金色フクロウ
「うわー」
耕輔は思わず叫び声をあげた。突然空中に放り投げられて手を離してしまったのだ。手を離した途端裕司の領域魔法から離れ、ついで衝撃を感じ、自分が空中を飛んでいるのがわかったがどうしようもなかった。
このまま地面に激突すれば無事では済まない。思わず目を瞑りそうになるが堪えて落ちて行先を見つめる。運が良かった。木の枝が密集している辺りに落ちて行く。
「わたた、あたた。
いたい、いたい」
枝を掴む、引き剥がされる、掴む、枝に激しくぶつかる。
そして、やっとスピードが落ちてきて、重力落下になり太めの枝に胴体をぶつける。嗚咽を堪えてなんとかしがみつくことができた。
逆さにぶら下がりながら足を枝に絡めて何とか体を支える。胸を打ち付けていたので激しく咳き込む。体勢が悪いのでこの状態も長く続けられそうになかった。周りを見回し状況をつかもうとする。地面までは5mほどある。枝の上に登れないか試そうとするが、身体中が痛く無理そうだった。
この高さから落ちればかなりのダメージを受ける。ぶら下がったまま枝の根元に向かいずりずりと何とか移動する。
幹に頭がぶつかり、意を決して片腕で体を支え斜め下の枝に足を下ろす。何とか移ることができて体を幹で支えることができる様になった。枝を跨いで腰掛け、息を整えこれからのことを考える余裕がやっとできたのだった。
落ち着いて身体中を見回す。あちこちを擦りむいて身体中痛むが幸いにも骨は折れていない。木々の葉の間からわずかに見える空はすっかり夕暮れの色になっており、暗闇がすぐそこまで迫っているのがわかる。
はたと手元にトリガー(例の楽器)がないのに気がつき慌てて周りを見回すが見当たらない。暗くてよく見えないのだ。必死に探してやっと自分のいる枝のだいぶ上の枝に引っかかっているのを見つけた。
「困った。
あそこまで行くのはどうみても無理だ。
だれかあれ取ってくれないかなぁ」
思わず、気持ちが声に出てしまう。声に出したからといって誰かが叶えてくれる訳でもない。
羨ましげにトリガーを見つめどうしようかと考えていると、トリガーの少し上の場所で二つの光る目がこちらを見ているのがわかった。
叫び声を上げそうになるのを口を押さえて無理やり止める。目をこらすと丸っこい輪郭が認識でき、それがフクロウらしいことがわかった。鼓動が跳ね上がる。もし、ヴェガの使い魔のフクロウに見つかったのだとすると相当にまずい状況である。体はすぐには動きそうにない。魔法トリガーは手元にない。ここからの移動もできそうになかった。
焦っていると影が動いてすぐ先の枝に留まる。金色のフクロウだった。ヴェガの使い魔のフクロウではなかったが、油断せずに警戒していると金色のフクロウは枝伝いに歩いてくる。
それとなく見ているとすぐそばまで来たかと思うと首を右に九十度も傾け、戻すとぐるぐる円を描いて回す。どうも機嫌が良いようだ。その後、耕輔を見つめたかと思うといきなり喋りかけてきた。
「あなた。耕輔。矢野耕輔」
突然名前を呼ばれ驚嘆して見つめる。視線を合わせていると脳裏に浮かぶ名前がある。
「川原さん?
玲奈?」
フクロウはさらに嬉しそうになり飛びかかってきた、と肩に留まる。歌うように喋りかけてくる。
「耕輔、耕輔、
やっと気がつく。
玲奈ずっと見てた。ホウホゥ」
それで余裕ができたのか、今日はなんだかいろんなものに留まられるなと、失笑をもらす。とはいえ、なんで玲奈はフクロウなのという疑問が浮かぶ。まさか魔法でフクロウに変えられたのでは?
恐る恐る聞いて見る。
「川原さんはなんでフクロウになってるの。
まさか魔法でフクロウに変えられたの?」
フクロウの玲奈は表情を変えずに返事を返す。
「玲奈は最初からフクロウだよ。
玲奈はここにいるけどいないの」
自分のことを玲奈と呼ぶのはまさしく川原玲奈だと独り言ちるが、いま変なことを言ったのに気がつく。
「川原さんここにいるけどいないってどういうこと」
「わかーんなーい。
でもみんなを見てるよ」
確かに玲奈は不思議っ子だけど、ここまで訳がわからないことはいままでなかった。さらに質問しようとしたが、玲奈は興味を失ったらしく耕輔から離れて枝の先に止まり周りを見ている。
「暗い森
夜の森
フクロウのお庭
ネズミたち油断するな
見つけたら食べちゃうぞ
ホウホウホゥ」
なんだか変な歌まで歌ってる。
これは、普通じゃない——普通ってなんだろうと自問しながら——理由がありそうだ。その時、脳裏にヴェガの占いの結果が浮かぶ『もう一人は元の世界に居るが此処にも居る』もしその通りなら、このフクロウは玲奈の一部?
とんでもない考えが浮かぶが頭を振ってその考えを振り払った。怖かった、残りの玲奈がどうなっているか想像したら。自分が引き起こした事態が、取り返しのつかないことを引き起こしていたら、どうやって償ったらいいのだろう。耕輔は、後悔の海に沈みかけながら必死に自分に言い聞かせていた。
「まだ、そう決まった訳じゃない。いまは考えるのはよそう」




