ファイヤーボム
耕輔がドラゴン達の戦いに巻き込まれていた頃。
皆を避難させ戻って来たボーデンを含めた三人は倉庫から出てドラゴンの戦いが見えるあたりに移動していた。ドラゴンの咆哮はだいぶ離れてきていて格闘しながら移動しているらしい。ライリーは怖がって、振り返るファーファにプルプルと首を振り両手を広げてここにいると主張して付いて来ていない。
「しかしすごいな。ありゃ」
その頃には、現場のあたりには松明などが焚かれているのか地上からの明かりでドラゴンはシルエット以上に見ることができるようになっていた。オレンジ色の炎の塊が黒いドラゴンに当り次々に爆発する。ドラゴンは身震いをするが平気そうにしてた。
「やっぱり、ファイヤーボールは効かないんだ」
ファーファの解説で初めて見る魔法がファイヤーボールだと分かった。
「あ、また墜落した」
地上に落とされた白いドラゴンが空中にいる黒いドラゴンを見上げていると、光り輝く射線が伸びてゆき空中の黒いドラゴンを撃つ。
「あれ。耕輔じゃないか」
それは、今いる場所から三百メートルほど離れている。裕司が慌てて駆け出すとファーファとバーデンも付いて行った。続けて二本、三本と射線が伸びる。見間違いようもない。それは耕輔の使うプラズマビームに相違なかった。たまらず黒いドラゴンは空中高く飛び上がるが途端稲妻のシャワーで包み込まれ悲鳴のような咆哮をあげた。更に高度を上げたドラゴンには稲妻が届かないのか電撃が途切れた。
裕司達は、ドラゴン達から100mほどまで近づいて、建物の陰に隠れ様子を見ている。白いドラゴンと黒いドラゴンが睨み合っているが、黒ドラゴンはだいぶダメージを受けているようだがその咆哮は引く気がないことを主張していた。
その様子を見ながら裕司はファーファの話を聞いた時から考えていたことを試して見ることにした。
姿勢を正し正面を見つめる。手には剣をにぎり、空中の一点に集中し口の中で起こす事象を象徴する言葉を呟く。最初は何も起きなかったが、すぐに裕司の前1メートルの空間にぼんやり光る明かりが生じる。ファーファは風を感じた。周りの空気が吸い込まれ、断熱圧縮された空気が高温になり輝き始める。暗赤色から、オレンジ色、黄色、白へと光度を上げてゆく。表面に生じた模様で高速で渦を巻いているのが分かった。
眩しいほどに白く輝きだした光球がゆっくり動き出すとあとは大排気量バイクが加速するかのごとく急速に速度を上げゆく。次の瞬間、かなりの速度で黒いドラゴンに当たり爆発を起こした。夕方見た警備ドラゴンは白っぽかったし、耕輔がプラズマビームで攻撃していたため敵だと判断したのだ。
その爆発に耐えられずドラゴンは墜落した。その間二分三十秒。
「うーん、威力はそれなりだが発射までに時間がかかりすぎる。
その間無防備になるから、自分向きじゃないな」
ファーファが呆れている。
「ユウジ、すごいあれボクの魔法?」
裕司は、ドラゴンに視線を残したままファーファに説明した。
「そうだ。ファーファに聞いた魔法の話を参考に自分なりに解釈して試して見た。
狭い範囲に俺が起こせる最大の重力場を作り、空気を押し込むのでなく吸引圧縮することで断熱圧縮し加熱する。限界になったら回転非対称性を利用して回転を与え、さらに摩擦で加熱して爆炎としたんだ」
ファーファに魔法の理屈を説明する。ファーファも真剣な目つきで説明を聞いて、コクコクと頷いていた。説明の言葉そのものは理解できなかったが、裕司から伝わるイメージは理解できた。
「集中力が必要な上、圧縮回転の工程に時間がかかりかなり消耗する。攻撃力は、圧縮され加熱された空気が重力から解放され膨張する爆発と大量の空気の質量による慣性による。
護衛がいないと使えない魔法なので俺には向かないな」
ファーファに視線を移し微笑みかける。
「しかし、さらに時間をかければもっと破壊力を上げられるだろう。
ファイヤーボールというよりファイヤーボムだな。
俺は、その魔法使いを護る役の方が向いているよ」
自分の魔法を取られたような気持ちと、いまは使えない悔しさを感じていたファーファは、裕司の最後の言葉がもつ意味に気がついて頬が赤くなった。
「ボクがまた魔法を使えるようになったら、その時にはユウジを護衛に雇ってあげるよ」
「そうだな」
裕司はぶっきらぼうに答えた。
その時、黒いドラゴンがようやく起き上がり白いドラゴンと向かい合った瞬間炎を吹いた。白いドラゴンも遅れず炎を噴く。
二つの炎は二頭の中間でぶつかり激しく爆発した。視線をファーファに向けていた裕司は気がつくのが遅れ、炎を噴くドラゴンを見たまま立ち尽くしていた。
そのとき裕司は地面に引き倒された。驚いた裕司が振り返るとファーファが必死な顔で裕司にしがみついていた。バーデンも地面に伏せている。ファーファの行動を読み取った裕司が地に伏せた刹那シールドを展開する間も無く三人の体の上を熱気が通り過ぎて行った。
背中が少し焦げたが距離がもっと近かったらまずかった、立ったままだったら致命傷のダメージを受けたことは確実だった。地面に伏せたまま裕司は悔しさで筋が浮くほど拳を強く握りしめていた、攻撃後の残心を忘れるとは調子に乗っていた。あれほど叩き込まれていたのにとの思いで身震いがしていた。
