キヨピオの冒険
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第一章
昔々。
子供の好きなジェッペットじいさんがいました。
しかし、ジェッペットじいさんは子供に恵まれる事がありませんでした。
そんなある日、ジェッペットじいさんは子供の代わりに、木の操り人形を作りました。
「ふぅ。完成したぞ。名前を付けなければ…。そうだな…、ピノキオ…、キノピオ…。いや、キヨピオにしよう！どうだ？いい名前だろう。」
……。
「ふぅ。わしも焼きが回ったか…。明日も早い。そろそろ寝るとしよう。」
そう言って、ジェッペットじいさんはキヨピオを部屋の隅に座らせて寝てしまいました。
キヨピオの眠る部屋に星屑のような光が舞い込み、妖精が現れました。
妖精はキヨピオに持っている杖を振りながら言いました。
「起きなさい、キヨピオ。あなたに声と自由を与えましょう。あなたは自由に動けるのよ。」
杖はさっきと同じ星屑の光を放ち、光がキヨピオを包みました。
すると不思議なことに、木の操り人形であるキヨピオは動き出しました。
キヨピオは甲高い声で言いました。
「あれ？動ける？えっ！？言葉も話せる！」
驚きを隠せないキヨピオは目の前にいる妖精に気付き、尋ねました。
「お姉さんだあれ？」
「私は青い髪の妖精。それより、キヨピオ。私はあなたに声と自由を与えました。あなたは良い子になるのです。お父さん、つまりジェッペットじいさんの話をよく聞くのです。そして、良い子になればご褒美として願い事を一つ叶えて上げましょう。」
「ホントに！？」
「約束しますよ。」
そう言うと、妖精はうっすらと消えて、再び光となって窓から出て行きました。
さて、朝になり、目をこすりながら起き出したジェッペットじいさんに、キヨピオが元気よくあいさつをしました。
「おはよう、お父さん！」
「ああ、おはよう。キヨピオ、もう起きていたのか。…ええっ！！」
キヨピオが動いて声を出していることにおどろいたジェッペットじいさんは、思わずほっぺたをつねりました。
「なんじゃ。キヨピオが動いておる！キヨピオがしゃべっておる！…わしは、まだ夢をみとるのか？」
「お父さん、夢じゃないよ。妖精が僕に声と自由をくれたんだ。それに、良い子どもになったら一つ願い事をかなえてくれるって！」
「おおっ、キヨピオ！妖精様、ありがとうございます！」
ジェッペットじいさんはキヨピオを抱きしめ、それから大喜びで、キヨピオが学校へ行けるように準備をしてくれました。
「では、お父さん。行ってきまーす！」
「寄り道をするんじゃないぞー。」
「はーい！」
キヨピオは初めての学校で廊下の窓から外を見ていた。
始めて家の外に出たキヨピオはすべてが新鮮だった。
外にいる動物達を見て驚いた。
さっきまで多くの動物達が楽しそうに遊んでいると思ったらベルの音が鳴った途端、動物達は校舎の中に走り込んで来て外には誰もいなくなってしまったのである。
キヨピオは自分の家にある、ジェッペットじいさんが作ったという掛け時計を思い出した。
あの時計はベルが鳴ると小人達が出て来て陽気な音楽を奏でながら踊り出すのである。
キヨピオはちょうどその時計と正反対だと思った。
「キヨピオ君。」
不意に声を掛けられ少し驚いたが、そこにいたのは先生だった。先生は人間の若い女の先生だった。
「じゃあ、キヨピオ君。先生が合図したら入って来てね。」
そう言うと先生は教室の中に入って行った。
「はい。みんなー、席に着いてー。今日は昨日言った通り転校先を紹介します。入っておいでー。」
教室の引き戸が開いて、キヨピオが入って来た。
「キヨピオです。よろしくお願いします。」
少し緊張気味に挨拶すると、先生が続けた。
「みんな、仲良くしてね。じゃあキヨピオ君の席は…、コーロギニー君の隣でいいかな？」
キヨピオは先生の指差した方を確認し、
「はい。」
と返事して席に着いた。
すると、コーロギニーから話して来た。
「俺はコオロギのコーロギニー・クリケット。コーロギと呼んでくれ。」
「うん。よろしくね、コーロギ。」
キヨピオやコーロギとは少し離れた席に、ネコとキツネがいました。
