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お嬢様は魔法が得意  作者: 灰色 洋鳥
第三章 光の都アウローラ
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山岳地帯

「しかし、馬車というのは乗り心地悪い代物だね」


 耕輔がぶつぶつと文句を垂れる。

「歩くのとそんなに違わないけど。

 確かに荷物がある場合は楽だけどね。

 考えてみたら馬車で護衛も付けなきゃ許可するわけないよな」

 などなど、独り言を周りに聞かせるかのような声でつぶやいていた。


「耕輔、うるさい」

 頭の上のアギーが髪を引っ張る。

「わかったよ」


 出発してから八時間ほど経っている。耕輔は馬車で行くと聞いて移動が速くなると喜んでいたのだが、実際はそんな速くない上に馬の休憩や、乗り心地があまりに悪く人間も休憩が必要なので距離が思ったほど伸びていない。期待を裏切られ、焦れったくていらいらしていたのだった。


「ごめん。急だったんでこんなもの(馬車)しか用意できなかった」

 ファーファは申し訳なさそうにしている。

 ファーファが都合できたのは荷馬車に毛が生えたようなワゴンだった。

 一応二頭立(にとうだて)だし荷台に屋根があるので雨風はしのげる。文句なんて言えないもののはずだ。


「そうですよ。

 ファルデリア様ですから急な予定でも手配できたのですから、贅沢を言っては困ります」

 ファーファの横で耕輔との間に割り込むように、チェストに腰掛けた付き人のライリー・マーフィーが耕輔をたしなめた。


 ライリーは年頃二五才くらいで赤く長い髪をざっくりと編み、アップにしてバレッタで留めている。顔は目鼻立ちがはっきりして、日本人の感覚でいえば高い鼻が目立つ。とはいえアングロサクソン系としては標準的であった。服は濃い茶色のツーピースの長袖で、ひざ下丈のスカートでくるぶし丈の皮の短靴を履いている。メイドだがもちろん今はエプロンをつけていない。


 男っぽくして居るとは言え、娘のファーファに付き人を付けずに旅を許すファーファの父ではなかった。当然のように護衛2名とメイドを付けるのをカンピスマグニまでの旅の条件としたのだ。むろんファーファの武者修行とは、はなから思ってない。カンピスマグニの館までの旅と理解したから許可しただけだった。彼も娘には甘かったのだ。


 ライリーは、ファーファの父が娘を裕司達から護るために指名した。と自分解釈して意気込んでいた。何かにつけファーファと裕司達の間に入ろうとしていた。


 しかし微妙に世事に疎い耕輔は、ライリーのそんな行動を読み取れるわけもなく、たしなめられた内容が失言だったと思っていた。慌ててフォローしたがなってなかった。

「こっちこそごめん。

 文句じゃないんだ、馬車に乗ったの初めてで乗りごごち知らなかったものだから。

 気ばかり焦っちゃって。気にしなくて大丈夫だよ」


 ファーファが不満そうな顔をしているので、耕輔は機嫌を損ねてしまったかとドキドキしていた。まだ知り合って日がない。ファーファの人となりもわからないので、ここで機嫌をそこねるとこの先の旅が思いやられる。耕輔は不安から弁解の言葉を述べようと口を開きかけた。


 それよりも先にファーファが口を開く。

「ライリー。

 ボクはファルデリアって呼ばれるの好きじゃないって何度もいってるだろ。

 いい加減にファーファて呼んで」

「そうはいきません。

 メイドとしてその一線は守ります」


 ファーファはほほを膨らまさんがごとく不満顔でブツブツ言っている。『ファルデリア』と呼ばれるのがよほど嫌なんだな、と耕輔は胸をなでおろした。

「焦ってもしょうがないだろ、成るようにしか成らないさ」

 馬車の後ろの立て板に腰掛けた裕司が耕輔に声をかけつつ、外に目をやって歩いて付いてきている護衛に交代を伝える。

「バーデン交代しよう」

「おう、わかった」


 馬の負担の軽減と警戒のため一人は歩いて付いて来ていた。

 バーデン・ストラスは初めてアウローラの館を訪れたときに祐司を追い返した歩哨だった。祐司の技を見て感心したのと名誉挽回のため護衛に志願したのだった。


 バーデンはがっしりとしたあごの顔長、ブロンドの短髪で豊かな髭を生やしている。今は鎖帷子くさりかたびらの上に厚手の綿の服を着ており、その上から広い肩幅に似合わないデザインの皮のベストを羽織っている。ズボンは皮の膝当てのついた黒い厚手の綿製で皮の長靴を履いている。右手には槍を抱え腰には長剣を下げ馬車の進みに合わせ大股で歩いている。


 もう一人の護衛は御者席ぎょしゃせきに座り手綱たづなを握っている。

 彼はクラク・ザールといい、出発のため集まった時に初めて顔を合わせた。ファーファの紹介ではなかなかの腕利きらしく、武勇伝も色々とあるらしい。黒髪短髪丸顔で目つきは鋭く、短いが濃いあごひげを生やしている。今は鎖帷子にゆったりしたローブを羽織り腰紐こしひもでしめ、手綱を握る手を軽く揺らしては馬に語りかけていた。

 今回の護衛任務は仕事として割り切っており、あまり関わってこないようにしているのか、必要なとき以外では話しかけてくることはなかった。


 その護衛から声がかかる。

「もうすぐ山岳地帯に入るが、もうすぐ日が暮れる。

 今日はこの先の宿場で宿を取ろう」

 耕輔はため息をついたが幸い誰にも見られなかった。


 ―― ☆ ☆ ☆ ――


 街道の先に小さな村が見える。

 近づくと十軒ほどの宿が街道の両側に立ち並んでいる。

 山岳地帯に入る最後の宿場なのだからもっと賑わっていても良さそうなものだが、人影があまり見当たらない。宿の前に置いた椅子に座って暇そうに街道を眺めている人がいる。


「なんだかしけてんね。なんかあったんかい」

 御者席からクラクが声をかけた。

「どうもこうもないやね。

 街道が化け物のせいで通れなくなっちゃ上がったりさ。

 あんたち、山岳越えなさるのかい。よした方がいいよ。

 一週間ほど前から一人も山を越えてきたもんはいねえし、行くもんはみんな這々《方法》のていで逃げ帰って来てるさ。

 化け物にやられたのも何人もいるらしいさ」

「そうかい、じゃあ宿は空いてそうだな」

 それを聞いた宿の主人は、後で分かったがその宿の主人だった、急に立ち上がると愛想いい顔と声で宿の宣伝を始める。


 クラクは、宿はガラガラなのを見越してしたたかに交渉し三割も宿代を安くさせた。

「宿代ぐらいケチらなくてもいいのに」というファーファに「これは俺の趣味なんだよ」と笑ってごまかすのだった。


 宿に荷物を運び込み、狭い食堂で腹を満たす。

 話題は主にこの先に出るという怪物の話だ。クラクが街で聞いていたという噂を話している。当然尾ひれがついていて、どう聞いてもあり得ないだろうという話になっていた。しかし、飯のさかな、世間話として裕司とバーデン、クラクはどんな化け物か想像を巡らし盛り上がっている。


 他のメンバは呆れて聞いているだけだった。

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