ファーファの助けがなければどんなことになっていたかと、無言で深く反省していた。
そのまま地面に伏せ見上げると白いドラゴンが黒いドラゴンの翼を掴み羽ばたき飛び去るところだった。黒いドラゴンは苦しそうにされるままに連れ去られていった。
あたりは静寂に包まれていた。爆発のあおりで火災が起きていたがそれ以外にもそこここに散らばる残骸が戦闘の激しさを物語っていた。
「助かった。ありがとう」
裕司は気持ちを切り替えすぐに立ち直る。
安全を確信して立ち上がりファーファに手を伸ばし起き上がるの手助けする。ファーファを見回し怪我などしていないことを確認した裕司は、耕輔のことが心配になってきた。
道のあちこちに散らばるでかい岩の塊を避けながら、さっき耕輔がいたと思われる辺りまでたどり着く。途中で負傷し地面に横たわる人々や、火傷の苦痛で呻いている人々を何人も見かけた。介抱にあたる人々がそこここで忙しそうに走り回っている。裕司達は邪魔にならよう注意しながら歩いて行くと果たして耕輔がいた。誰かと話をしているようだ。
三人は声をかけながら駆け寄った。
耕輔が、壁の穴から這い出て空を見回すとドラゴン達はいなくなっていた。咆哮や羽ばたきの音はもう聞こえない。あたりは煤だらけでまだ炎が燃えている場所もあった。さっきまでいた場所にゆっくり近づいていく。
そこは惨状だった。逃げ遅れ大火傷をして呻いている人もいる。怪我人を介抱している人を横目で見ながら通り過ぎる。良心が介抱してあげたいと訴える、しかし医療の知識も道具も時間もない、目を瞑り足早に通り過ぎた。
耕輔は、ひどい火傷の傷がフロスの目に入らないよう自分の体でカバーしながら、先ほどフロスを探していた人たちを探した。耕輔は焼け焦げ大火傷を負い呻いている人に動揺してムカムカしてしょうがなかった。それでも目の前のフロスのため平静を保つよう勤めていた。もし、一人だったらその場で吐いてしまっていただろう。
「大丈夫か?
足元、気をつけて」
相手が初対面だとしても、知り合いを護るのは心の底から湧き上がる衝動だった。理屈じゃない。誰だろうと自分が護れる相手は護る。いまやその気持ちははっきりと意識したものとなっていた。
そこここに崩れた壁や石材などが転がっていた。しかも今いるあたりは上流階級の地区だったので立派な邸宅が多く、立派な石材などが大きな塊となって、ゴロゴロとしており歩きにくい。フロスを守るように耕輔は前に立って歩いていく。
アギーとフロスはもうすっかり打ち解けて、なんだか耕輔にわからない話をしている。妖精と童女、話が合うのか? と感心と疑問が心に浮かぶが耕輔は学習していたので口には出さなかった。
フロスに出会った辺りまで戻ってみるとフロスを探していた二人連れがこちらに気がついて駆け寄ってきた。
「フロスベルスさま~。
よかった、無事だったのですね」
女性の方は座り込んでしまった。
みると、メイドの格好をしている。濃い色の膝下までの丈の長いワンピースに白いエプロン(エプロンは泥だらけになっていたが)、白いカチューシャで髪を留めている。
男の方はこの世界ではよく見かける衛士の格好をしていて、腰にはサーベルを下げている。メイドの護衛だと思われ、フロスとメイドの側に立ち周りに目を配りながらも油断のない顔つきで耕輔を睨んでいる。
そのきっちりとした装いの背中のマントが煤けているのはメイドを庇って焦げたのだろうと推測できる。仕事だとしてもあのドラゴンブレスから護ったことに感心した。その護衛もアギーに気がついた時には一瞬表情に驚きが現れたがすぐに真顔に戻り警戒している。
「このお兄さんに守ってもらったから大丈夫だよ。
さっきの電撃もお兄さんだから」
フロスはにこにこしながら耕輔の裾を引っ張っている。
護衛は、疑いの目で見ているがフロスが言うので疑問を挟まない。気を取り直したメイドは自分の格好には気を留めず、フロスの服の乱れを直している。耕輔に抱えられて、挙句は地面に押し倒したのだあちこち上品なしからず服が乱れていた。
「そうだったんですか、助けていただいてありがとうございます。
おかげさまで、フロスベルスさまにお怪我一つなく、感謝します。
あの、お名前をお聞きしてよろしいですか」
耕輔は、感謝されて恐縮してしまった。
自分からじゃないとはいえ、ちょっととはいえ。フロスと密着した時間を持ってしまった。
この怖い顔をした護衛が知ったらなんというだろう。しかも、気がつかれていなようだけどさっき見捨てて逃げてしまったのだ。
思わず口ごもってしまう。
「あ、や、矢野耕輔と言います」
「ア・ヤ・ヤノコウスケ? 変わったお名前ですね」
「あ、いえ、矢野耕輔です」
「私はフロスベルスさま付きのメイドをやっております、リリー・ブルックルスと申します。
こちらは警護のウジェーヌ・ヴィランク」
その時、遠くから掛け声がかかった。
「おう、コウスケだ」
「探したぞ、部屋にいないからどこに行ったかと。
稲妻でこっちかと思ったらいたよ」
心配と笑顔を混ぜたような表情の友人たちが駆け寄ってきて合流した。