ネコは隣のキツネに言いました。
「しかし、転校生が木工細工とは魂消たぜ。」
キツネは答えた。
「まあな。それも生きた木工細工とは…。フフッ。」
「兄貴は怖いぜ。何考えたんですか？」
「放課後。着いて来るか？」
「あたぼうよ。」
放課後、学校にて。
同級生のキツネとネコはキヨピオのところにやって来て、キツネが言いました。
「よぉ、キヨピオ。お前、この辺の事あまり知らないんだろ？」
「うん。」
「だったらよお、俺らが面白い場所を教えてやるよ。」
キヨピオは目を輝かせながら言いました。
「面白い場所！？」
ネコが言いました。
「ああ。面白い場所だぞぉ。」
すると、近くにいたコーロギがそっとキヨピオの背中を上って、耳元まで来て言いました。
「こいつらとは関わるな。」
キヨピオもそっと聞きました。
「どうして？」
「何が何でもだ。」
キツネとネコは詰め寄ってきて言いました。
「行かないのか？」
「後悔するぞぉ。」
キヨピオは答えました。
「ううん。行くよ！」
コーロギは呆れながら言いました。
「どうなっても知らねぇぞ。」
コーロギふて腐れてどこかへ行ってしまいました。
学校を後にしてしばらく経ちました。
ピノキオはたまらなくなってキツネ達に聞きました。
「ねぇ、どこへ行くの？」
するとキツネは答えました。
「見世物小屋さ。」
「見世物小屋？」
「そうさ、君ならきっと、見世物小屋のスターになれるよ」
「えっ、スターに？」
「スターもスター、君は大スターさ。」
「大スターか、学校よりも楽しそうだね。」
キヨピオは、キツネとネコについて行きました。
さて、見世物小屋の親方は人間の男でした。親方はキヨピオを見ると大喜びで、キツネとネコにお金を渡しました。
「さあさあ、世にもめずらしい、自分でうごく人形だよ！」
キヨピオが舞台に出て踊ると、お客さんはしばらくビックリして、その後はわれんばかりの大喝采。
「わあー、ぼくはスターだ！」
キヨピオは嬉しくなって、夢中で踊りました。
そして日が暮れる頃、舞台は大盛況の中、幕を下ろしました。
キヨピオは見世物小屋の親方に言いました。
「今日はとっても楽しかったよ。じゃあもう遅いからバイバイ。」
そしてキヨピオは帰ろうとしまいました。しかし、親方はキヨピオの肩を抑えて言いました。
「待ちな。お前は帰れないぞ。ずっと住み込みで働いてもらう。」
キヨピオは困りました。
早く帰らないとジェッペットじいさんが心配することに気付いたのです。
キヨピオは何とか親方の手を振り払おうとしましたが、人間の男である親方の力には叶いませんでした。例えキヨピオが声と自由を手に入れたところで所詮キヨピオは操り人形。キヨピオの力は人間の子供が持つ力にも満たないのです。
しまいに、キヨピオは親方に殴られてしまいました。キヨピオは、殴った親方もビックリする位、遠くの壁まで飛ばされました。
キヨピオはすっかり伸びてしまい、気が付くと鳥カゴへ閉じ込められていました。
「あーん、どうしよう。家へ帰りたいよー。お父さんに会いたいよー。」
閉じこめられたキヨピオが泣いていると、どこかから声が聞こえました。
「だから言っただろ。」
「誰？」
コーロギがキヨピオの服に付いているポケットの中から出てきました。
「ごめんよコーロギ。さっきの事は誤るから助けてよ。」
「無茶を言うな。俺にもできる事とできない事がある。」
しばらくすると、夜空からスーッと光がさし込み、青い髪の妖精が現れました。
「あらキヨピオ、どうしてこんな所にいるの？寄り道をしない約束は？」
「どうしてって…。」
キヨピオは、本当の事を言ったら、人間の子どもにしてもらえなくなると思い、うそをつくことにしました。
「実は家へ帰る途中、いきなり見世物小屋の親方につかまったんです。」
そのとたん、キヨピオの木の鼻がズンと伸びていきました。
「あれあれ、どうして？鼻が伸びていくよ。」
あわてるキヨピオに、青い髪の妖精は言いました。
「キヨピオ。いま、嘘をつきましたね。あなたの鼻は嘘をつくと、ドンドン伸びていくのですよ。」
「嘘じゃないよ。本当だよ！」
キヨピオがそう言うと、ズンズンと、またまた鼻が伸びてしまいました。
