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躊躇いがなかったとは言えない、それでも私はその魅力に抗えず、転送装置の中に足を踏み入れたのだ
今、私の目の前には転送装置がある。
この中に入れば今はもう遠く離れたあの場所にきっとたどり着けるのだろう。
でも、この転送装置の中に入ったら最後、二度とここには戻ってこれないかもしれない。
優しい黒猫ちゃんとも会えなくなってしまうかもしれない。
躊躇いがなかったとは言えない、それでも私はその魅力に抗えず、転送装置の中に足を踏み入れたのだ。
なんちゃって。
「おかーさん、みてみてアリス」
「くすっ、なにそれ」
私は転送装置の中に入った私を指差して笑う黒猫ちゃんを見上げた。
手にしているのは携帯電話、動画でもとっているのだろうか。
ちなみにあの時タブレットかと思ったアレは携帯電話サイズだった。
サイズ感がわからん。
それはともかく、私は床に赤いガムテープを貼って作られたサークルの中に入り、黒猫ちゃんに愛嬌を振りまきまくった。
ほら、思う存分私の姿を撮るがいい。
よし、サービスだ、手も振ってやろう。




