街へ その2
フゥーーー、ちょっと長くなっちゃったかな?
舗装された街道。その道を一つの馬車が進んでいた。人が行き来するせいか、地面は固く踏みしめられおり揺れたりするなどによるの馬車酔いはなかった。
馬車の周りを武装した少人数の男女。彼らは冒険者であり、この馬車を護衛をしていた。その道中で彼らは暇を持て余していた。
「いやぁ、俺らの出番がほとんどないってのはいいことなのか悪いことなのか分かんなくなりつつあるわぁ〜」
「確かにな、あの人が同行して以来、全部倒していくからな。呆れて何も言えねぇ‥‥」
「まぁ強いというのはいいのことじゃないの、強いという次元を超えてる気がするけどね〜。」
「あれで冒険者じゃないというのが信じられないです。」
遠巻きにたった今また魔獣を倒していく少女を彼らは眺めていた。
ーー
「すまないな、私一人でやってしまって‥‥。」
死屍累々と積み重ねされた魔獣の死体を背後に赤いラインが施されたロングコートを着た赤毛の少女エストレアは馬車の近くで待機していた冒険者たちにそう謝っていた。
冒険者ですらない自分が冒険者を差し置いて彼ら達の糧であるものを奪ってしまったと思っていたのである。
「き、気にしないでください、私たちはむしろ凄いなぁと思っているんですよ。ねぇ、ジッド?」
「ああ、そうだぞ?気にしないでくれ。あのときからずっと助けてもらっているんだ。それに街についたらギルドに登録するんだろ?胸を張るといいぜ?」
ジッドたちは群体鋼毛狼の大群から危機的状況に晒されている時駆けつけてくれたエストレアに感謝していた。もし来てくれなかったらと思うと今更に恐怖がこみ上げるのがわかるぐらいに。
それだけではなく、道中の索敵も夜営の警備も全て彼女がやっていたのである。それに見かねて交代を申し出たものの、眠れないからという理由でやんわりと断られたのである。あのときは群体鋼毛狼の群れの襲われた後だったために遠慮無く休ませてもらったのだが。
討伐された魔獣の剥ぎ取りを終えて、素材をウィーゾフに売るなどして馬車は進んでいく。
途中、盗賊まがいの連中が来ることもあったがその時はエストレアと一緒に倒した。といっても彼女が殆ど倒してしまったが。申し訳なさそうな顔をしているがこれで冒険者ですらないというのが驚きである。
ーー
「もう少しで、ウルマトです。」
御者が教えてくれた通り、前方に壁で囲まれた街が見えていた。距離的には二時間もないだろう。
「ん〜、やっとついたね。街に入ったらどうしようか?」
「アンナ、ついたらギルドに報告だろうが。浮かれるのもいいが勤めを果たせっての。」
「ぶ〜〜〜、ドランのせっかち!ガペット〜なんか言ってやってよ。」
「ふふふ、ドランいじめちゃダメよ?悪〜い子は食べるわよ?」
「「「「 !? 」」」」
とんでもないカミングアウトをかますガペット。阿○さんではない、オネェである。
「ふふ、冗談よ、安心なさい?」
なにを安心するのか、知りたくはない。
「漫才を広げるのはいいが、着いたぞ。ウィーゾフ殿が準備してくれと言伝を貰ってきた。」
馬鹿みたいな空気を破ったのはエストレアである。
「ああ、そうか。すまん、すまん。じゃ検問に行こうか。」
ーー
城塞都市ウルマト。
第二の王都と言われるほど人と活気が溢れる、魔獣に対抗するための城壁に囲まれた街である。
もともとは稀に大森林からやってくる魔獣の暴走に対抗していた町々が合併して生まれたのがウルマトでありまた冒険者ギルドの本部が置かれている場所でもある。
ウルマトは戦略上重要な場所で度々、隣国のファンテリム帝国がちょっかいをだしていた。ただでさえ魔獣に対処している上にちょっかいを出されてはたまったものではないので外から来たものには検査が行われる。といっても"見破りの水晶"と精霊を使って嘘を暴いているだけなのだが。
活気があるためか検問所には多くの商隊や行商人、旅人がいた。
その中にはエストレアが同行していたウズベット商会ウィーゾフの馬車もあった。
検問所では特に問題なく通過できた。ウィーゾフは荷物を運ぶ、ジッドやアンナたちは護衛、エストレアは冒険者ギルドで登録するということが認められたからだが。
「エストさんは確か冒険者ギルドに登録しに行くんでしょ?」
街中に入るなりアンナが尋ねてくる。
「ああ、これから冒険者ギルドに行くつもりだが?」
「なら、私たちと一緒に行きましょ、ギルドの場所分かんないでしょ?ギルドに依頼達成を報告しなければいけないから案内してあげるね。」
「すまない、恩に着る。」
ーー
エストレアはウルマトに来たことはあるがウルマトの冒険者ギルドには来たことがなかった。