青い髪の妖精は、きびしい顔で言いました。
「いいですか。嘘というものは、一つつくと、新しいうそを重ねてつかなくてはならなくなります。キヨピオ、あなたは良い子に、なりたくないのですか？」
「なりたいよ！良い子になりたい！妖精、嘘を言ってごめんなさい！」
キヨピオが泣きながら叫ぶと、青い髪の妖精は魔法の杖をクルリとふって、のびた鼻を元通りにしてくれました。
そして、キヨピオが閉じこめられている鳥カゴのカギを開けて、言いました。
「助けてあげるのは、今度だけですよ、キヨピオ。がんばって、きっと本物の良い子になるのですよ。」
そう言うと、いつの間にか腰を抜かしていたコーロギに、青い髪の妖精はやさしく言いました。
「コーロギニー・クリケットですね？もしよろしければ、これからもキヨピオが良い子になれる手伝いをしていただけませんか？」
「えっ！わたしの名をご存じで！さすがは青い髪の妖精様。かしこまりました。このコーロギ、キヨピオが良い子になれるよう、頑張らせていただきます！」
「うふふふ。ありがとう」
妖精は微笑むと、星へと帰って行きました。
コーロギはキヨピオをつれて、ジェッペットじいさんの家へ帰りました。
それからキヨピオは、妖精との約束を守って、良い子で楽しくすごしました。
ジェッペットじいさんは、とてもキヨピオをかわいがり、キヨピオもジェッペットじいさんの事が大好きでした。
その日の夜。
例のキヨピオを捕まえた見世物小屋は火事に遭ったそうです。
―第二章へと続く―
第二章
ある日、コーロギはキヨピオに言いました。
「しかし、とんだ災難だったな。アハハ…、面白。」
キヨピオは言い返しました。
「人の不幸を笑うなんて酷いぞ。鳥カゴに閉じ込められた僕の身にもなってくれよ。」
「ああ、悪い悪い。ただ、あの二人が何かやらかすのをずっと待っていた俺の身にもなれよ。」
「どういう事？」
「俺はな、学園新聞の記者なんだ。だけど、近況報告みたいな記事ばかり書いていてもつまらない。やっぱり、新聞の一面を飾るのは不祥事だとは思わないか？ここで本題。あの二人。キツネとネコは共に財閥の御曹子。要するに金持ちのお坊ちゃまということだ。親からどんな教育を受けたのか、あの二人は人を騙す腕は天下一品でな、二人に泣かされた奴は少なくない。ただ、その手口が巧妙で証拠が何一つ残されていない。事実、お前が捕まった見世物小屋が燃えた。」
「あの見世物小屋、火事に遭ったの？」
「そうさ。知らなかったのか？おそらく、キツネとネコの仕業。お前諸共証拠を消すためだろう。『同級生を騙して見世物小屋に売り付けた』なんて世間に知れたら大変なスキャンダルだろうからな。ただ、そうはいかない。俺はふて腐れた振りしてずっとお前の傍にいた。二人が親方にお前と引き換えにお金を貰った瞬間をカメラに抑えている。今回は証拠があるというわけだ。どうだ、面白いとは思わないか？」
「ちょっと、面白そうかも。」
「だろ？」
数日後、学園中にコーロギの書いた新聞の号外が学園中にバラ撒かれました。
新聞にはキツネとネコの悪事が赤裸々に書かれていました。
キヨピオはコーロギに尋ねました。
「こんな事して大丈夫なのか？相手は金持ちのお坊ちゃまなんだろ？」
「大丈夫さ。怖かったら隠れてな。」
《バーン。》
ちょうどその時、教室の扉が勢いよく開かれました。
案の定、怒り狂ったキツネとネコが飛び込んできたのでした。
ネコはぐちゃぐちゃに丸められたコーロギの号外を広げながら怒鳴り付けました。
「これは一体どういうつもりだ！」
コーロギは答えました。
「御曹子様の日頃のご活躍を世に広めただけですが、何か不都合でも？」
「ふざけやがって…。」
悔しそうなネコに代わってキツネが言いました。
「君のような貧民君には理解し難いかもしれないが、世はコーロギ君がしたようなことをプライバシーの侵害と言って罰せられるのだよ？」
「プライバシーの侵害？ああ、額に汗を溜めて生活しているうちに忘れていたよ。確か、権力者がいざというときの為に作った法律だっけ？」
「なるほどね、分かっている様だけど君は少しだけ無知だよ。」
