街へ その1
書けてるんだか書けてないんだかわかんないけど、感想やブクマありがと〜〜
明け方。冷たい風と朝日が岩山の洞窟を照らし吹き抜けていた。大森林の中、いつもなら小鳥が朝のさえずりをしているのだが、その日の朝は生き物の気配がしなかった。森の中は沈黙に包まれ、空気さえも時が止まったかのような静けさがあった。
そんな中、洞窟から一人の少女が出てきた。黒を基調とした赤いラインが入ったロングコートを着込んだ少女。昨夜、盗賊「堕落の梟」を壊滅させたエストレアである。片手には麻袋を引きずっていた。言わずもがな賞金首の御印である。盗賊などの賞金首は本人であることの証明があれば冒険者ギルドに渡して報酬を得られるからだ。
ただしなにも首でなくても、武器や防具などを持って来ればいい話なのだが‥‥。生首は流石に生々しいといいようがなった。
「いい朝だ、今日か明日にはウルマトにはつきたいところだな。さて、おや?」
洞窟のあるところから見下ろしてみると森のひらけたところで魔獣が複数群がっているのが見えた。その中心には一台の馬車。誰がどう見ても襲われているようにしか見えない。襲っているのはランクD”群体鋼毛狼"。単体ならランクDだが群れともなるとランクはBにまでになる。しかも武器を持った、多分護衛と思しき人たちが奮闘しているが劣勢のようである。たかだか複数の護衛と30を超える魔獣の群れ。
論理上、勝てるわけがない。
ランクAやSなど高ランク帯の冒険者なら魔獣の群れなど蹴ちらすことなど造作もないが、エストレアが見た限り、せいぜいランクDかCといったところ。
群れである群体鋼毛狼に相手に冒険者の実力不足である。
「仕方ない、助けるとするか。出来ればウルマトまで連れてってくれれば助かるな。」
エストレアはそこから跳躍して一気に駆け出した。
ーー
いま、俺たちは絶望の淵に立っていた。
今回、商品を積んだ馬車を城塞都市ウルマトまで護衛していくという比較的簡単な依頼だったのだが‥‥実際には30や40では効かないような数の群体鋼毛狼の群れに囲まれていた。
ちなみに馬車の持ち主と御者は馬車の中に避難していた。
「しくったな、すまんアンナ。こんなことになるなら受けなきゃよかったなと思うんだ。」
「ううん、ジッドのせいじゃないよ。誰も予想できないよこんなこと。」
剣士の男ジッドが愚痴をこぼすと、アンナと呼ばれた魔法使いがフォローする。
‥‥どうやら危機的状況でイチャつけるようである。たしかにこういう展開はあるにはあるが‥‥空気読んだ方がいいかもしれない。
「おい、そこのバカップル!!イチャついてねぇでとっとと倒せバカ!」
「「イチャついてなんかないっっ」」
人それをイチャつくという。
‥ナイスツッコミである。ツッコミを入れたのはこのパーティーの僧侶のドランである。僧侶らしく回復をしたりしてこの場を維持していた。
なのにドランはジッドとアンナのいつもの甘ったるい展開を見てしまい、辟易してしまう。なので口調が悪くなるのは間違いはないと思うがやっぱり相変わらずだった。
「若いってのはいいわねぇ〜、でも集中しなきゃダメよ?」
重戦士、ガペット。オネェであるが頼りになる戦士である。
オネェじゃなければ言いよる女はいたかもしれない。
「‥‥‥その口調止めてくんねえか?ドン引きだぜ?」
ドランが呆れた口調でガペットに返事しながら一匹倒していく。
しかし、奮闘していたがあまりにも数が多すぎた。
皆の体力が切れたのも当然だった。最初に限界を迎えたのはアンナだった。魔力が切れて魔法が使えなくなったからである。
「ちくしょう、数多すぎだろ!どうなってやがるんだ!」
「たしかに‥ね!ただ事じゃないわね、これは。」
ガペットが盾で受け止め、ジッドが切る。そんな中アンナに複数接近するのをジッドが察知し
「くそっ、アンナ危ねぇぞ!!」
警告し、声を発するが魔力切れで動けそうもない。
アンナは絶望の顔をした。
(そんな‥‥‥!いや、いや!助けて、ジッド!)
声を出そうとするが恐怖で出なかった。思わず目を瞑った。
しかし、いつまでたっても痛みはこないことに疑問を覚え瞼を開けると、
赤いラインが入ったロングコートを着た、真紅の髪をなびかせた少女が衝撃波と共に群体鋼毛狼を吹き飛ばす瞬間だった。
「ふぅ、間に合ったな。大事ないか?」
ーー
ようやく、現場にたどり着いたときには腰を抜かした魔法使いの少女に複数の群体鋼毛狼が飛びかからんとしていた。よってエストレアがとった手段は体当たりで吹き飛ばすことだった。しかし、これは襲いかかっていた個体のみならず周囲の個体も挽肉にしてしまった。
巻き添えになってないか確認するために後ろを振り返り尋ねた。
「あ、ありがとうございます。で、でもまだ沢山います。あ、あの‥‥その‥。」
どうやら無事だったようで安堵を伺えた。
「気にするな。それよりこれを片付けるのが先だ。」
まだ沢山いるようなので、殲滅することにする。
しかし、エストレアが一歩踏み出したときには群体鋼毛狼は怯えた声を出し逃げ出そうとしていた。
当然逃すつもりはないので、<紅流総合古武術 歩法 天駆 >を使い逃げる群体鋼毛狼の群れに突入する。
<天駆>はようは走る距離を点で捉えそれを1/1000にまで絞り込み、走破すること。これにより限界を超えた走りが実現できる。ルーツは中国拳法の修行がモデルと言われているが詳しくは知らない。
群体鋼毛狼との距離を詰めると回し蹴りを当てる。当てられた個体はミンチになりその衝撃波で逃げた個体ほとんどが死に絶えた。
冒険者たちが苦戦していたこの戦いはエストレアの介入でことなきを得た。しかし彼らはそしてエストレア自身も知らないことだが群体鋼毛狼の群れはエストレアの存在を恐れ逃げ出していたのである。
ーー
「助かったよ、ありがとな。ええと‥‥なんて呼べば?」
「エストだ。たまたま通りかかってな。無事で何よりだ。」
エストレアと言いそうになったが、それを堪えて偽名を名乗ることにした。何せ自分は養子であったが貴族、それも公爵家であったため本名を名乗ればバレてしまうからだ。
「それで、その馬車の護衛だったのだろう?どっちに向かう予定だったのだ?」
「ウルマトだ。まあ色々事情があってな。」
「そうか、なら私も便乗させて貰おうかな。目的地が同じなら大丈夫な気がするが?」
エストレアの目的。それはウルマトの冒険者ギルドに登録を済ましてしかるのちにパンドラに渡ることだった。この馬車がウルマトに向かうならば好都合だったのだ。
すると馬車の中から恰幅のいい男が姿を現した。
「話は聞かせて貰いました。私、ウズベット商会の会頭を務めているウィーゾフと申します。結論から言いますが構いませんよ。あれほどの戦闘能力をお持ちならば頼りになります。むしろこちらからお願いしたいくらいです。」
「そうか、よろしく頼む。」
エストレアを加えた馬車はウルマトを目指して進んでいった。
ギルド関係かくと言いましたが書きませんでした。予告詐欺してすいません。次こそ次こそ冒険者ギルドは出します。