六話
「……なぁ、タカちゃん。これ言ったらお前怒るかもしれねーけどよ」
沈黙を破ったのは、晴人だった。直球な彼らしくない、おずおずとした口調だった。
「時間があるときにさ、俺とタカちゃんと楓の三人で学校に行ってみないか?」
「は? なんで?」
席を立ちあがってしまう隆幸に集まる好奇の視線。晴人もおい、と小さく座るように促す。相変わらずこの話になると感情的になってしまう。いたたまれず、静かに着席する。
「あそこに行かないって卒業後誓ったよな」
「だけど、最近変なのは知ってるだろ! 楓だっておかしな夢を見るっていうし……」
黙り込んだ晴人を見やりながら、隆幸は下唇をかむ。確かに、近頃隆幸らに異常が起こっているのは否めない。
そう。隆幸ともう一人――楓も一か月前から記憶に残らない悪夢を見るらしい。
……きっと、隆幸と同じで、冷泉が行方不明になった時の夢ではないかと睨んでいた。
「行って、何か解決する手立てがあるのか? 平野」
「何もしないよりはマシだろ。それに、俺は冷泉の痕跡を見つけたい」
俺は当事者だからな、と晴人は言った。その目に揺らぐのは、罪の意識か、純粋の恐怖か。隆幸はしばし黙考する。
正直、怖かった。またあの傷口を抉る行為に、漠然とした恐怖心はぬぐえない。だけど、お調子者の晴人が決意しているのだ。彼だって怖いに違いないのに……。
「今週の土曜の夜八時。その時間からは暇だ」
結局、憂鬱な心持のまま晴人とそう約束をするしか、選択肢はなかった。
十五年前。
提案者は楓。間もなく転校する冷泉真樹のために、サプライズパーティーをするという名目だった。それに乗ったのが隆幸と晴人。最後に真樹を連れてきて、そのまま楓の家でどんちゃん騒ぎをした。高校二年生だからか、皆テンションが高かった。お別れの気配なんて、全く感じさせないほどに、隆幸らは楽しんでいた。
「ねえねえ、今からみんなでやりたいことがあるの!」
そう言ったのは、未成年のくせに飲酒し、顔を赤くした真樹だった。
「何だ? 冷泉。やりたいことって」
「ふっふふ~ん! 隆幸も知ってるでしょ? 学校の噂!」
楽しそうな真樹が、次にこう言うのは簡単に予想できたことだった。
「肝試ししようよ! みんなで!」
あの時、止めていれば。自分たちが肝試しに賛成しなければ。こんなことにはならなかった。そう思うたびに、隆幸は身を焦がすような後悔を覚える。そして時の流れを実感し、隆幸はどうしようもない無力感に苛まれるのだ。
スマホの電源を入れる。ディスプレイに表示されたのは、十五年前の写真だった。
最後に取った四人の写真。一時間後に起こる悲劇を知らない隆幸たちが、満面の笑みを浮かべていた。真ん中に映っているのは、真樹だった。
優しさを含んだ笑顔を浮かべる真樹の顔に、指を置く。
「畜生が」
暗がりの中舌打ちしても、全ては後の祭り。