「ところでさ、どうして自分達の行いを広められたことに怒ったの？それとさ、今君達が握っている号外の写真は御曹子の写真。それをぐちゃぐちゃにするなんて、とんだ無礼だよ？」
「……。」
キツネもネコも言い返しませんでした。
《ガラガラ…。》
少し沈黙があった後、教室の扉が開きました。
入って来たのは先生でした。
学園の騒ぎを嗅ぎ付けたのです。
「一体何の騒ぎですか？」
ネコが答えました。
「コーロギが学園新聞にガセネタを書いたんだよ！」
コーロギは言い返しました。
「ガセネタじゃない！二人はキヨピオを騙して見世物小屋に売り付けたんだ。」
先生は怒りました。
「いい加減にしなさい！二人がそんなことするわけないでしょ。とにかくコーロギ君、一緒に職員室まで来なさい。みんな、悪いけどコーロギ君の新聞集めて置いといてくれる？お願いね。」
そう言って、先生とコーロギは教室を出て行きました。
それからしばらく経ってもコーロギは教室に帰って来ませんでした。
コーロギが帰って来るのを待っているうちに下校時間になり、またおじいさんが心配すると思って、帰ることにしました。
帰り道、キヨピオはまたあのネコに会いました。
キヨピオは恐くなって逃げ出しました。
すると、ネコはキヨピオを追いかけて来たではありませんか！
キヨピオは夢中になって逃げているとネコは叫びました。
「待てよキヨピオ！」
構わず逃げました。
しかし、キヨピオはネコに捕まってしまいました。
どんな仕打ちを受けるのかと怯えるキヨピオに対して、ネコは意外な一言を口にしました。
「この前は、悪かったな。」
ネコの言葉にキヨピオは戸惑いました。しかし、ネコは続けました。
「そのさ、お詫びというか…。これやる。」
ネコはポケットからきらびやかな紙切れを取り出しました。
それは『島の遊園地行き』と書かれた乗船券でした。
ネコは言いました。
「最近できた遊園地なんだけどさ、乗り放題・食べ放題らしいぜ。」
「乗り放題・食べ放題！？」
その言葉を聞いて、キヨピオはすっかり機嫌を良くしました。それに安心したネコは続けました。
「そこに行くには一年に一度出港する船に乗らないといけないんだ。その船の乗船券がこれ。ちなみに出港するのは今夜0時だぜ。」
「今夜0時だね。ありがとうネコさん！」
すっかり嬉しくなったキヨピオは踊るように家へ帰って行きました。
家に帰ったキヨピオはジェッペットじいさんを探しましたが、ジェッペットじいさんはいませんでした。
代わりに一枚の置き手紙を見つけました。
『今日は帰りが遅くなる、夕飯は作ってあるから温めて食べること。寝る前は歯を磨いて、早く寝ること。』
キヨピオは置き手紙を読んで、付け足しました。
『今夜0時の船で島の遊園地へ行ってきます。』
書き終えたキヨピオは夕飯を食べて、遊園地へ行く支度をしました。
家を出たキヨピオは、まず港へ向かいました。
港には大きな船がとまっていて、たくさんの子どもたちが乗り込んでいます。
0時になりました。
《ボーッ。》
船が汽笛をならして、海をすべり出しましました。そして、島の遊園地に着きました。
「わーい、着いた、着いた。」
子どもたちは先をあらそって、船をおりました。
観覧車に、ジェットコースターに、メリーゴーランドに、ゲームに、ダンスホールと、ここには何でもあります。
どの乗り物もただで乗り放題、おまけにジュースやポップコーン、アイスクリーム、キャンディなんかのお菓子も、食べ放題なのです。
「あははははっ、楽しいなー！」
キヨピオもいつのまにか、青い髪の妖精との約束やコーロギのこと、そして、大好きなジェッペットじいさんのことも忘れて遊んでいました。
でもそうしているうちに、キヨピオは、まわりの子供たちが次々とロバになっていくことに気が付いたのです。
いいえ、まわりの子供達ばかりではありません、キヨピオの耳もロバの耳になり、おしりからは、しっぽがはえてきたのです。
「どうしよう！」
キヨピオが叫んだとき、追いかけてきたコーロギがようやくたどり着きました。
「キヨピオ！すぐ海に飛びこんで逃げるんだ！ここは悪い大人たちが、ロバになった子供達を売りとばすところなんだ。君は一生、ロバのまま働きたいかい？」
「そんなのいやだ！」
