大森林の中で その2
お待たせ〜
満月の夜、薄暗い岩山の中腹。篝火で照らされた洞窟内で男が顔面に拳をくらい吹っ飛ばされる。
「ガッ!?テメェこんなことしてただで済むと思ってんのか!?」
口から血を吐きながら、殴ってきた少女を睨みつける大層な戦斧を持つ男。15、16だと思われる年齢の少女に殴られる屈辱と殴られて痛みを感じたことに疑問を持つことと入り混じっていた。
「知らんな、どんな目に合うのかなんてな。どうせ、ここで死ぬことは変わりはない。」
洞窟内は血と錆とわずかであるが先ほどまで致していた匂いで満たされていた。
篝火と満月の光でほのかに照らされる中、倒れ伏す無数の人影。
すべて男の部下であり、一人の少女に殺されたものたち。
まさに死屍累々。ただひとり生きている男は何故こうなったのかと考えを巡らせた。
事の発端は数時間前に遡る。
ーー ーー
「最近、うまくいかねぇなぁ‥‥。商品になるような獲物もねぇしよ‥‥。」
「最近、規制が厳しくなりやがりましたしね、今代の国王になってからカモにしてた役人が減ってるんでさぁ。」
「ち、あのクソ国王め。俺たちの儲けがなくなるじゃねぇかっ!忌々しい。」
「頭ぁ、流石に開けすぎじゃねぇですかい?酒だって安くないんすよ‥。」
周りから頭と呼ばれている男は大樽の酒を既に4つも開けていた。この酒でさえ、盗賊らしく、獲物を襲いその儲けで得たものである。当たり前だが街には既に指名手配されているためおいそれと買いに行けないのだ。
これでもかつては国内第3位の盗賊だったのだが‥‥いまではすっかりその影はない。
「バーロー、酒を飲まずにやってられっか!おい、お前追加もってこい!グズグズすんな!」
うしろに控えていた奴隷の女に檄を飛ばす。女は身なりがいいとは言えずむしろイメージ通りの奴隷といった感じだ。生気は感じられず、生きる人形のようであった。
「こいつもそろそろ処分する頃か?玩具にするのも飽きたな‥‥。おい、こいつを処分しとけや!」
何人かに引きずられるように奥へ消えた女。奴隷において処分とはどういう意味を持つか想像に難くないだろう。豚の餌か、魔獣の餌のどちらかしかないのだから。
弱肉強食。弱者は強者に淘汰されるのがいつでも変わらぬ真理であった。
そんな頃、獲物探しに出かけていた班の一つが帰ってきたことを伝えられた。どうせ逃げ帰ってきたんだろうと想像していたが、なにやら違うらしく、かなりの上玉が手に入ったとのこと。
どんなものかと様子を見に立ち上がる。
結果的には上玉どころか超上玉だった。
15、16だろうと思われるが十分美しい少女だった。
血で汚れているが白いドレスをきた少女だった。血で汚れていること自体に疑問に思うが気にしないことにした。
燃えるような赤髪の髪に、同じように真紅の瞳。絹のような肌と年相応の体つきに思わず喉を鳴らした。
その魔性の魅力に惹かれたのは自分だけではないと思っていた。
その少女を連れてきた下っ端の部下は探索中、見つけたと言っていた。そいつにはよくやったと褒めてやり、後で酒をくれてやると言っておいた。
まだ戻ってない班がいるが放置しておくことにし、この少女をどう売るかを決めかねていた。
売ればかなりの額が入る、自分たちの性奴隷にすればその美貌が手に入る。
悩んでいる時、少女が初めて声を出した。どうやら自分に話しかけようとしているようなので声を期待しつつ待ってみる。
そして紡がれたのは、
「お前が、この盗賊共の頭か?捕らぬ狸の皮算用はしないことだぞ?」
「あ?なにをいってやが‥‥る?」
次の瞬間には暴風のように何かが洞窟内を満たした。
そして、辺り一帯は血の海になり、自分はその顔に拳をめり込ませていた。
そして冒頭に戻る。
ーー ーー
あの後、わざと生き残らせた盗賊の一人を案内代わりにして森の中を進んでいた。
聞いてみたところ、こいつらは "堕落の梟"といい、確か3年前まで国内で猛威を振るっていた盗賊団の第3位だった気がする。
今代の国王になってから彼らのルートであった官僚が摘発されて、最近は活動が鈍くなっているときいていたが‥‥。
案内させていた男がアジトについたとビクビクしながら教えてくれた。
