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届かない聲。伝えたい想い。

自分の声と、心の聲。

作者: 言詠 紅華


 朝の陽射し、澄んだ空、鳥の鳴き声、梢の音。

 見ているもの、聞こえているものは、普通の人と何も変わらない。

 けれど、私には欠けているものがあった。


 ──聴力。


 左側だけが、聴こえなかった。


 *

 *

 *


 遠くから呼ばれたとき。

 何処から呼ばれているのか分からない。

 それでも私は、精一杯周囲を見回して、自分を呼ぶ人の姿を探す。


 隣から話かけられとき。

 真隣にいても、それが左だと言葉を正確に聞き取れない。

 それでも私は、精一杯顔をそちらに向けて、その人の話を聞こうとする。


 話し合いのとき。

 少しでも距離があると、その人の意見が聞き取れない。

 それでも私は、精一杯聞くことに集中して、意見を聞き取ろうとする。



 私の声は、自分にも、彼らにも届く。

 だからこそ、ある程度親しくなった人には、その事を打ち明けて、理解してもらう。

 自分のことを知ってくれている。

 それだけでも、私が安心できるから。


 けれど、そのことを知っている人だけが、自分の周りにいるわけではない。

 話が聞き取れず聞き返すが、それでも聞き取れなかったとき。

 私はもう一度聞き返す勇気が出ない。

 人によっては、聞き返すだけで怪訝そうな顔をしたり、面倒くさそうな態度になったり、口調がキツくなったり。


 ──それが、その様子が、私は怖かった。


 だからこそ、時には聞かれていることが分からないまま適当な返事をしてしまったり、質問には合わない変な返答を言ってしまったり。

 そうすれば人は、当然ながら怪訝な顔をしたり、変な目で見たりする。


 ──それもまた、私にとっての恐怖。



 質疑応答が怖い。

 自分が発表者だったとき、離れた距離から質問されて、聞き取れなかったらどうしよう。

 1回くらいは聞き返しても問題ないと思う。

 でも、それも聞き取れなかったら、どうしよう。

 それがとても、怖い。


 大学の講義ですら、怖い。

 私の所属する専攻は少人数で、話し合い形式での講義が多い。

 先生に何か質問されたとき、聞き取れなかったらどうしよう。

 先生相手に、皆の前で聞き返してもいいのかな。

 先生も専攻の皆も私の事情は知ってるし、きっと聞き返せば応じてくれる。

 でも、聞き返すことに恐怖があるのは変わらない。



 そんな恐怖が、聞き取りに関する恐怖が、毎日のようにある。

 毎日、何かしらのことで不安を覚える。

 たったそれだけのことで?

 そう思うのが普通。

 そしてその意見を否定する気もない。

 だけど、分かって欲しい。



 これが、片耳が聴こえないが故の悩みで。



 片耳が聞こえるが故の不安で。




 私の、心の(こえ)であるという事を。




 *

 *

 *


 片耳が聴こえない。

 それはとても辛いこと。


 片耳だけでも聴こえる。

 それはとても幸運なこと。


 どちらも。

 どちらもだ。

 私は両方の捉え方をしている。


 両方聴こえることが普通。

 だから、片耳が聴こえないのは辛いこと。


 両方聴こえない人もいる。

 だから、片耳が聞こえるのは幸運なこと。


 どちらの捉え方をするのか。

 それは人それぞれ違って当たり前。

 だから、これを読んだあなたがどう感じていても、私は何も思わない。

 自由に感じて、自由に考えて、自由に捉えてほしい。



 それが──文章で伝えることの、面白さだと思うから。



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