キヨピオ達が海へ向かって走っていると、又してもあのネコに出会いました。
ネコは言いました。
「やあキヨピオ、そんなに慌ててどこへ行くんだ？」
キヨピオの代わりにコーロギが答えました。
「この遊園地から逃げるのさ。」
「そうか、でもそうはさせな…。」
ネコが話している間にキヨピオ達は逃げて行きました。
すると、ネコは二人を追いかけました。
キヨピオは言いました。
「どうしよう…。あいつ足早いんだよ。」
「仕方ない、二手に別れるぞ。南の海岸で落ち合うぞ！」
キヨピオは言われたようにコーロギと別れ一人で走り続けました。ふと、後ろを見るとネコが自分を追って来ています！
キヨピオはこれでもかというくらい精一杯走りました。
しかし、またキヨピオは呆気なく捕まってしまいました。
ネコは言いました。
「俺の父さん達はよぉ、お前等をロバにして高く売りたいんだよ。でもな、コーロギがどこに行ったか教えてくれたら、父さんに無理言ってお前だけは助けて貰えるようにお願いしてやるよ。」
キヨピオは悩みました。
ひょっとしたら助かるような気がしました。
しかし、コーロギの居場所を教えるつもりはありませんでした。
キヨピオは嘘を叫び上げました。
「コーロギはね、あっちに居るんだよ！あっち！僕が指差している山奥！分かる？」
キヨピオが凄い勢いで大嘘をついたものですから、キヨピオの鼻も凄い勢いで伸びていきました。
キヨピオの鼻は目の前のネコを突き倒しました。
キヨピオはネコが倒れたのを見て一安心しました。しかし、自分の伸び切った鼻を見てどうしようかと悩みましたが、不思議なことに鼻は勝手に元の長さに収まりました。
キヨピオは海に飛び込むと、コーロギといっしょに板につかまって、やっとのことで港に帰りました。
「いいかい、キヨピオ。わたしも一緒にジェッペットさんにあやまってやるから、ちゃんと、『ごめんなさい』って、言えよ。」
「うん。ありがとう、コーロギ」
さて、ようやくキヨピオとコーロギが家に帰ってきたのですが、家の中にはジェッペットじいさんがいません。
かわりに、ドアに張り紙がしてありました。
《大切なキヨピオがもどらないので、探しに行きます》
キヨピオとコーロギは家で待ち続けましたが、いつまで待っても、ジェッペットじいさんはもどって来ませんでした。
そしてキヨピオとコーロギは、悪い知らせを耳にしたのです。
それはジェッペットじいさんが、海で大クジラに飲まれてしまったというのです。
「大変だ！ お父さんを助けなきゃ！」
さっそく二人は海へ行き、そして大クジラをさがしました。
しかし二人が大クジラを見つけたとき、大クジラは大きな口を開けて、魚と一緒に、キヨピオとコーロギを飲み込んでしまったのです。
大クジラに飲み込まれた二人は、大クジラの口からおなかの中へと泳いで行きました。
すると、大クジラのお腹の中で、ジェッペットじいさんがションボリと小舟に乗っていたのです。
「お父さん！」
「おおっ、キヨピオ！夢じゃないだろうな、ああ、こっちへおいで。よしよし、お前さえいてくれれば、クジラの中だろうとかまいはしないよ。」
ジェッペットじいさんはキヨピオをしっかりだきしめて、何度もキスをしました。
「ぼくも会えてうれしいよ。でも、クジラの中でもいいだなんてだめだよ。お父さん、家に帰ろう。」
「だが、どうやって？」
キヨピオは、ジェッペットじいさんに言いました。
「舟の中の物を燃やして、煙で大クジラのお腹の中をいっぱいにするんだよ！ そうすれば、大クジラも苦しくなって、口を開けるに決まっているよ！」
「そうか、その手があったか！」
さっそくジェッペットじいさんとキヨピオは、イスやテーブルに次々とランプの火をつけました。
するとたちまち、大クジラのお腹は煙でいっぱいになりました。
やがて煙で苦しくなったのか、大クジラは大きな口を開けると、
「ハァックショーーーン！」
と、大きなクシャミをしたのです。
そのとたん、お腹の中の舟は波と一緒に、ものすごい勢いで大クジラの口から海へと押し流されました。
「やったー！」
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