奥へ入って獲物を捕ってきたといえと指示してやり青ざめた顔でアジトへ入っていく。
なにも知らない生娘を演じていると洞窟内で盗賊の頭領らしき立派な戦斧を持った男が出てきた。
たしか賞金首、"ゴライアス・ブレードル"というやつだったはず。
そんなやつが私をみて品定めし、時に全身を嬲るような視線を向けてくる。
案内役の男に褒美をやるといい、また視線を向けてくる。
金と性欲の入り混じった視線。おそらく金儲けと色欲。顔には出さないが、ひどくおぞましく感じられた。だから、なにか勘違いしている男に思ったことをぶつけてやった。
言うや否や狭い洞窟内を三角跳びの応用で周囲の盗賊たちを蹴散らしていく。技など使う必要すらない。
蹴りを入れるだけで簡単に肉塊に変わっていく。
殴るだけで破裂する。
体当たりすれば挽肉になった。
そして頭を多少手加減して殴った。大きくバウンドして吹っ飛んでいく盗賊の頭領。なにか言っているが、皆殺しにするつもりなので軽くあしらう。盗賊なぞに情けをかけるつもりはないのだから。
時間をかけるつもりはないので、盗賊頭の背後に回り顎と顳顬を手で添えて軽く捻る。
コキンっという音と共に盗賊の頭領は動かなくなった。
動かなくなった頭領を見下ろしていると、突如として今まであった攻撃的な衝動が搔き消えた。さらに瞳も真紅からエメラルドに戻っている。しかし吸血姫としての力の感じは未だある。おそらくは、十分な血を得たことにより渇きが満たされたことで一定になったのだと推測した。
あながち間違いではない。この世界の吸血鬼はある年齢まで人と大差ないがある時期に最初の吸血衝動、渇きがくるのだがエストレアはその時期になるとき致命的損傷を負った。その傷が元で生物の生命本能と吸血鬼の吸血衝動が重なったことで一種のバースト状態になり、吸血衝動の必要とする血液の量の数倍必要としたために一定になるまでかなりの量を摂取する必要があったのだ。
エストレアは 自らの力が一定になったことで一安心した。
ーー
エストレアが洞窟内を探索すると、奇妙な縦穴があった。
人一人やっと通れるぐらいの通路がありツンとした匂いが漂う。
「定番だな、これは。しかし‥は、鼻が曲がるぞこれは。これでは向こうに何があるか確定したものじゃないかっ!」
奥に進むと案の定というかそれ以上であった。
いうには憚れるような惨状であった。何人かの女性は既に死んでいて他は生きる人形のようであった。
転生して女になったといえ、同じ女として嫌悪感と同情が湧いた。しかし、いまの自分では彼女たちを助けられる術は安楽死しかなかった。心にイガが残る思いで彼女たちに眠りを与えた。
別のところを探索してみると倉庫のようなものを見つけることができた。このアジトは蟻の巣のような構造になっており抜け道を含めれば複雑な作りであった。
倉庫には今まで奪ってきた武器や防具が乱雑に置かれており、いつ雪崩れてもおかしくない状態だった。
その中から赤いラインが入った革製のロングコートを発掘した。ただのコートではなく、おそらく魔獣の毛皮を舐めしたコート。たぶん、見るからにCランク魔獣"隻腕戦熊獣。その素材のコート。
腕を通してみると、なかなか着心地が良いので貰うことにした。フードも付いているのでローブもいらなさそうである。
さらに見た目的綺麗な下着とその代えをいくつか見繕って着替える。そしてコートを羽織り、前を止めれば‥‥
「ふむ、なかなか‥‥、以前はコーディネートなぞしたことなかったからな。オシャレかな?」
その場でクルリと回ってみるエストレア。真紅の髪に赤いラインのコートが映える。満月の光に照らされより美しく、見えた。
「後は武器なのだが‥‥、どうもどれもしっくりこないな‥。前世の使ってた武器が恋しい‥‥。」
エストレアの前世、紅 諸葉は生前、二つの武器を使っていた。しかしあるとき知ったのだがこの世界にはその武器はないといわれ落胆したのである。
「刀は無理でも‥‥、せめてトンファーは
欲しいな。街に行けば作ってくれるだろうか‥?」
ちなみにこの大森林の魔獣たちが彼女から逃げるように大移動していた。その先は城塞都市ウルマト。だがまだそれは知る由もないことだった。
続く
こんな武器、防具が欲しいとあればぜひいってくださいね!