七話
文化祭が終わり、数日後。真樹は授業の準備をする一真に数日前の体験を語った。
「勝手に侵入したのはさておいて、本当に首を吊った女がいたの?」
「うん。制服は学校のだった。あの子、行方不明になった少女なのかな」
どうかな、と一真も軽くうなる。考えあぐねていたようだったが、やがてこう切り出す。
「それだけで断定するのは少し早いと思う。やっぱり」
「だよねぇ……私もつい家に逃げ帰っちゃったし」
首吊りがあったところを見上げる。もちろん何もない、ただの天井だ。
「だけど、何か他にも変な事が起こってるんだよね」
「変な事?」
「うん」
一つ。自室で本を読んでいる時に、コンコンとノックの音がした。弟だと思って開けるも、人の気配はない。それ以前に、その時間帯、真樹以外の家族は帰宅していなかった。
一つ。塾の帰り道、後ろに誰かの気配がしたはずなのに、振り返っても誰もいない。気のせいかと前を向き歩き出した時、ばしゃり、と水溜まりを踏む音がする。
一つ。スマホを見てる時に限って白紙のメールが届く。誰から送られたのかも分からない。ブロックしてもなぜか送られてくる。
「お祓いに行ったほうがいいんじゃないか」
白紙のメールを見せると、一真は眉をひそめた。しかし関連性が分からない今、偶然か気のせいだと結論付けて片づけることしかできなかった。
「噂って、幽霊が出るだけだよね。後々霊障があるとは聞いていない」
「うん。私もそこが疑問なのよ。現象一つ一つに関連性がないし」
論じ合っていると、ガラガラと扉が開いた。入ってきたのは生物教師の福田賢治先生。あの噂に何かしらの形で関連しているとされる教師だ。もっさりとした白髪交じりの髪に、昔の良き大家を連想させるような、ふっくらとした朗らかなおじいちゃん。間もなく、授業の始まりを告げるチャイムが鳴る。
「じゃああとでね、一真」
「ああ」
自席に戻り、引き出しの教科書を取り出そうと両手を突っ込む。プリントがかさかさと煩いだけで、なかなかお目当てが出てこない。そう言えば片付けようと思っていたんだっけ。
「あれ~教科書忘れたかな」
体を傾け、顔を引き出しに近づけて中を見たのとほぼ同時だった。
トン!
視界の隙間、つまり机に、何かが突き刺さったのが見えた。
「え?」
ゆっくりと視線を上げ、それを確かめる。
「キャァ!」
一本のギラギラと光る出刃包丁が、垂直の角度で机に突き刺さっていた。