刺さってるの?」
出刃包丁の出現に、クラス内が騒然となる。先生はぎょっとした顔をこちらへ向けた。出刃包丁は動かず、その身を机に埋めたまま止まっていた。
「おい、真樹、大丈夫か?」
真っ先に駆け寄ってきたのは一真だった。そのまま後ろに倒れた真樹の肩をゆする。
「う、うん。たまたま引き出しを見てたから……」
注目されている恥ずかしさはなんてなかった。むしろ突如出現した凶器に唖然とするしかない。今になって両足がぶるぶると震え始めた。
「誰ですか! こんなものを投げたのは!」
福田先生の一喝に、応える者はいなかった。クラスメイト同士が目配せしあっている。徐々に広がる混乱に、他のクラスの先生が様子を見に来た。振り返る。トラップの類は存在しない、代わり映えのしない教室。
「いったいどこから飛び出してきたんだよ……こんなもの」
一真の瞳に怯えの色が宿る。もはや授業どころではなかった。クラスの男子が出刃包丁を引っこ抜く。ざり、と机が削れた。刃物の先端がへしゃげていた。
偶然引き出しを見るために体を傾けていなかったら……!
不意に、冷めた視線を感じた。背筋が刺されるような感覚。
その方向を見ると、ある少女と目が合った。他の面々はパニックや興奮で騒ぎあっているというのに、少女は全く動揺を見せることなく、状況を静観していた。
学級委員長の保高桐葉。認識した時には、彼女は真樹から視線を外し、何事もなかったように着席した。