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君にさよならを言うまで  作者: のにのと
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初日

 今日は卒業の日。


 駆け足で過ぎていった高校の3年間は、悔しくて、悲しくて、苦しくて、だけどやっぱり楽しくて。


 沢山笑って、沢山喋ったね。

 でも君に、ずっと言えなかったことがあるんだ。


 まあその前に、まずは君との思い出を振り返ろうか。


 ねえ、覚えてる?



 __どんよりとした曇り空の下、まだ咲ききらない桜に迎えられて、私、坂木華蓮(さかきかれん)は今日から、この松陽(しょうよう)第一高校の生徒になる。


「今日から高校生か…華蓮、クラス離れても頑張るんだよ?」


  私の隣にいる少し背が低い(本人も気にしている)女子は、中学からの大親友、浦辺千早(うらべちはや)

 千早は小学校の頃からバスケをしていて、運動神経は抜群。私も高学年からバスケを始めたけれど、千早には追いつけそうもない。私と違って人見知りもしないし、人当たりも良い。こんなこと口に出しては言えないけれど、私は千早という親友を誇りに思っている。

 かなり天然で、たまに言動が意味不明ではあるけれど。

「まだクラス分かんないのに、縁起でも無いこと言わないでよ…本当にそんな気がしてくる」

「そりゃ華蓮と一緒が良いけどさ、6クラスだよ?中学の頃のようにはいかないよ」

 私たちの中学校は生徒が少なく、1学年につき2クラスしかなかった小さな学校だったので、千早とは3年間クラスが同じだった。

 しかしここは高校。1学年に240人ほどの生徒がおり、クラスも多い。さらに同中からこの高校に進学したのは私達2人だけなので、千早とクラスが離れたら私はぼっち確定なのである。


「うわ、混んでるなあー…」

 昇降口前まで来ると、千早の言う通り、貼り出されたクラス名簿を見ようという新入生でごった返していた。

「あ…私3組だ」

 女子の中だと身長が高めな私は、背伸びをしてなんとか坂木華蓮の文字を見つけることができた。

「ほんと?浦辺千早、ある?」

 そう言われ上の方の文字を追っていくと、

「っと………ぁ、あった!!浦辺千早!!」

 4番のところに、その文字を見つけた。

「やった千早、同じクラスだよ…!!」

「本当に!?こういうことってあるんだね華蓮!!」

 本当に奇跡だった。

 番号の関係で席は離れるかな、なんて思っていたら、前から3番目の、列を挟んでまさかの隣同士。これなら授業中でも、全く問題ない。幸運すぎて怖いくらい。

「よかったぁ、ぼっち回避だよ…」

「もう、あたしとクラス違ってたらどうするつもりだったの?」

「休み時間の度に千早のクラス行こうとしてた」

「友達作る気ゼロじゃん!!」

「だって作れないもん…」


 3組の教室にあまり人はおらず、しばらく2人で話していると、

「新井、安藤…井原、あ、俺ここだ。お前どこ?」

 2人の男子生徒が入ってきて、1人が私とは反対側の、千早の前の席で立ち止まる。

「遠田…ここだ」

 もう1人が、千早とは反対側の、私の隣の席で立ち止まる。

 と、千早の隣の方の人が、

「2人も知り合い?俺、二中から来た井原光(いはらひかる)。」

 普通に話しかけてきた。人見知りなんて言葉は彼の辞書には無さそう。

「...あっ俺、遠田善(とおだぜん)です。よろしく」

  もう1人の方、遠田君は私たちの目を見ず、軽く頭を下げて自己紹介をしてくれた。...なんだか自分と同じ匂いがした。

「あたし達一中。浦辺千早です。よろしく!」

 相変わらず物怖じしない千早。私もこんなふうに出来たらいいのに。

「坂木華蓮です」

 やはり目は見れず、サッと小さな会釈をして名前だけを告げた。


 やがて人が増え、担任教師が入ってきて、軽い説明のあと、入学式が行われた。そこはやっぱり自分が知っている場所とは違くて、中学なんかよりも全然広くて、何より人が沢山いて、何故か緊張した。そして改めて、今日から高校生なんだと実感した。

 教室に戻ると、HRということで、

「じゃあ1人ずつ、自己紹介していこうか。じゃあ1番荒井君から。前出てよろしく〜。」

 と担任の川村先生。

 出身中学と、名前と、入ろうと思ってる部活。この3つを言うだけの手短な自己紹介だが、その程度でも私は緊張するもので。

「二中出身、井原光です。バスケ部入ろうと思ってます!よろしくお願いしまーす。」

「一中出身、浦辺千早です。バスケ部入部希望です。よろしくお願いします!」

 ほんとに何で人ってこうも違うのだろうか。どうやったらこんなに堂々とものを言えるのだろう。

 …なんて考えている内に私の番は来て。

「一中出身の…坂木、華蓮です。部活は…バスケ部に入ろうと思ってます。よろしくお願いします…」

 まともに前も見れず、千早と比べるとかなり声も小さかったように思う。席に戻って千早の方を見ると、なんかニヤニヤしてる。

(もう…自己紹介とかいらないよ!!名簿見ろ!!)

 と心の中で精一杯の訴えをしていると、隣の席が空いて、

「えっと…二中出身の、遠田善です。…部活は..バスケ部入部希望です。……あ、よろしくお願いします」

 最後にぺこっと小さく頭を下げて、席に戻ってくる遠田君。白い顔が、少し赤くなっている。

 やっぱり、遠田君は私と同じだった。


 HRが終わって、休み時間に入ると、

「浦辺もバスケ部なんだね、背低いけど…」

「背低いは余計。ていうか井原君だって身長高くはないでしょ」

「浦辺よりは高いけどね〜」

 なんてこった。2人は仲良さげに話しているではないか。

 混ざれそうもなく2人を眺めていると、

「すごいよね、あの2人…」

「へっ」

 遠田君が、話に入れない私を気遣ってか、話しかけてきてくれた。

 ていうか私、「へっ」てなんだ。へって。もっと可愛い反応が出来ればよかった。

「…ふ」

 ほら!!遠田君も少し笑ってるじゃないか!!

「…坂木、って呼んでいい?」

「あ…もちろん」

「俺遠田善だから…好きに呼んで」

「じゃあ、遠田君で」

「おっけ……あ、坂木もバスケ部だよね?」

「あっうん…小5?とかからやってて」

「なんかすごい上手そう、坂木」

「いや全っ然…あ、千早はすごい上手いよ」

 ぎこちない会話でも何とかぽつぽつ続き、私的には大進歩。そのまま高校初日は特に会話も無く、終わった。

 が。

 なんとこの私が、初対面の遠田君、井原君と、連絡先を交換したのだ。某有名SNS。まあ、千早と井原君のついでみたいなものだけれど。

 これって、友達って言っていいのかな。ってほど、会話もしないし、してもそれはそれはぎこちないものだった。


 しかし、この日をきっかけに、4人でつるむことが多くなり、お昼のお弁当も一緒に食べる程の仲となったのだった。

 そして今日は…

「今日の放課後から部活体験かあ…楽しみすぎる!!」

「光お前朝からその話ばっかだな」

「あたしも楽しみ!!あたしは部活やるために学校通ってるから!」

「千早…2週間後テストあるけど大丈夫…?」

 そう、部活体験、仮入部期間初日なのだ。

 私たち4人は最初からバスケ部入部希望なので、初日の今日から仮入部の予定。実を言うと、私も結構楽しみだったりする。


 そして、いよいよ放課後。

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