そもそも来たというより領主館にいたために街の様子を知らなかったのである。
冒険者ギルドは割とすぐ近くにあった。二階建てで周りをギルドのフラッグがはためいていたのでわかりやすかった。ギルド本部は旧領主館を再利用したものらしく、所々老朽化が見られた。
「ここがウルマトの冒険者ギルドだよ。登録は受付のあの子でできるよ。じゃ私たちは報告してくるね。」
「すまんな、ここで一旦お別れだ。アンナが言った通りあそこで登録できるからな。」
ジッドたちと別れエストレアはギルドの中へ入っていた。
ギルドに入ると酒場と兼ねるように改装しているようであちこちで酒を飲む姿が見える。一度中の冒険者たちはエストレアを見たがすぐさまいつものように酒を煽る。
登録を済ませるために中へ入ったエストレアはまっすぐ受付の女性を目指す。色目を使う野郎共がいたが無視し受付に話しかけた。
「いらっしゃいませ、ウルマト冒険者ギルドにようこそ。見ない顔ですね、ご登録ですか?」
「ああ、登録したい。頼めるか?」
「畏まりました。では登録料として銀貨2枚いただきます。それとこちらの紙に名前と使用する武器、あるいは魔法を大まかでいいので書いてください。それが終わりましたらまた声をかけてください。」
そう言って受付嬢は一枚の紙を渡してきた。
紙には要はスタイルを書けと言っているので格闘戦と書いておく。他には刀やトンファーとかも書きたかったがないので省略する。
書き終えたので受付嬢に渡す。ついでに銀貨2枚も支払う。
「ではこの水晶に手をかざしてください。それでギルドカードが発行できます。」
言われた通りに水晶に手をかざす。淡い光が出ているがこれは情報をまとめているかららしい。
「では明日にはギルドカードは出来ます。ギルドに関して説明はいりますか?」
「頼む。」というと受付嬢は説明してくれた。
「では。ギルドはギルド規則第三条に則って貴方を冒険者として登録します。依頼はギルドカードがないと受けられないので依頼は明日からになります。冒険者はF〜Sまでランクがあり一番下から始めてもらいます。依頼は同ランクと二つ上のランクまでなら受けることが可能です。ランクは依頼をこなすとギルドカードにギルド貢献ポイントが貯まります。これが一定までたまるとランクアップ試験を受けることが出来ます。試験に受かることでランクが一つ上がります。当然、ランクが上がれば上がるほど必要なギルド貢献ポイントは増加します。ここまでいいですか?」
エストレアは頷くと受付嬢はこほんと一呼吸おき説明を続ける。
「なお、依頼に失敗した場合、違約金として依頼の契約料の1.8%を支払っていただきます。支払えない場合は奴隷として売られることもあるので気をつけてください。次に魔獣に関してですがこれは依頼されたことを確実にこなしてください。素材の納品は特に。なお自主的に得た素材はこちらが買い取ることも出来ます。ただしある程度は許容しますが剥ぎ取りの素材はしっかりやってください。でないと買い取らないので。賞金首に関しては賞金首のものであるという証明があれば報酬は渡せます。最後にギルド規則第7条により冒険者同士の争いはギルドは関与しません。互いの責任でお願いします。質問はありますか?」
「特にない。ギルドカードは明日だな?ではこれからよろしく頼む。」
「こちらこそ、私は受付嬢のエリザと言います。何かあれば私に言ってくれればいいですよ。」
とびきりの営業スマイルであった。エストレアは今更ながら賞金首を持っていたことに気づき、エリザに話しかけた。
「実は賞金首を仕留めたのだが、いいか?」
エストレアは麻袋をカウンターに置く。
「賞金首ですか?拝見しても?」
「ああ、構わん。盗賊の首領の御印だが‥‥。どうだろう?」
「確かに‥‥‥、賞金首ですね。堕落の梟の首領ですから‥‥金貨3枚になりますね。どう倒したかお聞きしても?」
報酬は貰えるようだが、今日登録してきた人物が賞金首を倒したことに疑問を抱いたようだ。
「まあ、聞かないことにしましょう。ではこちらが報酬になります。」
エリザから金貨を受け取る。この世界レプラゲイルの通貨はだいたい日本円の価値である。しかし、この世界では一年働いて得る金額は平均して銀貨30枚。よって金貨というのは貴族か高ランクの冒険者が得るものである。それを今日登録してきたルーキーが得る。つまり‥‥‥‥。
エストレアが外に出ようとするとガタイのいい男共三人がエストレアを囲むように遮ってくる。
エストレアは心の中でお約束だなと呟いた。
「おい、ちょっと待てよ。ルーキー。」
ニヤニヤした顔でそう言った。
続く
読んでくださりありがとうございます。しかし、ブクマと総合評価、これ多いと言えるのだろうか?